4.3アナログテスタ(2)
ここではテスタでより正確に測定するための注意事項を述べる.
◎表示板の鏡を使った読み取り誤差軽減
目盛を読む視点(角度)がズレると読み取り誤差が発生する(これを視差という).
この視差を軽減するため,表示版にある鏡を用いる.
やり方は簡単で,実物の針と鏡に写った針が重なるように,目盛に対して真正面から見る.
https://gyazo.com/99a992396c210f47e4d22211702c5945
図4.15 テスタ表示板の鏡と読み取り誤差
(読み取り誤差)
読み取り誤差を図4.15 の例を使って説明する.
1. (a) では,針が 2.6 を指しているように見える.しかし,目盛板の鏡に,針の鏡像が右寄りに写っているので2.6は真値ではないことがわかる.
2. (c) のように,左寄りから見ると値は2.8に読めるが,鏡像が左寄りに見えるのでこれも間違い.
3. (b) のように実物と重なって針の鏡像は見えなくなれば,読み取り誤差は最小になる.
さて,この例では,針は最小目盛りに完全には合っていない.この際にどう読むのかを,次に紹介する.
◎最小目盛の 1/10 を目分量で読む
アナログメーターで測定値を精度良く読み取る方法は
「最小目盛の 1/10 を読む」
※最小目盛とは,一番細かい目盛線のこと
図4.15を例にすると,2.4,2.6,2.8と,0.2刻みで目盛りがあり,正しい読み方の(b)で針は2.6と2.8の間で,やや2.6寄りを指している.
これを1/10精度で読むとすると,2.65よりは小さいことは確かなので,2.62か2.63だと見当がつく.
これは目分量なので,2.62や2.63という数値は小数点2桁目に誤差を含む.
しかし逆に言えば,大きく見積もっても2.61~2.64程度の誤差しかない.
この小数点2桁含む数値を,測定における有効数字といい,計測器で測った値がどの桁まで確からしいかを表している.
(ちょうどの値の有効桁)
ところで,正確な読みにより針の指す値が,もしちょうど 2.6 であると読めた場合,有効桁をどこに考えればよいだろうか.
数学的に解釈すれば,2.6 という数字は 2.60でも2.600でも,2.6000でも同じ値である.
しかし,測定値における有効数字として考えれば,その計測器の最小目盛の 1/10 までの精度はあるわけだから,図4.15の目盛りを使うなら,有効桁は小数点2桁,つまり 2.60 とするべきである.
同じ目盛りで針がちょうど 2 であれば,同様に考えて,2.00 と表記する.
有効桁数と,それに対応した測定値の表記を例示しておく.
table:表4.2 測定値とその有効桁数
測定値 有効桁数 科学的記法
2.65 3 2.65
26.500 5 2.6500 x 10
0.0026 2 2.6 x 10^(-3)
2650 4 2.650 x 10^3
◎電圧・電流測定時の0点調節
電圧・電流測定を行う場合も,プローブの先を接触させて0点調整を行う.
この調整には表示板の下にあるメータ零位調整ネジを使う(図4.14参照).
これをマイナスドライバーで左右に回し,微調整する.
★このネジは抵抗値と違って機械的なもので,回しすぎるとメーターコイルを壊しかねない.少しずつ慎重にやること.
※またこのネジで調整しきれないほど針が狂っているテスタは使ってはならない.
◎電圧・電流測定における並列接続と直列接続
直流電圧の測定では測定レンジに注意しながら図4.16 左側のように,回路に対して並列になるように接続する(並列接続).
直流電流測定モード以外の直流電圧,交流電圧,抵抗測定モードはいずれも並列接続で測定する.
https://gyazo.com/059b2f7d633335c1fa01bc9563fffe9d
図4.16電圧/電流測定における並列/直列接続
しかし直流電流はこの方法では測定できない.
直流電流の測定においては,図4.16 右側のように回路の一部を分断してテスタを回路へ直列に挿入する必要がある(直列接続).
回路図では電流測定は図4.16 右上のような表記になり,実際の測定では図4.16右下のように直列接続する.
ただし,測定器を回路に直列接続する場合,以下を考慮しなければならない.
1. 測定器そのものがその回路に与える影響
2. 逆に回路の振る舞い(過電流や逆電流)がテスタに与える影響
これらのリスクを考慮すると,直列接続によって電流を計測するのは避ける方が良いし,実際にもそういうケースは少ないといえる.
特に電流の範囲が未知の回路にいきなり電流計を直接接続ことは絶対に避けるべきである.
電流を測定する代わりに,電圧を測定する方法がある.つまり,測定したい箇所に値の分かっている抵抗を加え,その抵抗の両端電圧を測定する.
この電圧値と抵抗値から,オームの法則による電流を算出できる.
たとえば,1 Ω の抵抗を回路に追加し(1Ωなら回路の動きにあまり影響を与えないと想定),その両端電圧を測定すれば,「電圧値 = 電流値」(抵抗=1だから)とすることができる.
※ただし,1Ωは低抵抗なので,抵抗器は相当な発熱を伴う.熱に強い抵抗器を採用する等の工夫は必要
◎電圧測定レンジごとに異なる内部抵抗
図4.14 の表示板の左下に"20kΩ/V DC" や,"9kΩ/V AC" という表記がある.
これがテスターの内部抵抗に関する情報である.
ここでいう内部抵抗とは、テスターの測定端子からテスター内部を見たときの,みかけ上の抵抗のことである.
各レンジの最大電圧にこの値を掛けると,そのレンジでの内部抵抗が算出できる(表4.1参照).例えば,
3V レンジの直列電圧では,3V × 20kΩ/V = 60kΩ
120V レンジの交流電圧では,120V x 9kΩ/V = 1080kΩ = 1.08MΩ
◎内部抵抗が顕著に影響する具体例
特にアナログテスタでは,電圧測定において,この内部抵抗を考慮することが重要となる.
図4.17 を例に考える.
https://gyazo.com/61ebb00c2341e616ae44a8235ed019ab
図4.17 DC 3V レンジでの直流電圧測定における内部抵抗の顕著な影響
ここでは,100kΩの二つの抵抗 $ R_1,$ R_2 が直列接続され,$ R_2 にかかる直流電圧を調べる.
まず,理論上は,$ R_1 と $ R_2 の抵抗値が等しいため,各々にかかる電圧はどちらも2.5V となり,両者中央の端子 x の電位は 2.5V となるはずである.
図4.17左の測定では,内部抵抗を加味すると,図4.17右のように表せる.
この図では,テスタ内部抵抗$ R_g に流れこむ電流$ I_{R_g} が,被測定対象に影響を及ぼさない――すなわち$ R_gが十分に高いことが望ましい.
しかし,内部抵抗が 60kΩである3V レンジでは,測定値は1.36V 程度になってしまう.
なぜならば,$ R_2 と $ R_g が並列接続されているので,
合成抵抗$ R_2//R_g=37.5kΩ
となり,$ R_2 にかかる電圧も下がる.このとき,端子 x における電位は,
$ V_{CC}\cdot \frac{37.5k}{(100k + 37.5k)}=1.36V
以下に,アナログテスタの各レンジと,計算で求まる端子 x 測定値との関係を示す.
table:表4.3 テスタのレンジと中央点xの電位
レンジ 内部抵抗kΩ 端子xの電位
3V 60k( 3V×20k) 1.36V
12V 240k( 12V×20k) 2.07V
30V 600k( 30V×20k) 2.31V
120V 2400k(120V×20k) 2.45V
600V 12000k(600V×20k) 2.49V
この表より,測定レンジの上限電圧が大きくなるほど内部抵抗が大きくなり,端子 x の電圧測定における誤差が減っていくことがわかる.
例えば 600V レンジだと 0.01V程度の差で2.5V に近づき,内部抵抗による悪影響はかなり軽減されている.
ただし,600V レンジだと,最小目盛が 10V 単位のため,目分量で 2.5V を読み取ることは困難で,読み取り精度は逆に悪くなる.
つまり,なるべく広いレンジで内部抵抗の影響を抑えたいが,読み取り精度はなるべく狭いレンジを選びたいという困難さが,アナログテスタには存在することになる.
いずれにせよ,20kΩ/V 程度の内部抵抗では,100kΩ程度以上の抵抗にかかる電圧を精度良く測定するのは困難だと言える.
ちなみに,ディジタルテスタでは,どのレンジでも,入力インピーダンスが少なくとも 10M Ω程度あるものが多く,狭いレンジでも内部抵抗の影響を少なくして測定が可能である.
※ディジタルテスタには桁数の精度問題が存在するので注意
(LED点灯回路の場合)
図4.18 は,LED 点灯回路の各素子の電圧を測定する例である.
https://gyazo.com/3fc6ae83b06152019729dd8aa6c193c5
図4.18 内部抵抗を考慮した LED 点灯回路の電圧測定
LED は順方向に電流が流れる状態では抵抗値が低く,流れていないときは非常に高い.
$ V_{CC}が低く,LED に電流が流れていない状況では,内部抵抗を考慮すれば図4.18 右側のような測定は避け,左側の測定方法を採用すべきである.
※電流が流れていない(逆電位等)ときのLEDの抵抗値は,100kΩよりもはるかに高い.その場合,LED両端電位を測定するのは意味をなさない
逆に,LEDが点灯している=電流が流れている時には,LED両端を測定するほうが精度が得られる可能性が高い(電流制限抵抗の値による).
同様に,トランジスタの B,C,E それぞれの端子間電圧を測定するときもトランジスタの状態により抵抗値が変化するため,抵抗値が高い状態の端子間では,測定値の信頼性はかなり下がる.
以上,テスタの内部抵抗について検討してきた.
アナログテスタではわかりやすかったが,入力インピーダンスが高いと言われるデジタル計測機器を用いたとしても,状況によっては測定値に影響を与える可能性はゼロにはならない.
一般に,
「計測においては測定系が被測定系に影響を与える」
と心得ておこう.