3.3集積回路(3)ICの取り扱い
◎DIP型ICの端子番号
図3.32に,NOT ゲート素子を六つ内包する SN74LS04N という TTL ICを例示する.
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図3.32 TTL ICのピン番号とノッチ
識別名の最後に N がつく ICは,両側に足がある DIP(Dual Inline Package)型である.
※通称「ムカデ型」と呼ばれる.ICをセラミックやプラスチックで密封しパッケージの両側に短い接続端子(ピン)を出した形状で,ICの最も一般的な形式
DIP型 TTL には 8~40 ピン程度のものがあり,それぞれのピンは,図3.32左に示したノッチを基準として,1 から順番に反時計回りに番号がふられている.すなわち,ICのノッチのある方を左側にしたとき,ノッチの下側が 1 番で,ノッチの上側が最後のピンとなる.
※ノッチ:IC上部のくぼみによる印.複数ICを使う回路ではノッチを目安にして向きを統一するようにすればわかりやすい
TTL に供給する電源と基準電位となるグランド(GND)の位置は,通常,ピン数を M とすると M/2 番ピンが GND(グランド),M 番ピンが $ V_{CC}のものがほとんどである.
※TTL ICでは電源を $ V_{CC} という記号で表わすことが多く,CMOSICだと $ V_{DD} と記載されることが多い.
◎入出力のロジック判定とノイズマージン
TTL と CMOSでは,下図3.33 のように,入出力のロジック,L もしくは H と判定される電位が異なっている.
※CMOSは,電源電圧の取り扱い範囲が広いため,$ V_{DD} に応じて特性は変化する
この図を見ると,出力側より入力側の範囲が広いことがわかる.
これは,ゲート間の電圧伝送でノイズの影響を軽減するノイズマージンを考慮したからである.
例えば TTL において H として 2.8 V が出力された時,何らかの原因で電圧が下がっても,次の段の入力で 2.0 V より大きければ H と判定される.
逆に L として 出力された電圧が0.4 V として,何らかの原因で電圧が上がっても,0.8 V までなら正しく L と判定される.
図3.33 のケースでは,
出力が H の場合,入力側は $ 2.7-2.0=0.7V
出力が L の場合,入力側は $ 0.8-0.4=0.4V
がノイズマージンである.
一方,74HC04の場合,
出力が H の場合,入力側は $ 4.18-3.15=1.03V
出力が L の場合,入力側は$ 1.35-0.26=1.09V
となっている.
このように,ある程度のノイズや電位の変動を許容できることは,デジタル IC最大の特徴と言える.
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図3.33 TTLとCMOSの入出力のロジック判定とノイズマージン
◎ファンアウト
ICの 1 本の出力ピンが駆動することのできる外部ゲートの数またはそれに相当する回路の入力ピンの数をファンアウトと呼ぶ.
※たとえば「ファンアウト 10」とは,1本の出力ピンが他の ICの入力ピンや外部のゲート回路を合計10本駆動できる
ファンアウトの数と入力ピンの関係は規格を守って使うことが必要である.ファンアウト数を超えた入力ピンを接続すると,各入力ピンにおいてロジック・レベルが不安定になり,回路が誤動作しやすくなる.
(TTLのファンアウト)
TTL のファンアウトは,出力電流を次段のゲートの入力電流で割ることで求められる.
例:下表3.13の74LSシリーズの場合,$ 0.4/0.02 = 20, \ 8/0.4 = 20 と,出力側電流が入力側電流の 20 倍であるため,ファンアウトは 20 となる.
表3.13 74LSシリーズの入出力電流
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(CMOSのファンアウト)
CMOSのファンアウトは,負荷容量($ CL:Capacitor Load)を次段のゲートの入力容量($ C_{IN})で割って求める.
例:$ CL=50pF,$ C_{IN}=10pF の場合,ファンアウトは 5 となる.
※詳細はメーカー公開のデータシートを確認すること
(解説) 例えば 74HC シリーズの場合,入力側電流は最大でも 1µA 程度であり,出力側は H,L ともに 4mA であるため,計算上,ファンアウトは少なくとも 4000にもなる(!)
※CMOSは電圧制御であることを思い出そう
しかし現実には,多くのゲートが接続されると,CMOSの特徴である静電容量が誤動作の原因となる.
これがファンアウトの算出に負荷容量値を使う理由である.
◎使用しないピンの処理(特にCMOS)
何も接続されていない ICのピンは,H が入力されたと同じ状態にある.
しかし,何も接続しない(オープン)ままであると外部環境によるノイズの影響を受けやすく,瞬間的に L になってしまうリスクがある.
AND や NAND ゲートでこの状態が生じると,AND の動作ができなくなる.
※AND の場合,オープンピンが L だと,もう一方のピンに入力されるのが L でも H でも出力は L で,ゲートの意味がなくなる
このためAND/NANDのオープンピンは1~5kΩの抵抗を挟んで$ V_{CC}に接続し, H に固定する.
これをプルアップといい,抵抗をプルアップ抵抗という(図3.34).
※プルアップの代わりに複数の信号ピンを束ねることがある.この場合,入力側は二つのインプット・ピン分の電力を消費する
逆に OR ゲートや NOR ゲートでは,オープンのピンをHのまま放置すると,アウトプットが固定されてしまう(OR → H, NOR → L).
そのため,OR/NORのオープンピンは GNDに接続しておく.
これをプルダウンという(図3.34).
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図3.34 使用しないピンの処理
静電気の影響が懸念される CMOSは,TTL に比べ,オープンピンを放置すると動作が保障されないことが多い.CMOSはプルアップ/プルダウンは必須だと考えおこう.