第22回写真「1_WALL」審査会レポート
公開最終審査会レポート
2020.7.30 木
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第22回写真「1_WALL」の公開最終審査会が、7月30日に行われました。「1_WALL」は、一次審査、二次審査を通過した6名のファイナリストが個展開催の権利をかけプレゼンテーションを行い、その場で審査員の審議でグランプリを決定するコンペティションです。グランプリに選ばれた作家には個展制作費として30万円を授与しています。
今回は、新型コロナウイルス感染防止のため、審査会はファイナリスト、審査員のみで行い、その様子をオンラインで配信しました。以下で、その公開最終審査会の模様をお伝えします。
FINALISTS
※プレゼンテーション順・敬称略
JUDGES
沢山遼 / Ryo Sawayama(美術批評家)
姫野希美 / Kimi Himeno(赤々舎代表取締役 ディレクター)
増田玲 / Rei Masuda(東京国立近代美術館主任研究員)
※五十音順・敬称略
審査会当日は、多数の応募者の中から選ばれた6名のファイナリストと5名の審査員が、ガーディアン・ガーデンに集合しました。オンライン配信での開催となったため、一般見学者たちは画面の向こう側で配信を待ちます。そして、ファイナリストによるプレゼンテーションとともに、審査会がスタートしました。
プレゼンテーション&質疑応答
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佐々木香輔「Space」
本作品は、旧日本軍が終戦間際に作り、そのまま使われることなく放置された奈良県の地下壕を撮影したもの。未完であるがゆえに、当時の労働者たちの痕跡が色濃く残っていて、その一部は現在、地震予知研究に利用されている。今回は、カメラを三脚で固定し、同じ場所から何十枚も撮影。それらを合成して1点の作品として制作した。私たちの生活を守るためにある地震予知だが、旧日本軍の基地を転用するという、ある種の暴力が関わっている。この作品を通して、地上で起こった事象を、地下で起こった事象と繋げる。そうすることで「当事者性」という言葉について考えさせることが、この作品のテーマである。個展では、地上に現れた事象の一つである断層を撮影し、作品に加えたい。
Q.沢山:なぜ、写真を合成したの?
A.佐々木:当時の労働者たちが残したつるはしの跡を写すため、逆光で撮影したかった。しかし、普通に撮るとどうしてもライトが写り込んでしまう。そこで、ライトを少しずつずらしながら撮影し、それを合成することでライトの写り込みをなくした。
Q.野口:この撮影場所はどうやって見つけたの?
A.佐々木:山登りが好きで、この辺りを調べていて偶然見つけた。その後、作品のイメージが湧いてきたため、そこからリサーチを重ねていき、今回の作品制作に至った。私にとって、撮影している時よりもリサーチしている時の方が実は大事なのかもしれない。
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伊藤安鐘「終(週)末ユートピア紀行」
今作品を作るきっかけは、去年の4月から社会人生活がスタートし、週末にしか写真を取りに行けなくなったことと、その時は日常から離れた場所へ行きたいと思うようになったため、この活動を始めた。人生の終末にはこういう場所にいたい、というような場所にも出会え、「週末」と「終末」をかけて、このタイトルに。被写体として私が写ることで、これはあなたでもある、ということを鑑賞者に伝えられたらと思っている。これらの作品には、すでにその場所にいた私と、新たにその場所を訪れた私と、二人の私がいる。すでにその場所にいた私は、「やっと来たね、待っていたよ」と、新たにその場所を訪れた私に話しかける。個展では、新たに撮影した作品を追加して、心情に訴えかけるような作品を展示したい。
Q.姫野:展示作品は、どのように選んだの?
A.伊藤:より「終末」のイメージに近く、より日常から離れた場所を撮影した作品を選んだ。
Q.増田:伊藤さんの展示場所は真ん中の天井が下がっているが、それを意図的に使っているように見える。展示場所について、どう感じている? 場所を考慮した展示にしようと考えた?
A.伊藤:個人的には、この場所でよかったと思っている。私の作品は、坂や丘を撮影した写真が多い。それらのイメージや高低差などを、展示場所を使ってよりうまく表現することができた。
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齊藤幸子「Jîn」
埼玉県川口市に住むクルド人たちの、主に若者にしぼって撮影を行った。彼らは、日本の移民政策によって非常に苦しく厳しい生活を強いられていて、本人が望む進学や就職はハードルが高くなっている。撮影する中で、彼らのアイデンティティーや気持ちはさまざまで、「かわいそうな境遇にいる人」という型にはめるべきではないことを知った。彼らは一人ひとり、多様性を持つ、どこにでもいるような人である。そのような気づきから、クルド語で「生きる」「存在」という意味である「Jîn」というタイトルにし、展示作品自体も、彼らがストーリーを持つ一人の人間であるということを示す内容に。展示作品の額縁は、彼らを型にはめている枠として表現していて、その額縁の一片だけ外すことで、彼らを型から解放したいという思いを込めている。個展では、ポートレートの数を増やして彼らの体験談を交えた制作を行い、より彼らの存在を身近に感じてもらえる展示にする予定だ。
Q.姫野:日常生活を写した写真もあるが、彼らとはどのように関わりながら撮影をしたの?
A.齋藤:常に寄り添って撮影をしているわけではない。とてもオープンな人たちで、私の思いを伝え、敬意を払って接していたら撮らせてくれるようになり、その輪も徐々に広がっていった。
Q.増田:人物写真の背景にある道の写真、川の写真、これはそれぞれどういう意味が込められているの?
A.齋藤:彼らの街の象徴的な風景を撮影した写真を選んだ。特に川は、彼らの故郷にもあることと、ビザの関係で川を越えて東京へは行けないクルド人たちがいるということで、外せない場所だった。
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権瓶千尋「How does your body feel?」
制作活動を通して、グローバル社会における所属や帰属の問題、他者とは誰なのか、拠り所やホームといったことを探求している。今回の作品は、約11分の映像作品がメイン。一般的に自分のルーツを語る時に使う国籍や人種、ジェンダーなどをあえて隠し、名前のまだない複雑な他者性に光を当てて制作を行った。以前、イギリスに暮らしていた時、「アジア人女性」というレッテルを貼られたこと、その時に韓国人女性と一緒暮らしていたことで、他者としての自分、主体としての自分、自分の身体性の複雑で曖昧な関係にもう一度迫ろうと思った。個展では、先日日本で出産をしたばかりの知人のスウェーデン人女性を撮影した映像作品と、新作のオブジェを発表する場にしたい。
Q.沢山:イギリスで「アジア人女性」という型にはめられた経験があったとのことだが、それらの経験や今回のテーマと、映像の蘭はどのように結びつくの?
A.権瓶:一緒に暮らしていた韓国人女性が香港にいて、デモのため封鎖されてしまった研究室に蘭を置いていたという話を聞いたのだが、たまたま私の部屋にも蘭があったので、それを起点とした映像作品を作ることで、繋がることができるのではと思ったから。
Q.田中:ルームメイトだった彼女が育てていた蘭を媒介にして映像は始まるが、扱っているテーマは人種だけの問題ではなく、もっと大きなものを扱っているのでは。なぜ、このような作品にしたの?
A.権瓶:テーマ自体はもっと大きな潜在的なものを扱っている。だが、ヨーロッパに行って誰でも自由に発言できる環境に慣れ、その後に母国に帰ってきた時にあまりの違いにショックを受けた。彼女も同じ経験をしていて、そのことを思い出したのがきっかけ。
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薛大勇「私はこうして見つかった」
台湾では、18歳以上の男子に4か月間の軍事訓練に参加することが義務付けられている。私もすでに19歳で、そのうち訓練を受けなければならないことになっている。しかし、2000年代に入って対中関係が改善され、徴兵と平和、戦争と死は、若者にとって結びつかなくなっていて、軍事訓練は「男の成人式」として単なる儀式となっている。そんな中、軍事訓練を目前に控えた私は、薄れゆく危機感の中、国家に命を預けることに戸惑いを感じている。本作品は、暴力装置によって支えられている国家とその一端を担う台湾の国民を可視化する試みである。私は今、報道写真と劇映画が意図せず似てしまうことがある現象に興味を抱いていて、本作品もそのような視点を取り入れている。個展では、日本でサバイバルゲームをしている人たちのポートレートを展示する予定だ。
Q.田中:展示作品は、二次審査までと異なる印象を受けた。展示は至極まっとうな展示方法でシンプルに感じるが、その意図は?
A.薛:ポートフォリオと同じではなく、一列に並べてシンプルに見せるのが良さそうだと思ったので。
Q.姫野:一列に並んでいる写真の中で、一枚だけ植物に隠れて貼られている写真がある。この植物を置き、そこに隠すように展示した写真の意図は?
A.薛:私も半分日本人なのでわかるが、これは日本に住む日本人の鑑賞者にとって他人事。問題として捉えてもらうために、ここだけ目立たせた。
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小松桃子「https:// pesadilla.img」
数年前、海外で暮らす友人が亡くなったのではないかという噂を聞いた。しかし、私はそれを確かめることをせず、SNSに流れてくる有名人や他人の死には常に触れ、最後の瞬間まで覗いていた。そんな風に無自覚に恐ろしいことをしていたこと、大切なものから逃げていたことに気づき、それから日常に溢れる無自覚な恐怖をテーマに制作を行ってきた。今の時代だからこそ起こる生や死、環境、人としての在り方など、時代によって起こる変化に目を向けていきたい。展示作品は、全体的に生と死を表現。真ん中は、私が誕生した時の写真。右側は全て自分の体の一部の写真など、全て私と私に起こった変化などを表現している。個展では、ウイルスや神への信仰など、目に見えないものをテーマにし、展示会とウェブサイトが連動した展示をしたいと考えている。
Q.沢山:ウェブサイトのURLのようになっているこのタイトルは、どういう意味なの?
A.小松:デジタル社会に生きているからこその展示作品を作りたくて、当初はタイトルのURLにアクセスすると、何も映し出されない、どこにも繋がらないウェブサイトを作ろうと思ったため。結局それは今回叶わなかったが、個展では連動させたサイトを作成したい。
Q.姫野:ポートフォリオでも展示の背景に描かれているような絵が独特で、存在感があった。今回の絵も含め、それらと写真の関係を教えて。
A.小松:絵は、小さい頃から見ていた悪夢を描いたもの。絵というイメージ的なものと写真というリアリティーがあるものを組み合わせることで、曖昧さを表現したく取り入れた。
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講評&審議
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佐々木香輔「Space」について
野口「ポートフォリオよりも良い。写真でしかできない作品作りをしている。ただ、プレゼンで作品について喋れば喋るほど、本来の作品の良さから離れて行ってしまった気がする」
田中「野口さんと同じような感覚を抱いた。撮影方法、質感など親和性があるのか、プレゼンを聞きながら多角的に考えていたが、それならもっと別の方法が良いのではと思ってしまった」
沢山「とても見応えのある作品だ。技術的にも高いものがある。一方で、それらがある種の足かせにもなっている。写真が本来持っている造形性や強さが、うまく表現しきれていない気がした」
増田「地下の得体の知れない場所に入っていくという、鑑賞者が最初に感じるべきものが失われてしまっている気がする。テーマも素晴らしいが、もっと写真を信じてほしい」
姫野「増田さんの意見に同感だ。ただ、個展では地上に現れた断層を写すなどと言っていたので、そうなると、佐々木さんの話していたことに説得力が生まれるのかもしれない」
伊藤安鐘「終(週)末ユートピア紀行」について
増田「他のファイナリストが社会的な問題をテーマにしていたのに対し、伊藤さんだけが自分の中での問題をテーマにしている。ある場所に行くとそこに待っている自分がいるなど、自分の中で第三者を作り上げているところなど、なかなかできないことをしている」
沢山「伊藤さんの作品は、今回のファイナリストの中で最も構造的にできている。タイトルやテーマ、展開の仕方全てどれも明快で秀逸だ」
野口「個人的にとても好きな作品。絵作りも上手だし、展示もうまい。単純に良いなと思わせてくれた作品だ」
姫野「終末に自分が見たい風景に旅して、そこにやっと来たね、と語る自分がいるという視点が面白い。とても興味深いし、空間をうまく活用して展示を行うなど、新たな試みをしている」
田中「制作する上で、自分の中に内在している存在を純粋に高め、テーマにしている。普通はとても勇気がいることなのに、彼女はそこに挑戦している。よく仕上がっている作品だ」
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齊藤幸子「Jîn」について
沢山「伝えたいことの要素が多いが、隅々まで確固たる意志が貫かれていて、それを感じられる作品。被写体が将来見た時に思い出せるかどうかも目的の一つとなっていて、単に鑑賞者に向けただけの作品ではない」
姫野「展示作品になって被写体の日常生活の写真が追加され、一人ひとりの重みを感じることができるようになり、すごく良い。要素は多いが、展示の方法としてはよく考えられている」
野口「とても良い作品。齋藤さんの気持ちは一つではない。それが展示にうまく反映されている。1点1点どれも強さがある。ただ、彼らの直筆の言葉が強すぎて、それを入れたことに少しズルさを感じてしまう。」
田中「以前はプレゼンの発言に頼りなさを感じていたが、今回は彼女自身変わったなという感覚がある。この先もっとこの活動を続けることで、もっと良い作品になりそうだ」
増田「ポートフォリオでは被写体の存在、日常などの写真から、揺れ動く何かを感じられていて、それがとても魅力的だった。展示になって要素が整理されたものの、何かが後退してしまった気もする」
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権瓶千尋「How does your body feel?」について
沢山「蘭が重要となっている作品。一度見ただけではわからず、何度か見ることでその内容や意図がわかってくる。単なる私的な話ではなく、話が展開していく、その広がり方が面白い」
田中「蘭というモチーフを選び、自身が受けた文化の違いみたいなものをどうやって受け止めるかという話を、アジア人であるルームメイトと対話しながら紐解いていく、という構造が面白かった。ただ、映像の編集はかなりきっちりしているのに、展示方法がもったいないと感じた。」
増田「彼女がやりたいこと、語りたいことはわかるが、頭で考えていることと身体がずれてしまっているような感じを受ける。今回はまだ整理がついていない部分も。ただ、関心を引かれる作品だ」
野口「魅力的な映像作品。11分間という短くはない時間なのに、最後まで見てしまう。ぜひ続きが見たい。ただ、このコンペに出品するべき作品なのかと疑問を感じてしまった」
姫野「いろんな要素が織り込まれた作品。元ルームメイトの友人と自分との関係を蘭を通して表現しているところなど、ユニークで惹かれるものがあった」
薛大勇「私はこうして見つかった」について
沢山「深刻な問題をテーマにしておきながら、写真の中の自分は隠れておらず、とてもコミカル。今の台湾の軍事訓練の問題をうまく表現している」
姫野「ポートフォリオを見ていた時の方が面白かった。作品はコミカルであると同時に不気味な力があるような気がして、とても強い作品で、奥が深い。タイトルの付け方もいい」
野口「彼の作品は、こういった会場での展覧会というが本当に合っているのか、もっと彼の作品の魅力を伝える手段があるのではないかと思ってしまった」
田中「シンプルな展示なのでプリントに目がいくが、妙にフォーマットに納めた印象になってしまった。もっと違った形での展示をみたかった。植物とその後ろの写真もサイズ感がもったいない」
増田「これから軍事訓練に行かなければならない当事者と思えないほど、この状況を客観的に見ている。自分で限界を決めてしまっている節があり、もっと何かできるのではと思ってしまう」
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小松桃子「https:// pesadilla.img」について
姫野「とても面白い。だが展示作品は、追いかけたい要素を意図的に整理してみた、という感じで押し込めてしまっている気がする。個展でのウェブサイトと連動させるというところに期待」
野口「小松さんはもっと、納まらない何かが溢れている人という印象だった。それなのに、展示作品の中に小さく納めてしまっている気がする。写真一枚一枚に強さがあるので、もったいない」
増田「独特な身体性を持っていて、面白い。ただ、なんとなく無機的な感じもする。それがどこから来ているのかは、まだわからない」
田中「展示作品はしっかりと整理されている。彼女はバランス感覚が良いようだ。不思議な質感があって、そこに惹かれる」
沢山「やりたいことがはっきりとあるのだと思う。でも、それが一番表現できているのは写真ではなく、写真の背景に描かれたドローイングのようだ。インターネットにつなげるという、広がりのある作品だ」
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審査員による講評が全て終わり、いよいよ投票へ。審査員の方には良いと思ったファイナリストをまずは2名選んでいただきました。
投票結果
沢山:齋藤・権瓶
田中:権瓶・薛
野口:佐々木・伊藤
姫野:伊藤・齋藤
増田:伊藤・薛
票を集計すると、伊藤 3票/齋藤 2票/薛 2票/権瓶 2票/佐々木 1票となり、票が割れる結果となりました。
2回目の投票を行う前に、票を入れたファイナリストの作品に対して、審査員の方にそれぞれ評価するポイントや個展に期待することなど、ひと言ずつ語っていただきました。
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佐々木香輔「Space」について
野口「プレゼンの内容と作品にギャップを感じつつも、プリントを見ておっと驚かされた作品。展示したことによって、ポートフォリオの時よりもよりもさらに良くなっていた」
齊藤幸子「Jîn」について
姫野「社会的なテーマであるがゆえに遠く感じてしまう可能性もある作品だが、被写体を若者にだけ絞っていることが良かった。これまでの人生、これからの未来、どちらも感じることができ、感銘を受けた」
沢山「写真に写すことで、絶えず写真を撮った時点の被写体を過去に送り返しながら未来を創っていくという写真の機能をうまく活用している。時間を作り出すというところを考えているようだ」
権瓶千尋「How does your body feel?」について
田中「多彩な比喩など組み込まれていて、多角的に捉えることができる分、考えることが多い作品。曖昧さを孕んでいる部分もあるが、新しいチャレンジをしており、そこを評価したい」
沢山「今後、どのように展開していくのか見てみたい。映像は全て意味を汲み取ろうと思うのは困難だが、音楽のような流れを映像に作り出すことができていて、とても上手いなと思った」
薛大勇「私はこうして見つかった」について
増田「今回の展示は必ずしもうまくいったわけではないが、やろうとしていることに可能性を感じる。彼自身がまだ気づいていない何かが出てくるのではないか、という期待もある」
田中「個展プランが魅力的。若さやエネルギーが溢れ出ている人なので、若い今だからこそ、大きな会場で展示をして切磋琢磨する姿を見てみたいなと思った」
伊藤安鐘「終(週)末ユートピア紀行」について
野口「自分の世界ができあがっていて、トーンがはっきりとあって、展示も上手だなと。個人的に好きな作品で、もっとこの先を見てみたい。」
姫野「“私”の在り方を、写真の中で新しく探求できる人なのではないか。これまでは写真の中で表現することが難しかったところにチャレンジしているところが評価できる」
増田「一次審査ではあまり評価できなかったが、二次審査、展示作品と時間が経つにつれて良さが増しているように感じていて、推している」
審査員から思いを語っていただいたところで、最後に一人だけに絞って投票をすることになりました。
結果は、伊藤 3票/齋藤 1票/権瓶 1票という結果に。最後まで票が分かれたものの、3票を獲得した伊藤安鐘さんがグランプリに決定しました。
伊藤さん、グランプリおめでとうございます!
第22回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展