冒認
冒認が認められなかった事案
東京地裁 平成30年1月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
本訴:平成28年(ワ)第18032号 特許を受ける権利帰属確認請求事件
反訴:平成29年(ワ)第32123号 損害賠償請求事件
争点1(被告は原告から本件発明についての特許を受ける権利を承継したか)
25 及び争点2(被告による本件出願が不法行為を構成するか)について
⑴ 前記認定のとおり,本件発明については,原告が従前から研究してきたものの,
自身にはその研究開発を進めていく資金がなかったため,Bの提案により,被告の資
金提供の下で研究開発を行ったものであり,そのなかで本件出願に至っていること,
本件出願の費用も被告が負担したこと,本件出願に当たっては,当初から出願人が被
告とされており,原告は,被告の担当者としてその願書案を何度も確認してコメント
5 を送付したり,本件特許事務所からの質問に回答していること,本件特許事務所から
の最終の願書案の確認依頼についても,原告がBに代わって確認し,出願を依頼した
ことなどが認められる。
このような本件出願に係る出願経過からすると,遅くとも本件出願時までには,被
告は原告から黙示的に本件発明について我が国で特許を受ける権利の譲渡を受け,本
10 件出願を行ったと認められる。
⑵ これに対し,原告は,原告と被告との間の権利関係は,事後的に協議する予定
であった旨主張するが,上記の出願経過からすれば,原告が被告に対して本件発明に
ついての特許を受ける権利を譲渡したことは優に認められ,他方,事後的に協議する
予定であったとする原告と被告との間の合意をうかがわせる証拠は見当たらないか
15 ら,原告の主張は採用できない。また,原告は,特許法に関して疎く,技術的な側面
から明細書の詳細の確認を行ったのみであり,出願人等に関する部分は詳しく見てい
ない旨主張するが,出願人が誰かは特許法について特段の知識がなくとも容易に理解
できる事柄であるから,およそ採用の限りではない。
⑶ したがって,前記説示のとおり,被告は原告から本件発明についての特許を受
20 ける権利の譲渡を受け,本件出願を行ったと認められるのであるから,本訴請求のう
ち,原告が特許を受ける権利を有することの確認請求は理由がない。また,被告によ
る本件出願行為が不法行為を構成することもないから,本訴請求のうち,不法行為に
基づく損害賠償請求も理由がない。よって,原告の本訴請求はいずれも理由がないこ
ととなる。