発明者とは
発明者の定義・・・発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはならない。
中山信弘『工業所有権法(上)特許法第2版増補版』(東京:弘文堂、2000年)57-60頁。
日本における発明者の決定(特許庁HP)・・共同発明者となるか否かの基準あり
東京地裁 平成30年1月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成27年(ワ)第25780号 特許権を受ける権利を有することの確認等請求事件
平成29年(ワ)第13193号 真の発明者ではない旨の宣誓手続請求反訴事件
発明者の意義について
「ア 発明者の意義について
「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうから(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に関与することを要する。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得なかった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求められる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的,客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要するというべきである。」 地裁 平成13(ワ)7196 特許権 民事訴訟 平成14年8月27日 東京地方裁判所
高裁 平成14(ネ)5077 特許権 民事訴訟 平成15年8月26日 東京高等裁判所
「一般に、発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け、1提供した着想が新しい場合には、着想(提供)者は発明者であり、2新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、 共同発明者である、とする見解が存在する。上記のような見解については、発明が機械的構成に属するような場合には、一般に、着想の段階で、これを具体化した結果を予測することが可能であり、上記の1 により発明者を確定し得る場合も少なくないと思われるが、発明が化学関連の分野や、本件のような分野に属する場合には、一般に、着想を具体化した結果を事前に予想することは困難であり、着想がそのまま発明の成立に結び付き難いことから、上記の1を当てはめて発明者を確定することができる場合は、むしろ少ないと解されるところであ る。」と判示
製剤や化学分野の発明にあっては、機械分野の発明と は異なり、「着想を具体化した結果を事前に予想することは困難」であるところから、提供した着想がたとえ新しくても、それだけで(新しい着想の提供のみで具体化に協力しておらない限り)、発明者と認定できない旨判示した。
★着想とは何か?・・・単なる願望とは区別されるべきと考えます。「空を飛びたい、空を飛ぶ装置を作ろう」は一見課題のように見えるかもしれませんが、単なる願望であり、ここで言う着想とは区別されるべきと考えます。着想とは、空を飛ぶための課題解決へ向けての抽象的アイデアであると考えます。課題の提供・・空を飛ぶには、浮力を得なければならないという課題がある、その課題を解決すれば飛べるのではないか・・という誰も気づかなかった課題の発見と提供。課題解決の方向付け・・鳥の翼をよく見て、その構造を調べてみよう、飛ぶ秘訣が隠れているはずだ。鳥の翼を再現してみはどうか。
ことばの意味辞典
判例研究 真の発明者〜細粒核事件〜 山根崇邦 時井 真
特許法における「発明者(共同発明者)」の意義 弁護士 下田 憲雅