2023-11-05のセッションより
一聯の像の流れた後、また土のチェスセットの前に意識が戻って來た。
黑い駒を私が一つ片手に取って擦ると、觸れた所から黃色い乾燥した砂と成って地に降り積もった。
===此處迄前囘===
前略
白い柱は、「其れが解る時、此の祭壇に立つだらう。(其れが解らない時、此の祭壇に立ち得ないだらう。)」と述べる。
赤い圖柱が下がると、私と赤い圖柱は分離してゐる。私は赤い圓柱を後から見てゐる。
===此處迄前囘===
===此處から今囘===
二つ目の黑い駒を手に取ると、其の駒も觸れた所から金色の乾燥した砂と成って地に降り積もった。
地に降り積もった金色の砂は、しかし其處に長くは留まらず、赤い平原を吹く風に吹かれて視野の右斜め奧方向、南の方に向って金色の砂埃に成って飛んで行って了ふ。
三つ目の黑い駒を手に取らうとすると、殘りの駒が總て眞ん中から金色の砂と成って崩れ、砂埃に成って南の空に飛んで行って了ふ。
私達は其の砂を追って南に行かなくては成らない。
私は立ち上がって、步き始めると、赤い圓筒形も動き始める。
先迄チェスを指してゐた赤い土の庇に成った所から出て、赤い窪地の斜面を登って行く。
左手には、黃色い圓筒形を納めた青い金屬のランタンを持ってゐる。
此の金色の圓筒形は金色の砂と同じく私達の行く先を指し示す働きを持ってゐる樣に思はれる。
赤い窪地の斜面を登り切る。
北から南に向かふ赤錆びた線路が、赤い砂礫の平原の眞ん中に眞っ直ぐ延びてゐる。
赤錆びた線路に沿って、南に向って進み始める。
線路は地平線迄續いてゐる。
步いて行く。
赤い砂礫の平原は暑い日差しに照らされてゐる。
日が明るい爲に、ランタンが放ってゐる黃色い光ははっきりとしない。
照り付けられる中を南に向って進んで行く。
時々線路脇にある赤い岩塊の存在が視野の後ろに進んで行く事だけが、私達が前進してゐる事を顯してゐる。
進んで行く内に、綠のレンズが自分を使って道の先を見る樣にと促してきてゐる樣に思ふ。
懷から綠のレンズを取り出して、遠眼鏡の樣にして地平線の先を見る。
見ると、遙か地平線の近くに、橋が架かってゐるのが見える。
あの橋まで進んで行かうと思ふ。
其のレンズで見た事によって、橋が顯れ、其の橋まで向かふ事が出來る樣に成った樣に思はれる。
橋に近付いて來ると、橋は、東から西に向って走る大きな峽谷の上に掛ってゐる事が判る。
橋に近付いて來ると、段々と日は傾き、暑かった氣溫もやや下がって來る。
橋に近付いた事で判ったが、橋は白い石で作られてゐるが、半透明であって、すなはち、半分存在してをり、半分存在してゐない。
そして、切れ掛けの螢光燈が明滅する樣に、時々存在が濃く成り、また存在が薄く成る。
此の儘此の橋を渡る事は出來ない樣に思はれる。
私は念の爲、地面にあった赤い石塊を取って、橋の上に投げて見る。
橋の上の半透明の白い石疊の上に、赤い石が當って轉がって行く。
轉がり終った時、橋は段々と透明に成って行き、すっかり透明に成った所で、橋が消滅した樣に赤い石塊は谷底に落っこちて行く。
石が落っこちて了った後、橋は徐々に色濃く成り、また元の程度の半透明の狀態に戾る。
私はもう少し大きめの石塊を取って、もう一度橋の上に投げる。
同じ樣に石は轉がって行き、止まる。するとまた橋は徐々に透明に成って行き、すっかり透明に成った所で石は谷底に落っこちて行って了ふ。
そして石が落ちて了ふと、また橋は元通りに成る。
どうも此の橋は、上に物が乘ってゐると徐々に透明に成り、乘ってゐた物が落ちた後でまた元通りに戾る、と云ふ性質を持ってゐる樣であった。
私はどうにかして此の橋を渡るか、迂囘出來ないかと思ふ。
谿谷は何處迄も續いてゐて、簡單に迂囘出來る樣には見えない。
また、谷底は何處迄も深く、繩梯子の樣な物で降りられる樣にも見えない。
私が渡り方を考へてゐると、段々と日が落ちて夕方に成って來る。氣溫が下がって來る。
日が落ちて暗く成って來るに連れて、ランタンの黃色い光が目立って來る。
私は、此の橋は一體どの樣に建てられたのだらうかと思ふ。
橋を建てた誰かは、此の橋をどの樣に建てたのだらうか。
全き白い石の橋として建てた後、何らかの不慮の事象によって半透明に成って了ったのだらうか。
それとも、元々半透明の橋として建てられ、渡り方を知ってゐる者丈が對岸に行ける樣に作られたのだらうか。
若し前者なら、何故此の橋は半透明に成って了ったのだらう。其れを知り解決すれば、此の橋を全き橋と成し、渡る事が出來るだらう。
若し後者なら、此の橋を渡る事が出來る資格とは、一體何であらうか。
考へてゐる内に日はすっかり暮れて了った。
ランタンの黃色い燈りが周りを照らしてゐる。
私は、持ってゐる物で兎に角どうにか出來ないかと思ひ、綠のレンズを取り出して、橋を覗き込んで見る。
だが、綠のレンズで覗き込んでも、橋には特に變った樣子は見られない。
其れは矢張り白い半透明の石で作られた明滅する橋であった。
次に、ランタンの燈りで橋を照らして見る。
ランタンの黃色い燈りで照らされた部分は、白い石が其處だけ黃色く見えてゐる。
私は氣に成って、其の黃色く照らされた部分に赤い石塊を置いて見る。
すると、重さを感じた橋はどんどんと透明に成って行きすっかり透明に成って了ったが、黃色い燈りに照らされて黃色く見えてゐる所だけは、白い石の表面が黃色く反射して殘ってゐる樣に見え、そして見よ! 其處の石は置かれた儘落ちずに殘ってゐるのであった。
私がランタンを背中の後ろに隱すと、黃色く見える白い石は見えなく成り、そして赤い石塊は谷底に落ちて行って了った。
すなはち、太陽の無い所で黃色いランタンに照らされてゐる部分だけ、橋が殘ってゐる樣に振舞ふと云ふ事が判った。
私は足元をランタンの黃色い光で照らし乍ら、橋を踏んで見る。
橋はどんどんと透明に成って了ったが、足は落ちずに其處に留まってゐる。
私は愼重に橋を渡る事にする。
うっかり足元を影にして了ふと、落ちて了ふ。
また、一人で渡るのではなく、赤い圓筒形と一緒に渡らなくては成らない。
私は青い金屬のランタンが赤い圓筒形と私の恰度閒に來る樣に氣を付け乍ら、少しづつ橋を渡って行く。
長く大きな橋である。一體どんな科學技術が此の橋をこんなにも深く大きな峽谷に架けたのだらうか。
私と赤い圓筒形は、橋を渡り終へ、對岸に辿り著く。
振り返ると、重さが掛らなく成った橋がゆっくりと透明な狀態から半透明な狀態に戾って行く。
ランタンの御蔭で橋を渡る事が出來た。
===此處迄===
考察
道中に峽谷がある。
イメージに大きな分斷がある?
橋を架ける事は出來たがしっかりした橋を架ける事は出來なかったのか。
存在したりしなかったりする不完全な橋である。
今囘は渡る事が出來た。
橋の意味
分斷された領域は不完全にしか繫げられてゐない、と云ふ意味。
あなたには此方に來る資格があるかな、と云ふ問ひ。
此れは黃金の光を持つ者なら、渡る事が出來る。
どちらかの意味と云ふよりは兩方の意味を持ってゐるのだらう。
ランタンの存在に就いて。
此の金色の圓筒形は金色の砂と同じく私達の行く先を指し示す働きを持ってゐる樣に思はれる。
日が明るい爲に、ランタンが放ってゐる黃色い光ははっきりとしない。
日が落ちて暗く成って來るに連れて、ランタンの黃色い光が目立って來る。
三度も示されてゐる。
此れによって進むのだと云ふ事が何度も示されてゐる。
ランタンが目立つ樣に態々日を暮らして呉れてゐる。
何か恐れてゐないか。
何か不可逆の物を恐れてゐると言っても、何でも恐れてゐる訣ではないので、何らかの或る領域に於ける不可逆を恐れてゐる?
イメージの中ではイメージなので時を遡る事もありうる。
橋は白い石で出來てゐた。
態々「白い」と明言せられてゐる。
白い物は必ず黑い物と對に成る樣に思はれる。
黑い石で出來た橋が實は何處かにあったのか、あるのか、或いは黑い石で出來た別の何物かが此の先にあるのか。
或いは白い石の橋の樣に何らかの試練を成す者として黑い石で出來た何かが顯れるかも知れない。