だから戦略は隠す必要がある。
だから戦略は隠す必要がある。
ところが世の中で「戦略」と呼ばれているものは、あまり隠されていないように見える。
なぜかといえば、それは上場企業が掲げる戦略ばかりが目立つからだ。
上場企業とは、いわばオープンリーチをし続けるかわりに株式市場から資金調達することを許された企業であり、経営者としては最も難しいレベルに到達した人だけが初めて許される行為である。 とはいえ戦略の詳細については事前に競争相手にバレては戦えない。
だから上場企業が外向けに掲げている戦略は、「エコロジー&テクノロジー」とか、「コンピュータ&コミュニケーション」とか、かなりぼんやりしたキャッチフレーズで語られることになる。
これだけを見て、「ああいうのが戦略なんだな」と思ってはいけない。
それは戦略をぼかしてぼかして、なんだかわからなくしたものだ。
実際の戦略とは、もっとずっと泥臭く、具体的なものだ。
そして作戦に至っては、実施するその瞬間まで、だれにも明かされないことが多い。
作戦レベルでは他の作戦の多くは知らされないし、戦術レベルでは作戦の全貌すらも知らされないことは少なくない。敵の捕虜になった場合に作戦が漏れたら大損害が起きるからだ。
これは戦争に限らない。
たとえばジョージ・ルーカスはスターウォーズのエピソード5を撮影するとき、撮影現場のスタッフや出入りの業者から「スターウォーズの新作を撮影している」という情報が漏れることを嫌って、偽の映画を企画し、全員に偽のスタッフジャンパーを着せた。これは作戦を隠蔽するための戦術である。 また、ダースベイダーがルークに向かって「私はお前の父だ」と告白する衝撃的なシーンの撮影では、ダースベイダー役のデイブ・プラウズには「お前の父を殺したは私だ」と言わせ、周囲を欺いた。
戦略がわからないという例で最も有名なのはAppleだ。 Appleはどんな戦略を描いているのか、特に説明はしないし、誰にもわからない。
誰もがAppleの戦略を知りたがり、予想を試みるが、実際にはどういうつもりなのかわからない。
これは戦略として非常に正しい。
しかもAppleは株主にわざわざ戦略をくどくど説明する必要はない。
ただ「iPhoneもMacも売れている。これからも売るつもりだし、売れるだろう」と言い続けるだけでいい。 Appleの戦略の片鱗が見えるのは、彼らがその作戦・・・つまりiPodやiPhoneや新しいOSXを発表したときだけだ。
Appleの戦略は歴史を振り返らないとわからない。
そして振り返ってみると、実に見事な戦略を採用していることがわかる。
これに比べると、ソニーの戦略は恥ずかしいほどにバレバレだった。 聞かれるよりも前に自分で自分がどうしたいのか人に話をしていた。
まったく注目されないような三流企業ならまだしも、ソニーのような超一流企業がそんなやり方をしたら、誰もがことあるごとに妨害することになる。
競争相手に付け入る隙を与え、実際につけ込まれた。
AppleがMac専用だった頃のiPod向けのニッチなiTunes Music Store用に格安で楽曲を提供して欲しいとレコード会社を巡った時、ジョブズがこんな野望を抱いていたと知ったらサインしただろうか。また、仮に知ったとしても信じられなかっただろうし、仮に信じたとしたら、Appleの野望はその場で叩き潰すべきだと考えたかも知れない。悲しいことに幸か不幸か、この時点でAppleを妨害したのはバレバレの戦略を掲げたソニーだけだった。 Appleは、例えば大半の社員でさえ発表の瞬間までiPhoneがどんなものか知らなかったそうだ。
これは社内でも厳しく情報統制がされていることと無関係ではない。