4.4オシロスコープ
本節では,波形観測装置オシロスコープの利用にあたって,あらかじめしておくべき重要な作業である,校正について解説する.
◎オシロスコープとは
オシロスコープは(繰り返しの)波形を画面に表示して見る装置である.
※ディジタル・オシロはワンショットも取れる
繰り返す電気信号,発信回路の状態などの時間軸の電位変化を同期する.
操作は水平方向,垂直方向の調整が主で,同期できれば遅延掃引やカーソル機能などを活用して記録,測定を行う.
具体的な操作方法は各機種のマニュアルをしっかり読むこと.
https://gyazo.com/39a6ff4d843f25b385cff0c82e93a0c5https://gyazo.com/cd5b5edb6ae9737b8081f5a31b05bc98
図4.18 オシロスコープ(左:アナログオシロ, 右:ディジタルオシロ)
◎測定機器には準備が必要
測定機器にはさまざまなものがある.通電のチェックや電池の電圧チェックなどの簡単なことによく使われる小型マルチメータ(いわゆるテスタ),波形観測装置であるオシロスコープ,交流波形の周波数解析を行うスペクトルアナライザ等々,電気電子回路に関する計測器は数多くある.
それら全てについて,測定前に必ず確認しておかなくてはならないことがある.
それが校正(キャリブレーション:calibration)という作業である.
簡単にいえば,測定前にメーターの針を「0(ゼロ)」にしておくということである.
オシロスコープを使用する時には最初に必ず校正をしないと,測定データの信頼性を保証できない.
※30.ディジタルオシロでは自動校正機能等により,狂いは比較的生じにくいが,それでも校正作業は毎回するべきである
オシロスコープは校正用信号を常に自己発信している.この信号を入力して正しく表示されているかをチェックすればよい.
本節では,オシロスコープの校正について解説する.
https://gyazo.com/68fd09b7790674a35eca333e2b7af329
図4.19 校正波出力,プローブ及びオシロスコープ入力等価回路
上図のように,プローブとオシロスコープはそれぞれ C 成分と R 成分を持つので,交流信号に対して各々インピーダンスを生じる.
回路の信号発信部と送信線路およびオシロ入力部でこれを合致させておかないと接続部分で反射を生じ,波形を正しく観測できない.
◎オシロスコープの校正
オシロスコープは,その日の最初に電源を入れる時,機器の向きや場所を移動した時など,計測環境が変わった時,同じ表示ができないことがある.
したがって,その日に電源投入する際には必ず校正する.
校正作業の重要な確認事項は次のとおりである.
※アナログオシロ/ディジタルオシロに共通するやり方である.
※具体的なスイッチやノブの操作は各々のマニュアルをよく読むこと.
1.(校正用信号端子)
オシロスコープ操作面の校正用信号端子(CAL)を確認する.
この端子には校正用信号が常時出力されている.
2.(接続)
校正用信号端子にプローブを接続し,オシロスコープの入力端子の 1 つに入力して同期させる.
※校正信号端子:複数あることもある.どこに接続するかはマニュアルをよく読むこと
※複数 CH ある場合は,操作は 1 チャンネルずつ確実に
3.(ローテーション)
※ローテーションとは画面の回転の意味.
(確認方法) GND 線を表示させ,ビームの水平状態(rotation)を確認する.ビームの左端と右端が同じ目盛であれば OK
(調整方法) オシロのローテーション調整ネジまたはノブを回す.
4.(周波数・電圧)
(確認方法) 校正用信号は 1kHz,0.2V に固定されているので目視で確認する.
※計測機器の使い方の確認にもなる
(調整方法) 調整する必要はめったにないが,必要な場合はオシロの uncal ツマミで調整する.
5.(波形)
校正信号が同期できたら信号の形状で波形の歪みを確認する.
右図4.20 に示す様に,矩形波の立ち上がりと立ち下がりにおいて,もしなまった波形 (undershoot:アンダーシュート) やとがった波形(overshoot:オーバーシュート)といった変形があれば,プローブ根元のトリマコンデンサで調整する.
プローブは必ず 1 本ずつ確認せよ.
https://gyazo.com/1d4f59a37691f13a87ddd9c4c47d7ee8
図4.20 校正波形の歪み
6.(その他)
フォーカス・輝度・左右方向の位置,上下方向の位置等は,測定中に適宜調整する.
例えば,遅延掃引で拡大した波と元の波とはフォーカスが異なるので随時調整する必要がある.
※ディジタルオシロはフォーカスを失うことはほぼない
★ポイント(1)プロープの接地容量に注意★
校正の際に気づく人がいるかもしれないが,プロープは接地容量というキャパシタンスを持っている.
具体的には,本実験で使用しているものでは,
1 倍(×1)設定時: 140pF
10 倍(×10)設定時: 14pF
と仕様書にある.
この切替は,プロープの先に 1 × /10× 切り替えSW がある
※固定のものもある.プローブの付け根(オシロ接続部分)に表記がある
接地容量が多ければ測定値に与える影響も大きくなる.
回路の過渡特性など,計測に精密さが必要な時は,容量の少ない 10× で行うほうがよいといえる.
★ポイント(2)校正はマメに★
測定機器は校正が命といっても過言ではない.
どれほど高精度を誇る機器でも,測定の現場で校正確認できなければ,データの信憑性を保証できなくなる.
測定の状況は変化するから,日時が変化すれば,場所や回路が同じであったとしても,校正はしなければならない.
これはアナログ機器でもディジタル機器でも同じである.
ディジタル機器には自動校正機能があるので,大いに活用すべきだろう.
※自動校正をどこまで信用できるかはよく検討すること
◎遅延掃引機能 (アナログオシロ)
アナログオシロには,同期している波形に対して,現在の同期を保ったまま別の周期で観測する「遅延掃引:delayed sweep」という機能がある.
※ここでは遅延掃引の詳しい原理は省略する
※本掃引が A,遅延掃引が Bという表示が多い.
遅延掃引を使うと波形の急峻な立上りや立ち下がりを大きく拡大し,どのような過渡特性を持つのかを観察することができる.
例えば2値のデジタル信号を観測する場合,理論的には 0 から 1 への遷移状態は瞬間的なものとして考慮しないが,現実に線路を通過する電気信号としての波形は必ずアナログ的な特性をもつ(過渡特性).
遅延掃引機能を使えば急峻に立っている波形を拡大し,過渡状態の詳細を観察できる.
具体的な操作はオシロスコープのマニュアルをよく読み,指導教員の指導をあおぐこと.
◎ディジタルオシロの機能
本実験ではアナログオシロとディジタルオシロの両方を,テーマによって使い分けているが,実際の回路開発や計測の現場においては,ほぼ間違いなくディジタルオシロが使われている.
ディジタルオシロの画面や操作は,アナログオシロとほぼ同じであるが,ディジタルである利点を活かして,アナログでは絶対にできない機能がある.
※ディジタルオシロは独自のデザインも増えているが,基本的な機能操作についてはアナログオシロに似せてデザインしてあることが多い
以下にいくつか挙げておく.
(自動同期・自動スケール:autoscale)
印加された信号にたいして,自動的に周期や電圧を感知し,最適なスケールで表示する.
非常に便利な機能であるが,勝手にスケールが変わってしまうので,表示目盛には注意が必要である.
(波形拡大:magnify)
アナログオシロの「遅延掃引」と同様の機能だが,掃引速度を変えているというよりも,サンプリングしたデータの見せ方を変えているだけと言える.
アナログオシロとは違って柔軟な拡大が可能.
ただし拡大すればするほどディジタルデータ特有のディザ(ギザギザ)が目立つようになる.
(カーソルバーによる波形計測:cursor)
この機能ではディスプレイに複数のカーソルバーが表示され,これを使って画面上で波長や周期をかなり正確に計測することができる.
※カーソル移動は計測者が行うので計測誤差がなくなるわけではない
下の波形停止機能と合わせればかなり精度よい測定が効率的よくできる.
(測定波形の平均化:average)
測定波形が時間によって変化したり細かくぶれることはよくあるが,平均化することにより滑らかで変化の少ない,シャープな波形を観測できる.
ただし平均化しているため時間変化に対する反応は鈍く,リアルタイムな波形ではなくなることに留意しなければならない.
(波形ストップ:stop)
現在同期している波形の,ある瞬間を切り取って停止することができる.
交流回路の測定ではなんらかの要因で,同期できているにも関わらず波形が揺れ動いて観測しにくいことがある.こういう状態はアナログオシロでは観測しづらかったが,これを使えば,鮮明な信号を観測することができる.
(データの2次活用)
多くのディジタルオシロは,データを保存する手段をもっている.
USB メモリに保存してパソコンにコピーできる
USBケーブルでパソコンに接続し,データの保存・閲覧ができる
Bluetooth接続でリアルタイムに観測・測定が可能
など,利便性が上がっているので,用途に応じて利用しよう.
以上,ディジタルオシロの便利な点を挙げたが,便利なことばかりではない.
画面の解像度はアナログの滑らかさに比べるまでもなく粗く,画面の変化に対する反応もアナログに比較すれば鈍い印象をぬぐえない.精密な目視計測にはそれなりの習熟が必要である.
また,多くの桁数の数値が表示されるが,鵜呑みにしてはいけない.
もちろん,ディジタルも解像度を上げてサンプリング速度を上げれば高精度で自然な観測は可能になる.
ただし,当然だが,高解像度で高周波に対応したものは高価(ハイエンド機は数百万~数千万)である.
◎オシロスコープ読み取り時の注意
オシロスコープは機種によって複数の信号波形を表示することができる.
※よく使われるのは2CH.当然CH数が増えれば高価になる
遅延掃引やマグニファイ機能により同期波形の部分拡大が可能である.
こうした便利な機能は大いに活用すればよいのだが,これらは観測スケールが変更される機能なので,縦方向(電圧) でも横方向 (時間)でも目盛の数字の桁や単位が変わる.
特に複数波形を表示している時は,どのCHの波形毎のスケールを必ず確認しよう.
「測定しているCHのスケール,単位,測定値の桁数はどれだ?」を常に意識する必要がある.
測定ミス・エラーを回避するためにも,測定は複数回行い,計測者は交代して複数の人間で確認しあうことを推奨する.