2023-05-10のセッションより
私は目を逸らして了った事を甚だ悔んだ。
悔んだが、朝は來て了った。
步き出さねば成らない。
===此處迄前回===
朝が來て了ったので、我々は移動を始める事にした。
私、赤い圓筒形、私の右手に持たれた青いランタン、私の左手に染みた紫の水、私の懷に藏はれた綠のレンズは、連れだって、西に向って步き始めた。
暫く進んで行くと、線路が二手に分かれてゐる所に著いた。
一本は眞っ直ぐに西へ。一本は緩やかに左手に弧を描いて南へ進んでゐる。
===セッション前に此處迄進んだ===
サボテンとは別れの儀式も無く、後ろを振り払ふ樣に別れて來て了った。
しかし、
「此の儘進まなくては成らない。」
と云ふ氣持ちがある。
若し、サボテンとの遣り取りが必要なら、私達は將來屹度再會するだらうから、今は進まねば成らない。
線路の分岐點に來ると、
「進路を選擇しなくては成らない。」
と云ふ氣持ちに成る。
進路を選擇出來る、と云ふ氣持ちではなく、選擇しなくては成らない、と云ふ氣持ちに成る。
サボテンと別れた時とも似てゐる。
そして、其れ丈ではなく、進路にある物の豫感と共に、私は
「左に進まなくては成らない」
と云ふ氣持にも成る。
直進する線路は、長い砂漠の先、やがては「都市」に到るだらうと云ふ豫感がある。
曲がる線路は、長い砂漠の先、「祭壇」に到るだらうと云ふ豫感がある。
そして更に、一旦直進するルートを通って都市に辿り著いて了ふと、
都市から戻って來たとしても此の別れ道を見付けられなく成って了ふかも知れない、と云ふ豫感がある。
此れ等の豫感が、私に、左に進まなくては成らないと云ふ氣持ちを起こす。
「〜なくては成らない」に從って進んでも良いのか、と云ふ問ひが起こり、
其れに直ぐに應へられないので、ポーズ、停滯が發生する。
===イメージを再開する===
左に別れた線路に沿って進み始める。
左に別れた線路に觸れようと思ふ。
しゃがんで左手で右側のレールに觸れる。
レールは錆びてゐる。長い間放置されてゐた樣だ。
立ち上がって步き續ける。
少し步くと、線路右手側に古びた小屋が建ってゐる。
小屋は此の分岐點を司る信號所の樣だった。
窗から覗き込むと、一本の錆び付いた轉轍機と、机、寢臺が置いてある許りの殺風景な部屋であった。
しかし、其の殺風景さは實際の私の部屋を彷彿とさせるなと思ふ。
私は思ふ。此の信號所を司ってゐた人は何處へ行ったのだらうか。
かつて此の信號所の仕事に就いてゐた時、其の人は宏漠な砂漠の眞ん中に一人で寂しかったらうな、と思ふ。
暫く小屋の中を觀察してゐると、小屋に入って轉轍機を此方側に切り替へて了はうかと云ふ氣に成って來る。
しかし、そんな事はせずとも、私は左に步いて行けるし、步いて行かなくては成らない、と云ふ氣持ちに成る。
私は小屋を離れ、再び線路に沿って步いて行く。
線路は段々と曲がって行き、南の方を向く樣に成る。
赤い砂漠が廣がってゐる。
空は夏の眞晝の空の樣に青い。
綠のローブを著てゐる身には、段々と日差しが暑く感ぜられる樣に成って來た。
【考察】
鐵道線路と轉轍機。
小學生の時に遊んだゲーム“Gadget – Invention, Travel, & Adventure”がモチーフとして古い。
自分の幼い時には、鐵道に實際に乗る機會はほぼ無かったので、鐵道での都市間移動の原風景は寧ろ此のゲームである。
隕石で線路が破壞され、別ルートを通るために轉轍機を操作するシーンがある。
私は轉轍機を操作しようかと暫し思ふが、結局辭める。
南に來る人は、飽く迄南に來たくて來るのでなくては成らない。西に行きたい人を無理矢理引き込んでもしやうがない。其れはすまじき事だと思ふ。
自分は他の人が南に來なくても南に行く事が出來る。
南と云ふのは、今迄の東西=左右に對して、直行する方向である。
そして、眞ん中、と云ふのは、何があるのか判らない謎めいた領域でもある。
綠の世界が何なのかは判らなかったし、綠の心も其の有樣は謎の儘である。
謎の中に突っ込んで行く。
直ぐには祭壇には著かないだらう。試練が待ってゐる筈である。