人月商売(工数ビジネス)は前払いである
工数とか人月商売は非常にわかりづらいので、sta.iconがsta.icon自身のためにとてもわかりやすい解説を書く。 以下はSIerを想定している(が、他の人月商売世界でも当てはまるだろう)。 まずは用語の整理と「見積もり」の意味について
単位
単価 …… 社員1人1時間動かすのに3000円かかる(単価3000円)
人日 …… 社員1人が1日分働く、という単位
人月 …… 人日の月版。社員1人が1ヶ月分働く、という単位
仕事の見積もり
人月単位で行われる
「このシステムをうちでつくるなら30人月かかりますねぇ」
これは社員1人が30ヶ月分働く必要がある、と言っている
満たし方は色々ある
1人で30ヶ月、2人で15ヶ月、10人で3ヶ月 etc
人月だけだと「いくらかかるか」がわからない → そこで単価
30人月のシステム構築があるとする
社員の単価は3000円だとする
1日8時間労働とする
1ヶ月20日とする
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計算できる
1人月にかかる金額は、3000*8*20 = 48万円
30人月だと 48*30 = 1440万円
まとめると
「うちでつくるなら30人月、1440万円かかりますねぇ」
この1440万円はどうやって支払うか?
前払い
この1440万円分働いたという証明はどうやるか?
働いたという事実を記録して、それを計上する
記録をもって「ほらね、 30人月分の時間を費やしてるでしょ?」と示す
工数管理という
社員は日々どの仕事に何時間費やしたか、を事細かに記録する
管理職はちゃんと30人月分費やされてるか監視する
その結果、以下のようないびつな現状が生み出される
社員は所定された時間だけ必ず働かなければならない
40時間くらいで終わったとしても、「1人100時間かける見積もりになってるんだよ!」ってことで、あと60時間は時間かけないといけない
たとえば定時退社で足りない場合、残業や休出をしてでも過ごし続けることになる
あるいは数字をいじって「100時間勤務しましたよ~」ってことにする
こっちは嘘ついてるのでよろしくない
制度上は「1人100時間分前払いしているのにちゃんと使ってない」 → 「金をだまし取っている」となる
コンプラ違反になるレベル
「いや言われた仕事はちゃんと完遂したんだからいいでしょ」は通用しないsta.icon
どの社員でも同じパフォーマンスが出るはずだ、と信じ込まれる
社員1人1時間あたり3000円でーすという発想は、誰でも同じ生産性が出せる(同じ生産性しか出せない)とみなしているに等しい
機械扱いをしている。人間扱いしていない
むやみに人を投入すること(投入することを許してもらえること)が正義となる
前払いされる金額を増やせば増やすほど儲かる
単純な例だが、単価3000円、人件費含め諸経費2000円だとしたら利益は1000円とする
この場合、社員1人を1時間働かせると会社に1000円入る
(前述のとおり前払いだけど)
これは「より多くの社員に、その仕事に費やしてもらう」ほど儲かることに等しい
なんでこんなやり方がまかりとおっているの?結果で見ればいいのではないの?
一言では説明できそうにないsta.icon
以下あたりが絡んでいると考えている
他にもあれば教えてください
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前払いが理にかなったモデルであること
仕事を依頼する場合、どうやってお金を支払うかが問題となる
後払いだとお客さん(払う側)がバックレる恐れがある
前払いだとその心配はないし、その場で収入も入る(資金が増える)ので他の運用とかに回しやすい
その代わりこっちがバックレたら信用もクソもないので、意地でも頑張って成功させる必要がある
しかし「成功」をちゃんと定義して検証するのは難しい
そもそも成功の定義なんて最初はわからないし、あとで変わる
新規ビジネスはまさにそう
正解を誰も知らない。だからこそ素早くつくって検証して、というアジャイルやらリーンやらといったやり方が台頭しているsta.icon
現実的な落とし所は「前払い分ちゃんと働きましたよ」と証明する、くらいじゃないか?
これなら記録して見せればいいだけ
仮にお客さんが納得しなかったとしても「ちゃんと働いてはいるんですよね、はぁ、そうですか、わかりました……」となりやすい
すでに前払いによる会計が成立してしまっている
会社が株主に会計を説明するときに人月を使っているとする
この時点で、会社は人月に頼らないといけない
株主への説明責任は何よりも重い
株主たちもそれで納得して、お金を出してくれている
説明に使う人月を見せないとか、ごまかすとかいったことは論外であるsta.icon
なぜ人月なんて採用したのか → 製造業の指標をそのまま取り入れたから
建築や自動車などの産業の発展は著しい(高度経済成長期とかの話)
そのときに使われていた指標が人月
そういった製造業は、やることもできることも単純だったので、読みやすかった
人月という概念でカバーできた
システムは建物や自動車とは事情がまるで違うのに……
で、一度取り入れてでかくなった組織は、そのやり方を変えるのは難しい