弱い紐帯の今
つながっていない者同士をつなぐ「橋渡し」こそが本質である。Sansan株式会社のデータ化およびデータ活用組織、技術本部 研究開発部の研究員、前嶋直樹が解説。
前嶋は大学院時代に社会ネットワーク理論を学び、現在、名刺交換の織りなすネットワークの価値を最大化するためのサービス開発に取り組んでいる。
古い
社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に発表した論文「弱い紐帯の強さ(the strength of weak ties)」
50年前
橋渡し
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AがB-C間を仲介すること
元々この橋渡しに注目していて、これが起きやすいのはどういう条件かって考えたときに「弱い紐帯」に行き着いた
(強いとB-Cも親しくなる)
ロバートさん「いやただの相関関係やろ(強い紐帯でも仲介はありえるし、弱い紐帯でも結束はありえるで)」
社会学者、ロナルド・バートです。バートは、あるつながりが個人やクラスタのあいだを橋渡しするかどうかと、そのつながりが強いか弱いかどうかは、あくまで「相関事象」でしかないと指摘しました(Burt 1992)。
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4パターン考えられるってわけやなsta.icon
バートは、つながっていない者同士にある穴を「構造的空隙(structural holes)」と名づけ、この空隙(くうげき)を活用することで得られる「情報利益」や、空隙を保ったまま互いにつながりのない二者を操作することで得られる「統制利益」など、さまざまな利益が得られることを主張しました。
個人がつないでいる構造的空隙の量を、バートは「拘束度」として数量化可能な形で定式化しました(Burt 1992)。グラノヴェッターの理論を拡張したものですが、ここではつながりの〈強度〉の側面は捨象され、〈構造〉の重要性が強調されています。
構造的空隙の理論にもとづいた実証研究は枚挙に暇がありません。
例えば、構造的空隙を多くもっている社員ほど早期に昇進しやすかったり(Burt 1992)、革新的なアイデアを生み出しやすいことが分かっています(Burt 2004)。
後者はmasui.iconとnishio.iconを浮かべる
橋渡しばっか増やせばいいというものでもない
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自組織内とは一切つながっていないが、他組織とは弱く繋がっている
Bで見ると、組織BはB内では一切繋がってなくて、外とだけ繋がっている
結果、一番多く発生したネットワークの形は、「完全2部ネットワーク」と呼ばれるものでした。仮に全ての人が2つのグループに分かれたとき、グループ内にはつながりは発生していないが、グループ間には可能な数だけ多くのつながりが発生している、という状態です。個人と個人のあいだの距離は非常に近い(最長でも2ステップ)にも関わらず、結束的なつながりが一切存在しないという奇妙なネットワーク構造です。誰かの構造的空隙を減らさない限り、ほかの誰かの構造的空隙が増えない、という状況です。
強いつながりの重要性を説いたクラックハートさん
「強いつながりの強さ(the strength of strong ties)」という論考の中で、「情報利益」という点で弱いつながりの優位性を認めつつも、「フィロス(philos)的な関係性」が、組織内の重大な変化にとって必要不可欠であることを主張しています(Krackhardt 1992)。
これは科学的な分析を可能にするためにクラックハートが用いた定義ですが、いわゆる「親密な友人関係」と同じものを指していると考えて結構です。
コールマン
アメリカの社会学者ジェームズ・コールマンは、「人的資本の形成における社会関係資本」という論文の中で、ゆるやかで開放的なネットワークよりも、緊密で閉鎖的なネットワークの方が、個人の能力やスキル形成にとっては有益であることを示しています。閉鎖的なネットワークは、規範と効果的なペナルティを生み出すためです。
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要するに支配側が繋がっていると支配の統率がしやすい
実際に、カトリック系の高校とそうでない高校では、前者のほうが生徒の中退率が低いという結果が定量的に確認されています(Coleman 1988)。これはカトリック系キリスト教徒の生徒が、教会など学校の外で大人のコミュニティに包摂されており、そこでさまざまな教育を受けることに起因している、とコールマンは主張します。
良くも悪くも結束が強くなって一心同体的になる
一般的に、閉鎖的なネットワークは互いに恩義を感じやすく、他者への期待が醸成され、信頼関係を育みます。開放的なネットワークに比べて、恩義や期待を裏切ったときのコストが互いに高くなるからです。
ウッツィ
ブロードウェイの製作者ネットワークの構造を可視化
https://gyazo.com/84f70a7eb087f8e9ad9d2e7af43e30df
スモールワールド指数が中程度だと一番パフォが高い
高すぎても低すぎてもダメ
製作チーム内のネットワークに対して「スモールワールド指数」を算出しました。これは「クラスタリング係数」というものを「平均パス長」というもので割った値です。
クラスタリング係数は、つながりの密度。いつも同じメンツでつくってると高くなる。
平均パス長は、ネットワーク内の任意ペア間の最短距離の平均値。離れてるメンツがいるほど高くなる。
ピンとこねえな
スモールワールド指数が低くなるパターン
低/高
いつも違うメンツでつくっており、離れてるメンツも多い
高くなるパターン
高/低
いつも同じメンツでつくっており、離れてるメンツも少ない
スモールワールド指数は「代わり映えのしなさ度」であり「似たような奴ばかりいる度」って感じかsta.icon
中程度ということは、ほどほどに違うメンツであり、離れてるメンツもほどほどにいるということ
バランスを保つために、調整が要る
そこで優れた調整役となるのは、全体のネットワーク構造を俯瞰しながら行動する人物です。例えば、結束力の強い集団内部で拙速な合意形成が進んでいることを見て取り、うまく外部の人物とのつながりを作り、早熟な意思決定を防いだり、逆に、多様だがバラバラなメンバー間の結束を「強いつながり」の形成によって促進できたりすることが重要となります。バートは、さまざまな人が行き交う「共通の空間」を作ることで、〈仲介〉と〈閉鎖性〉のバランスを取ることを勧めています。
多様性-帯域幅トレードオフ理論
強い繋がりの方が流れる量はでかいよって話
そう?
ハンセン「強くねえと複雑な情報を渡せねえ」
スタンフォード大学の経営学者モルテン・ハンセンは、「組織内で情報を伝播させるときには、たしかに『弱いつながり』は鍵を握る要素とはなるが、複雑な情報を伝達するには『強いつながり』が必要になる」ことを示唆しています(Hansen 1999)。「強いつながり」の方が、相互のコミュニケーションが活発になるため、複雑な知識を伝達しやすくなると主張します。
リーガンスたち「強いとその分かける時間と動機も増えるからねぇ」
〈結束〉の構造は協調的な規範を育み、個人が時間・エネルギー・知識を相手と分かち合う意欲や動機を増やすためです(Reagans and McEvily 2003)。
ウェグナー「トランザクティブメモリーや。強いと誰がどの情報持ってるかわかるからアクセスしやすいやろ。その分やりとりが増えるねん」 ダニエル・ウェグナーが提示した「交換記憶(transactive memory)」(Wegner 1987)も、帯域幅への影響を想定できます。交換記憶とは、メンバー間の過去のやり取りにもとづき、「誰がどのような知識をもっているか」について組織内で共有された記憶です。緊密なネットワークをもつ集団は交換記憶が濃いので、誰がどういう情報を欲しているか、あるいは誰にどのような情報について尋ねればいいかが容易に分かります。それだけ接触の数は増えて、帯域幅が広くなるのです。
新情報の流通という観点から最適なネットワーク構造
https://gyazo.com/e4b248fa06c3ad044ee63b6a34a6d00b
情報が重複しているほど得られやすい
トピック空間とは、つながりのあいだを流れる情報の種類
一度に伝えるトピック空間が大きい場合、帯域幅の広い〈結束〉の方が、総量としての情報の重複は減り、より価値のある情報を入手できることが想定されます。
たぶん「でかいルートに、でかい情報を一気に送る」方がそれ以外(でかいルートに、小さい情報を何度も送る)よりも効果的ってこと言うてる?sta.icon
リフレッシュレート(「何が価値のある情報か」の変化の短さ)が短い
アラルらは「リフレッシュレート」という概念を使い、価値を生む情報が変化する期間が短いほど、帯域幅の広いネットワークの方が有利に働くことを主張しています。つまり、情報の変化が激しい環境では、〈結束〉の方がより多くの新情報を入手できるということです。
そうなん?直感的にピンと来ねえsta.icon
一度に流れる情報量が多いからキャッチアップしやすい?
橋渡し派と結束派
〈橋渡し〉に富んだネットワークの方が、シンプルな(トピック空間の小さい)情報や、変化のスピードが遅い(リフレッシュレートが低い)情報を得るには有利です。
逆に〈結束〉の方が、複雑な(トピック空間の大きい)情報や、変化のスピードが速い(リフレッシュレートが高い)情報は得やすいということです。
アラルら「なんか今は多様性(橋渡し)マンセーって雰囲気だけど、どっちが重要になるかがそもそも変わるのでは?」
アラルらは組織の情報環境によって、〈橋渡し〉と〈結束〉の最適なバランスは変動することを主張しているのですが、特にこれからの時代は、より多くの人にとって、帯域幅の広い〈結束〉に富んだネットワークの重要性が増してくるのではないかと問いかけているのです。