貴種流離譚
この説話類型の本来の形は、天上もしくは常世(とこよ)の国から人間界に訪れてきた多くの神々の来由(らいゆ)譚を語ることにあった。常世(古代日本民族が永遠の水平線のかなたに存在すると信仰した稔(みの)りと長寿の理想郷)の国から、入口のない中空のうつぼ舟に閉じこもって訪れた人(神)の話に、折口信夫(しのぶ)は「貴種流離譚」と命名した。その本格的な語りは貴人の海辺流離の物語である。貴種流離譚とは - コトバンク 海人部曲の伝承するものとして、海丈部の「ことの語りごと」なる大国主の物語、これに関聯した「天語歌」なる雄略朝の歌々があり、又海の流離譚に縁を持つ、軽ノ太子・軽ノ大郎女の天田振の如きも、其らしいし、万葉・日本紀・常陸風土記に痕を止めた麻績王の海人歌(仮りに命ける)などが其だ。さうして、其系統を襲ぐものとしては、後々まで、日本文学の発想法の一類型とも言ふべきものが、続々として出て来てゐる。即、石上乙麻呂の歌――及び詩――、中臣宅守・茅上郎女の相聞連作、源融・小野篁・在原行平の歌、其から更に源氏物語その他の、貴人流離の物語の人生観を誘導してゐる。 例