香本正樹 造形作家|インタビュー
グラフィカルな色づかいと独創的な形態を生み出す新しい「編み物」の世界
鉤針とレース糸を使用して作品制作を行う香本さん。古くからあるレース編みの技法を取り入れつつも、斬新にアレンジを加えた「編み物」の作品は、1年前の『ひとつぼ展』公開審査会で、「増殖するイメージを抱かせる抽象形態がすごくおもしろい」「新しい世界を見せてくれそうな期待を抱かせる」と評価され、見事グランプリを獲得しました。今回のグランプリ個展では、1m30cmにも及ぶ大作にも挑戦しています。何より楽しみながら制作したいという香本さん。編み物との出会いから、その制作の裏側までお聞きしました。
編み物との出会い
アクリルたわしが最初にやった編み物でした。小学生の頃です。結構単純な編み方でたわしになるんです。あと僕の記憶が正しければ、初めて自分で編み方を考えて編んだのはマスク。白い四角を編んで、そこに唇や豚の鼻を刺繍して…。そんなことをやっていた小学生でした。幼稚園の頃から、三つ編みが得意でスズランテープを三本使ってキレイに三つ編みをしていました。たぶん幼稚園で一番うまかったんじゃないかと思います。「テレビチャンピオン」のお菓子作り選手権もすごく好きで、お菓子作りにもはまっていました。卵つかいまくりで(笑)。他にもマスコット人形作りとか、結構そういうことに興味が向いていました。今思うと、親が止めずにやらせてくれたというのが大きいかなと思います。むしろ興味を持ったら本を買ってきてくれたり。美大に進学することも、快く応援してくれました。岡山県だったので、雑誌という情報源がすごく大きくて、当時読んでいた雑誌の影響でプロダクトデザインがやりたくて工芸工業デザイン学科を選びました。入ってからコースを選ぶまでに少し時間があるんです。その頃何がいいかと考えていて、ひたすら一人で街に繰り出していろんなものを見ていたんですけど、自然とジュエリーに興味が湧きました。ジュエリーにも色々な世界があることを知ってすごく面白いなと思って、それで金工を選択したんです。学校では金工の勉強をがんばっています。
応募のきっかけ
大学生になって初めての春休みに時間をもてあましていて、たまたま以前に買っていた糸と鉤針が目に入ったんです。久しぶりにちょっと編んでみたら楽しくて。感覚が残っていたんです。もっと難しいのもやってみようと思ってレース編みを始めました。本に載っているパターンを百個制覇という目標を掲げました。そうするうちに、色を使ってやってみようとかいろいろ遊んでみたくなった。去年の大学の学園祭で友達と何か展示をしようということになって、編み物を出したんです。そうしたら、そこで見た人がおもしろがってくれました。今までは友人にしか見せたことがなかったので、僕の事を知らない人が見たらどう思うかもっと知りたくなって、『ひとつぼ展』に応募しました。表現手段として一般的なグラフィックや絵、彫刻とかの中で、編み物をそれらと一緒に見てもらえたのが嬉しかったです。
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影響をうけるもの
海外のファッションデザイナーでサンドラ・バックランドという方がいて、とてもかっこいいんです。彼女は手編みで洋服を編むんですが、初めて見たときはびっくりしました。ショーなどで発表していて日常で着られるような服ではないんですけど、ものすごく彫刻的な服で、大胆でとてもかっこいい。ファッションは大好きです。雑誌もよく読むんですが、実際に自分の目で色々見ることで、自分に無いものはなんだろうと探します。デザイナーが作ったものも好きですが、その一方で、人が無作為に作りだしたものにも興味をひかれます。変な看板や普通の家の庭にある花壇とか。とにかく街歩きが大好きなので、面白いものに出会うとデジカメで撮りためています。
楽しみながら制作する
編み物の制作の仕方は金工と似ているところもあって、イメージを最初に作って作業を進めることもあるし、成り行きまかせで進める場合も結構あります。編みながら変化をつけていった結果、出来上がった感じです。出来上がった作品の一部分から次のアイデアが浮かぶこともあります。細かい部分からどんどん広げていく感じですね。器用な方かなとは思うんですけど、「器用だね」で感想が終わるのって面白くないということだと思うんです。そこを超えるようなイメージが出てきてはじめて面白みがでてくるのかなって。見て楽しめるという部分はとても大切にしていて、どうやったら面白くなるかに集中しているし、自分自身も楽しみながら制作したいと思っています。もともと編み物自体の表現の幅を広げてみたいなと思って始めたので、いわゆる「編み物」というイメージを覆す作品を作って、たくさんの方々に興味を持っていただけたらとても嬉しいです。
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1987年生。岡山県出身。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科金工専攻在籍。
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