3.3集積回路(2)TTLとCMOS
◎ディジタル系ICの種類
一般的に,デジタル ICは,TTL と CMOS の二種類に大分類される.
TTL:Transistor-Transistor Logic
TTL以前のDTL(Diode-Transistor Logic)との対比で TTL と呼ばれている.
1961 年に James L.Buie により発明,その後 1966 年にTexas Instruments(TI)社により民生用規格としては初めてのロジックファミリ,7400 シリーズとして発売された.
※7400シリーズは現在も継続している
CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor
※日本語では,相補型金属酸化膜半導体
TTL よりやや遅れて 1968 年,Radio Corporation of America(RCA)社から CMOS ロジックファミリとして CD4000 シリーズが発売された.
TTL より省電力かつ高集積化が可能であるが,開発当初は動作速度が遅かった.
やがて CMOS は速度問題を克服し,1990 年代以降,半導体メモリやマイクロプロセッサなどの論理 ICは,ほとんどが CMOS 構造である
◎TTL と CMOS の違い
半導体の構造上,電荷が運ばれるプロセスには正孔および電子による二種類があり,そのどちらを使うのかで違いがある.
a. 両方を用いるバイポーラトランジスタに基づくものが TTL
b. 片方を用いる MOS-FETというユニポーラトランジスタに基づくものが CMOS
TTL と CMOS の決定的な違いは,駆動方式の違いにある.
バイポーラトランジスタも MOS-FET も,出力電流を制御する機能に変わりはない.しかし電流を駆動する方式が異なる.
a. TTLは電流駆動型
制御極に流れる電流量に応じてトランジスタを流れる電流が変化する
b. CMOSは電圧駆動型
制御極にかける電圧に応じて FET を流れる電流が変化する
以下に両者の特徴をまとめた.ただし数値は典型例であり,この数値以外の製品はある.
table:表3.11 TTLとCMOSの特徴と違い
項目 TTL CMOS
電源電圧 5V±5% 3~6V/15V
入力抵抗 数十 k~数百 k Ω 数十 M~数百 M Ω
動作速度 数 ナノ秒 数十 ナノ秒
◎TTL/CMOS 特徴解説
(電源電圧)
TTLの電源電圧の範囲が狭いのは,電流駆動型は電源電圧の変動の影響を受けやすく,電流が流れなくても流れすぎても正常に動作しないため.
CMOSの駆動電源は一般に広範囲だが電圧幅が小さいものもある.
CMOSは消費電流が非常に少ないため,携帯帯機器で積極的に使用される
(入力抵抗)
TTLの入力抵抗はそれほど高くないため,静電気による破壊にあまり気を遣う必要がないというメリットがある.ただし,入力端子に mA程度の電流が流れ込まないと,正しい信号レベルを認識しない.
CMOS の入力抵抗はハイインピーダンスで,理論上は入力端子を駆動するための電流は必要ないが,実際には若干のリーク(漏れ)電流が流れるため,常時数 µA 流れている.
入力抵抗が高いということは等価回路としてコンデンサと見なせる.つまり静的な電荷が蓄積されやすい.電荷が絶縁限界に達するとパッケージ内部で絶縁破壊が起こり,回路がショートする.このため,CMOSパッケージを取り扱う際には,静電気に留意し,保管の際にも導電性のスポンジに挿すなどの工夫が必要がある.ただし,保護用ダイオードの導入により最近では静電破壊は少なくなった.
(動作速度)
動作速度とは,入力レベルが H と L 間で変化する際の ICの応答時間である.
TTL は開発当初,この点で CMOS より優れていた
CMOS の入力端子はコンデンサと見なせるとしたが,蓄積される電荷による遅延が生じ,TTLに比べて動作速度は圧倒的に遅かった.
その問題を克服したのがハイスピードCMOS である.1970 年代初めに 74HC シリーズや,入力レベルが TTL 互換の74HCT シリーズが登場し,TTL の動作速度に匹敵するほど高速になった†63.
※63 当初は最大 25MHz のハイスピード CMOS は同種の TTL とピン互換にもなった
(その他)
一般にTTL はCMOS に比べて消費電流が大きく発熱も多い.
CMOSは消費電力が小さいと言うが, 動作速度を上げるほど消費電力が増え,発熱もする.
CMOS は定常時には電流がほとんど流れないが,H と L 間で遷移する際には電流が一瞬流れる.それが高速に繰り返されたとき,平均して見ると単位時間での消費電流は増加する.
いずれにせよ集積回路の開発は,消費電力と発熱との戦いである.
コンピュータのCPUやGPUの開発の歴史は,低電力化と発熱対策の歴史だと言ってもよいだろう.
SDG'sが叫ばれる昨今においてはなおさら厳しい開発課題として突きつけられている.
◎ディジタル系 ICの識別名
ICの内部は外から見えない.ICの内部構成を知るには IC表面に記載された識別名を見る必要がある.
ICの表面には,図3.31 のような識別名が記載されている.
https://gyazo.com/d6e61050eb9b122145388ee25d09b0ef
図3.31ディジタル ICの識別名
識別名は以下のように示される.
(1)メーカーを示す記号
(2)シリーズ
(3)ファミリー
※ほかにも H と L があるが現在ではあまり使われない.また,S にはAS(アドバンスト・ショットキー)が改良版として製品化されている
(4)回路の内部構成
(5)パッケージに関する識別記号
◎ディジタルICの集積度クラス
IC一つのパッケージ内にはその中に含まれる素子の数(集積度)に違いがあり,それによりクラスが分かれている.
table:表3.12 ICの集積度クラス
素子数 規模 略称 名称
2~100 小規模集積 SSI Small ScaleIntegration
100~1k 中規模集積 MSI Medium SI
1k~100k 大規模集積 LSI Large SI
100k~10M 超大規模集積 VLSI Very Large SI
10M~ 超々大規模集積 ULSI Ultra Large SI
さらに,2000年代からは主要な機能を一つのパッケージにしたシステムICや,製品に必要なすべての機能を詰め込んだSoC(System on a Chip)と呼ばれる,超多機能ICが開発され,利用が広がっている.
※スマホにはほぼ間違いなくSoCが使われている
参考