「そうか。わかった。では、戦略、作戦、戦術、兵站、それぞれについて説明してくれ」
「そうか。わかった。では、戦略、作戦、戦術、兵站、それぞれについて説明してくれ」 そうすると、彼らが戦略と呼んでいたものがたいていは単なる戦術や作戦にすぎないことが解る。
兵站(へいたん)については・・・・若い経営者のなかで正しく考えている人を見たことがない。それどころか「兵站」という言葉の意味すらわからない場合が大半だ。
「戦略」とは、もちろん軍事用語である。
戦略を正しく説明するためには、良く似た言葉である作戦と戦術についても理解しなければならない。
そして戦略という言葉はそう簡単に使うべき言葉ではないと知る必要がある。
一般に言われている解釈に依れば、戦略(Strategy)、作戦(Operation)、戦術(Tactics)の順にマクロからミクロへと視点が移って行く。そして戦術に行くほど繰り返し用いる回数が多くなるはずで、戦略は滅多に動かしてはいけない。 たとえば
「今人気のあるこのWebサイトのデザインをもっと改良します」
「先日の展示会であつめた名刺リストに上から順番にアタックしていきます」
というのはひとつの作戦に過ぎない。
戦略とは幾多もの作戦から成り立つもので、単一の作戦に依るものは戦略とは言えない。
また、作戦を実際する現場では、無数の戦術が用いられることになる。
そして作戦、戦術を支えるのが兵站だ。
兵站とは、兵士の食料や武器弾薬の調達、新兵の徴集と教育、各基地間の通信や補給など、具体的な攻撃以外の全てを意味する。しかし軍隊の大半は兵站である。
実際に鉄砲を持ち、航空機で敵陣に攻撃を仕掛ける戦闘員の数倍から数十倍の要員が、基地の設営や食料と弾薬の補給と調達、通信設備の維持といった作業に従事することになる。
イベントに例えてみよう。
「イベントを開催するべきか。いくらの予算をかけて、どんな成果を求めるか」
これを定義するのが戦略。
「いつ開催するか、どこで開催するか、どんなイベントにするか、どこで宣伝するか」
これが作戦
「受付のシステムはどうするか、VIPが来た時には誰が案内するか、講演者の昼食はどうするか」
これが戦術である。
そして兵站とは、作戦に基づいて講演者を集め、交渉し、宣伝を行い、会場を下見し、当日の会場で実際に働くスタッフ(兵隊)を集め、「お辞儀は30度」などと教育し、来場者向けのネームタグをプリンターで打ち出し、お弁当を手配する、つまりイベント当日で直接お客様に触れない仕事全てを意味する。
言うまでもなく、イベントは始まってしまったらどう足掻いても戦略や作戦のミスを取り戻すことはできない。
戦略のミスとは、「このイベントでは期待した成果が得られない」ことであり、作戦のミスとは「イベントにぜんぜん人が集まらない!もっと宣伝に力を入れるべきだった!講演者にもっと魅力ある人物を加えるべきだった」ということであり、これは始まってしまったらどうにも取り返すことが出来ない。要するに後の祭りである。戦争と違うのは、これで命まではとられないということだけだ。
戦術のミスは、現場でいくらでもカバーできる。
戦術とは軍隊でいえば鉄砲の打ち方の問題なので、なんども撃っているうちに兵士が自分で修正することもできるし、監督者がうまく誘導することもできる。
自社で主催するイベントではなく、展示会のようなイベントでは戦略上、作戦上のミスがわかりにくい。
なぜならイベント全体がイベント会社の大きな戦略と作戦のもとで開催されており、単に集客だけみたら失敗することは少ないからだ。
結局、「ビラを配る時はこうしよう」とか、「こんなビラを置こう」とか、戦術面ばかり気にかけることになる。
労働者が担当するのは主に戦術面である。
卓越した労働者が昇進して経営者になったとき、戦略と戦術をよく混同するのはそのためだ。兵站のことなど忘れられている。
営業トークの秘訣や見積書の書き方と価格交渉のスキル、これは戦術だ。
そうした戦術を部下に教える、これは戦術教育なので兵站だ。
誰が何を欲していて、我々は何を提供すべきなのか、それが戦略であり、具体的に何をつくり、いつ発表し、どのように売り込んで行くか、これが作戦だ。
ひとつの戦略を構成する作戦はひとつではない。
全体としての戦略は、できるだけ敵に知られてはいけない。