第19回グラフィック「1_WALL」審査会レポート
公開最終審査会レポート
2018.8.30 木
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8月30日(木)、第19回目となるグラフィック「1_WALL」の公開最終審査会を行いました。「1_WALL」は、数多くの応募者の中から1次審査、2次審査を通過した6名のファイナリストが個展開催の権利をかけてプレゼンテーションを行い、その場でグランプリが決まる、コンペティションです。また、グランプリ受賞者には個展制作費として20万円を授与しています。
これまでに、数え切れない数の個性豊かな若手アーティストを輩出してきた「1_WALL」。第19回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会の様子を、本レポートでたっぷりとお伝えします。
FINALISTS
※プレゼンテーション順・敬称略
JUDGES
保坂健二朗 / Kenjiro Hosaka(東京国立近代美術館主任研究員)
都築潤 / Jun Tsuzuki(イラストレーター)
※五十音順・敬称略
審査会当日、多数の応募者の中から選ばれた6名のファイナリストが、ガーディアン・ガーデンに集合しました。張り詰めた空気の中で審査員による作品チェックが行われます。続々と一般見学者たちも集まり、今回も会場はいっぱいに。ファイナリストによるプレゼンテーションとともに、審査会がスタートしました。
プレゼンテーション&質疑応答
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佐々木彩音「やわらかい記号」
日常の中で見た景色や感じた空気、体験したことなど、これまで蓄積してきたものをベースとして、主に羊毛と花柄のリバティー生地を使い、制作した。自分でコントロールして作っている部分とは別に、それぞれの素材自体が勝手に作品を作り出しているところが面白いと感じている。今回展示する際もあえて形を整えることなく、素材の特徴を活かした展示をしたので、近くに寄って一つずつ素材の違いを見てほしい。個展では壁面以外も活用し、会場全体を動くような自由な存在の作品を飾る予定だ。
Q.秀親:素材の特徴を活かした展示をしたと言っている割には、布はほとんど四角形だし、四角形にこだわりがある?
A.佐々木:もともとの布地が四角形で、そこに羊毛を加えて制作していき、こういう結果になった。四角形にこだわっているわけではない。
Q.塚田:花柄の布地の作品は全て木枠に収まっているが、これはなぜ?
A.佐々木:花柄の布地が今回のメインだったので、それを絵画のように見せたくて、額縁のような感覚で木枠を使った。
Q.菊地:ポートフォリオでは布地をアップにして写したものもあるが、今回の展示では木枠を用いたりして、一つずつの作品と鑑賞者との距離が離れた印象。それに対してどう思う?
A.佐々木:一つずつ近くで見てほしいと思い、布地の作品だけを並べることも考えたが、ただ並べるだけでは違和感を感じたので、このような展示にした。
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芦川瑞季「気が遠くなる日」
自分が好きなように、気になった情報を発信できる今だからこそ、外を歩いた時に不意に目に入ってきたものが新鮮に感じる。そんな感覚を具体的にしようと思い、リトグラフの作品を制作し続けている。どこかの場所を写した写真や落書き、描きかけの漫画などのパーツを集めてフォトショップで編集し、リトグラフの版に書き起こし、一枚の紙に刷るという工程だ。これを繰り返すことで、ある時もやもやしていたもののパズルが完成したように感じることも。この会場は外から断絶されたような雰囲気があるので、個展では実世界とは少し異なる浮遊感を感じられる展示を目指したい。
Q.保坂:いくらでも強いイメージの絵にできるはずだが、あえてモノクロで強さを感じさせない絵になっているところが良い。色を使ったり、構図を変えようと考えたことは?
A.芦川:色を付けてしまうと、例えば木陰から人の手が出ている絵などを描いた時に、遠くからでも一瞬でわかってしまう。目が迷子になるような感覚がなくなってしまうので、あえて色を付けていない。ただ、もう少し大胆な構図はあってもいいと思っている。
Q.秀親:植物や建物など、普段誰もが目にするものでありながら、あまり気にしていないものがモチーフの中心のように感じる。それ以外に芦川さんが今、興味あるものは?
A.芦川:人が生活している匂いがする場所が好き。普段から、人の家に近寄ってみたりして、それが作品にも影響していると思う。
Q.川上:モノクロの作品だと漫画のように感じて、無意識にそこから生まれるストーリーを考えてしまう。そういった表現方法になっているのはなぜ?
A.芦川:作品を構成するために絵を描くこともあるが、描きかけの漫画などを使うと絵に情報量が増えて、作品の中心が密になるような構図がつくりやすいと感じる。そのため、ストーリーが途中になっていてあまり意味をなしていないような漫画を使うことが多い。描きかけの漫画というのは、普段ストーリーを先につくって漫画を描き始めるけれど、何か物事が始まる前に描くのをやめてしまったもののこと。
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藤倉麻子「はげ山の原始」
工業製品が、道具性を失いながら自律運動を始めていくさまざまなシーンを制作している。今回は、映像と紙のバナーとプリントで展示をしているが、その中の映像は、都市を形成するために作られた工業製品が変化している瞬間を映しているもの。バナーとプリントは、工業製品が自律運動を始めている世界を発見した誰かが調査を行っていて、壁一面にメモや写真を貼り付けているという想定で作ったもの。前近代から近代に移る時に理性によって追いやられた非理性的なもの、都市を作るために生まれた工業製品が人間の身体的な感覚を超えることができるのではと考えて、制作し続けている。
Q.保坂:作品のところどころに文字があるが、これは制作過程のメモ?
A.藤倉:制作のメモではなく、何かの製品の取り扱い説明書や、製品を買った時のレシートなど、人がすぐに捨ててしまうものを描いている。ある意味、工業製品と同じ感覚のもの。
Q.都築:2次審査の時には、映像に音が付いていたと思うが、なぜ今回は無音の映像にしたの?
A.藤倉:正直言うと、音を出してはいけないと思っていたからというのが最初の理由だが、グループ展の場合、他の出品者の邪魔になってしまうかもしれないし、音がなければないなりにいいのではと思っている。ただし、個展では音が出る映像にしたい。
Q.塚田:今回展示している3つの映像は同じ世界の映像? この他にも、映像はいくつもあるの?
A.藤倉:3つの映像は同じ世界の、違うシーンのもの。この他にも映像はいくつもあり、そうして大量に量産していくことで、自分が見たいと思っているものが見えてくるのではないかと考えている。
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有本誠司「Tシャツの形」
Tシャツにグラフィックを印刷したものを縫ったり、切ったりすることで布が歪んだり、シワができたりして、Tシャツの形が変化する。縫うという行為には一般的に、修理する、直すというイメージがあると思うが、今回の4つの作品は、修理するというイメージからの距離感のバリエーションを展開している。グラフィックの形に加えて、切る、縫うという行為がTシャツの形に干渉して意図しない変化につながっていて、それはタイミングを操作しているということなのかなと感じている。例えば割れていないグラスのグラフィックをプリントしたいのなら、最初からそうすればいいが、僕はあえて割れたグラスのグラフィックをプリントしてそれを縫うことで割れていないグラスにした。その“タイミング”をキーワードに応用して作ったのが、壁面の2つの作品だ。個展では、TシャツとTシャツに起こった変化を応用して構成した展示を行いたい。
Q.菊地:縫ったり切ったりした時にどうなるかを、ある程度想定してグラフィックを作っているの? それとも、偶然?
A.有本:全くの偶然ではない。今回の一番左の作品は配置によってはどう縫ってもグラスにはならないおそれがあるので、ある程度形を想定してプリントしている。いっぱい歪ませた方が洒落ているなと思えば歪ませるし、グラフィックの位置を離したりすることもある。
Q.川上:グラスがあったり、チェッカー柄があったり、ミトンがあったりとモチーフに共通点を見出せないが、どのような基準でモチーフを選んでいるの?
A.有本:修理するというイメージに一番近いモチーフがグラスで、ハンガーは一番遠い存在。チェッカー柄は関係がなく、修理というよりは変化。ミトンは不可解をイメージ。どれも、修理というイメージからの距離の違いを表現するために選んだモチーフ。
Q.保坂:切ったり縫ったりするだけなら、Tシャツではなく、ただの布地でもいいのでは? Tシャツでないとならない理由は?
A.有本:グラフィックを変化させるともとの形が変わるという考えに辿りついたことが作品作りの原点だったので、僕の中ではTシャツが腑に落ちた。また、WEBデザインの仕事をしている僕にとって、Tシャツのデザインは乗り越え難い壁の1つでもあり、試されているという意識もある。
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西川©友美「誇大妄想。」
まるで銭湯にいるような空気感を作り出すために、銭湯の壁に描かれている富士山などの壁画をイメージした作品を展示した。今回展示をしてみて感じたが、やはり座ってじっくりと作品を観ることができる方がいいなと思ったので、個展では鑑賞者が座って鑑賞できるスペースを作り、足湯のようなものが作れたらと思っている。銭湯の壁画は、銭湯の中にたくさんの人がいて、その奥にあるものなので、そういった空気感を想像させる作品にしたい。
Q.菊地:壁画の左上に置いてある時計は、何をイメージしているの?
A.西川:銭湯には必ず時計があるので、作った。実はこれを製作した時は病み上がりで、私にとっては一種のお守りのような存在でもある。
Q.塚田:計画性とアドリブについての質問で、作品左端の赤い絵の具がラフに塗られているところは、カッティングの下にあらかじめ描いておいたもの?
A.西川:ほかの箇所もやり方は同じで、最初カッティングシートを貼った後に絵の具で色を塗り、カッティングシートに被るところの絵の具を後から削って、シートの黒い線を出している。赤い絵の具の塗りは、他の箇所をきれいにまとめたので、自分にとってのデザートのようなもの。一箇所はずしたところをつくりたかった。
Q.川上:個展では、この絵を中心に展開するの?
A.西川:気に入った作品を作ることができれば、これ以外にも中心となるものは出てくると思う。箱のような立体物も作るかもしれない。
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垂谷知明「咲いて良し」
“私とは何か”が、作品作りの原点となっていて、今回の展示作品はAシリーズとBシリーズにわかれている。Aは、約4万枚の私的写真と夢日記などをプラン制作時に集め、そこから囚われることない感覚で選んで並べて、時間をかけてじっくりと写生したもの。Bは、プランを作らずにAの作品の制作過程で使った絵の具を起点に、普段の暮らしで目にするダンボールなどを使って囚われることない感覚で色を塗り重ね、短い時間で一気に仕上げたもの。AとBは連動しており、共鳴しているものだと思っている。個展では、Bの立体物を展示しようと考えており、その新作を持ってきた。(質疑応答の中でその新作を披露し、説明も行った)
Q.川上:夢日記や写真をためて、時間が経ってからそれらを集めてランダムに選んだの? それとも、同時期に書いた夢日記や撮った写真なの?
A.垂谷:作品作りは2017年から始めたが、写真は僕が0歳の時から現在のものまであり、日記は10年くらい前から書き始めたもので、それらを時間が経ってからランダムに選んだ。
Q.菊地:Aシリーズの絵とBシリーズの絵はそれぞれ対応している作品なの?
A.垂谷:完全に対応はしないが、BはAを描いた時に余った絵の具で描いた絵なので、Aが木の幹だとしたら、Bはそこから生える枝葉のようなもの。また、Bを描くことで生まれた感覚がAに影響を及ぼすこともあり、循環し合っているとも言える。
Q.塚田:Aシリーズの絵だけで良いのでは、という印象を受けたが、やはり両方展示することに意味がある?
A.垂谷:自分の中では、Aを作ってBを作って、またAを作ってという流れがルーティーンになっているので、どちらかだけにはできなかった。
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講評&審議
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佐々木彩音「やわらかい記号」について
秀親「優しいものを優しい人が作っているんだなと、プレゼンを聞いて感じた。四角い木枠や布など、収まってしまっている感じが気になる。もう少し自由な感覚でもいいかも」
保坂「木枠が額縁になっているという構想が気になるが、ボックスだと思えばいいのかも。ただ、そうなると壁にかけている意味はないので、グラフィック寄りな作品で勝負してもいいのかもしれない」
塚田「既存の布が羊毛に覆い尽くされ、侵食されていく感じは良い。そういった点で布が四角形なのも自然だと思う。ただ、ポートフォリオの写真のように一つずつ間近で見たいので、壁ではなくて標本を見るような感覚で机の上に展示しても良いのでは」
川上「ポートフォリオで作品をアップにして写したものがすごく良かったので、写真を展示しても良かったのでは。展示の仕方が際立っていて、作品そのものに入り込めなかった」
都築「ポートフォリオの方が迫力あったが、だいぶ印象が変わってしまった。作品自体は羊毛など物質に根拠を持たせる作品になっているが、展示タイトルやプレゼンでは記号や図形といった言葉を使っている。その分裂した意識を積極的に取り入れていけば、もっと面白くなるのかも」
菊地「一つずつの作品に魅力があるし、表現もいい。ただ、展示慣れしていないし、もっとオーソドックスな展示の方が良いのでは。ただ、手芸的、工芸的な作品ならではのボケの表現に新鮮味を感じている。もうちょっと先が見てみたい」
芦川瑞季 「気が遠くなる日」について
塚田「プレゼンでは、どんな質問にもビシッと答え、湯水のように湧いてくる制作意欲も好印象。漫画の画風に好き嫌いが出るかもしれないが、そのままで良いと思う」
菊地「彼女は頑固だが、モノクロにすることで高級感が出るし、マテリアル感も感じられ、良い。これが出力になったら良くなくなるのかも。絵を斜めにしたことで逆に平面的な雰囲気が強調されている」
保坂「絵が斜めになっているところが気になり、真っ向勝負してほしいと感じてしまった。漫画的な表現をどう平面に表すかという方法の一つにこういう回答もあったのかと驚き、一種のペインティングになっていて、そういう意味では良い表現作品だなと思った」
秀親「エッジがすごく良い。良い仕上がりで、惹きつけられる。わざわざリトグラフで作品を作っていることもすごい。自分だったら真似できない」
都築「人のいる気配を出すために、描きかけの漫画を使っていて良い。ただ、漫画の描きかけと描写部分の描きかけの意味は違う。その両方のぶつかり合いが一つの作品に混同しているのは、今までにない感覚だ」
川上「絵から感じる違和感の話はとても面白いし、良いと思うが、絵が傾斜になっているところが気になる。立体物のように見えてしまい、絵から感じる違和感が減ってしまっているようだ」
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藤倉麻子「はげ山の原始」について
保坂「紐へのフェティシズムのようなものを感じるが、それが意図的なのか意図的ではないのかわからない。3つの映像が似通っているし、最初から最後まで変化があまりないので、映像を全て見ることで得られる快感がない。調査という言葉が出てきたが、これを見ても何も発見に至らないのでは」
塚田「壁の一面にスクリーンを張って、その映像に音をつけ、没入したい作品だと思った。個展では、アナログVRみたいなものを作ったら面白くなるかもしれない」
菊地「展示自体は良いと思わないが、彼女が考える街ができあがっていて、それをドキュメントするという表現方法が面白いと思った。ただ、彼女にとっては一つのパターンでしかなく、本気ではないようにも感じる」
都築「2次審査の時から彼女には注目していたが、今回の展示を見ると個展を任せられるかどうかわからない。映像作品に音をつけるかつけないかが、ポイントになるのでは」
秀親「こう来たか!という感じではなく、こうなっちゃったか!という印象。2次審査の時の作品から想像したものとは違う方向へ行ってしまった。個展となると、どうなるんだろうと心配」
川上「プレゼンを聞くまでは、この世界をドキュメントしている作品だと知らなかったので、なんてラフな作品なんだろうと思ったが、プレゼンを聞いて納得できた。2次審査の時とは違う感じがしたが、それが良いのか悪いのかはわからない」
有本誠司「Tシャツの形」について
保坂「本人の受け答えが印象的だった。ある程度予想できそうな質問にもその場で考えているような素振りを見せていて、それが演技なのかはわからないが、演技ではないと信じれば、本当に作品を作りたくて作っている姿勢を感じることができ、評価できる」
都築「プレゼンでは、彼の実直な受け答えが良かった。作品は面白いが、彼の誠実な性格と比例しているのか、堅い印象を受けた。ただ、2次審査よりは柔らいだようだ」
塚田「2次審査で聞いていた展示プランでは少し心配していたが、意外ときれいにまとまったなと。彼は何度か応募してきているが、これまでよりもシンプルなテーマになってわかりやすくなり、良かったと思う」
秀親「これまで彼が応募してきた作品よりも、わかりやすい作品になったと2次審査で話していたが、今回の展示作品もそのイメージを裏切ってはいないが、そこそこやってきたなという印象。そこを超えられたら、もっと面白い作品になりそう」
川上「今回の展示方法では、Tシャツを見せているだけという感じがしてしまった。もっと布自体を見せる方法があったのでは」
菊地「サイズ感など気になったが、プレゼンを聞いていると、Tシャツであることをどこまでも彼は意識している。こちらもTシャツとして見るべきなんだろう。ただ、グラフィックの造形が弱いかも
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西川©友美「誇大妄想。」について
秀親「性格や雰囲気と作品もそうだし、2次審査の時に見せてきた展示プランと今回の展示作品も、今回のファイナリストの中で一番ギャップがある。それを本人もわかっていてずるい」
川上「完成度を上げることを嫌がるという話を前にしていたのに、今回の展示作品は完成度が高い。そこは狙っているのかどうなのか、わからない」
塚田「今回の展示作品も、ポートフォリオの延長線上なので完成度の上げ方が分かっているのだろう。既存データのコピペ使いなどもダメになりがちなところを微妙に上手くモノにしていてニクい」
都築「彼女にとって銭湯というテーマはどうでも良いのでは。アウトラインにのっている図版が良い」
保坂「壁画の左上に時計を乗せたのは、銭湯というテーマがあったからこそ。そこが面白いポイントになっている」
菊地「何かしらテーマは必要になるから、銭湯というテーマは良い。ただ、銭湯でなくても良いのかも。展示であることを考え、引き目で見た時と、寄ってみた時の計算をしっかりしている」
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垂谷知明「咲いて良し」について
秀親「何が面白かったかというと、最終審査会で新シリーズを発表したところ。今までにそんな人は見たことがない。A、Bシリーズの話を聞いて論理はわかってきたのだけれど、やっぱり理解しがたい。今はまだ発展途中で、これから面白くなりそう」
塚田「“私とは何か”がテーマだと言っていたが、新シリーズでは他者が関与してきたので驚いた。実はAシリーズはラフなように見えるが素材をわざわざトレースして描かれていて、その精密さが良いのだがそこが伝わってこない。正直Bシリーズの作品はいらないのでは」
保坂「“私は他者でもある”という言葉は、“昨日の私と今日の私は違う”というくらいの重みでしかない。AとBの関連について話してくれたが、Bシリーズの絵は外しても良かったのかも。もしくは、個展ではない方が良い」
川上「制作のプロセスを聞く前からAシリーズの絵は魅力的だなと思っていたが、新シリーズが出てきたことで、またAシリーズが面白く感じられた」
菊地「写真などの素材をトレースしているのなら、Aは全て同じ図柄でバージョン違いなどもできるはず。それもやったら良さそう。壁に対する展示の仕方とか、ドットの埋め方とか、彼の埋め癖が気になる。空間性が弱い」
都築「新シリーズを発表したことは良かった。ただ、今はお母さんと奥さんだけだと言っていたので、もう一人くらい試してほしかった」
※新シリーズでは、他者と順番に紙に線を描き加えていき、その形から連想されるものをつなげて物語をつくる作品を発表した。発表時点ではまだ試作段階で、義母と妻が制作に参加した。
こうして、審査員による講評が終了しました。同じ意見を持つ方、全く違う意見を持つ方など、さまざまな意見が飛び交い、今回もかなり盛り上がり、長丁場の審議となりました。
続いて、投票へと移ります。審査員の方には、良いと思ったファイナリストを2名選び、挙げていただきました。
投票結果
川上:西川・芦川
菊地: 西川・藤倉
大日本:西川・芦川
都築:西川・芦川
保坂:西川・垂谷
集計すると、西川 5票/芦川 3票/藤倉 1票/垂谷 1票という結果に。なんと、審査員全員の票が西川さんに入る結果となりました。このまま行けば西川さんがグランプリという流れになりますが、改めて審査員の方に再度票を入れたファイナリストに対する思いを、ひと言ずつ語っていただきました。
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芦川瑞季「気が遠くなる日」について
川上「選んだものの、個展は今回の展示の延長になりそうなので、そこが気になっている」
都築「扱っているテーマが素晴らしいし、好み。個展に向けて爆発力をどう出すのか、というところに不安を感じる」
大日本「質疑応答の対応を見る限り、ひとつひとつに確信を持って作業・展示を行っている。今日の意見を取り入れて個展でもしっかりと我々の期待を上回る作品を作ってくれそうだ」
藤倉麻子「はげ山の原始」について
菊地「展示の仕方など言いたいことはあるが、個展は彼女にとってチャレンジになると思うし、見てみたいと思っている」
西川©友美「誇大妄想。」について
都築「彼女に騙されているにしても、あまりにも騙されていると感じる部分が多いので、実はちゃんとやってくれる人ではないかと期待している」
保坂「壁画の緑に塗られた部分を見ると、ちょっとだけ盛りあがっている部分がある。そういうところを見ると、僕たちは騙されているのではなさそう。信じても良さそうだ。彼女は、人を惹きつける方法をわかっている」
大日本「個展に向けて映像を作ったけど展示しなかった、と言われても認めてしまうかも。ちょっと悔しい。説明などなくても、とにかく明快に面白いと感じさせてくれる」
菊地「いわゆる流行りのグラフィック、という感じはするが、それも気にならなくなっている」
川上「単純に個展をやったらどうなるのかを見てみたい」
垂谷知明「咲いて良し」について
保坂「彼の作品は絵でもなく、デザインでもない、そういう境地に辿り着いている。無駄に感じる作業も多いが、商業的でなく、可能性を感じる」
審査員それぞれが、票を投じたファイナリストについて思いを語ってくださいました。改めてそれらの意見を踏まえた上で、西川さんをグランプリに決定することに異論なしということになり、ついグランプリは西川さんに決定しました! 西川さん、おめでとうございます!
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こうして、今回も白熱した公開最終審査会が終わりました。西川さんの個展は、約1年後にガーディアン・ガーデンで開催する予定です。みなさま、ぜひお楽しみに!
FINALISTSインタビュー
西川©友美さん(グランプリ決定!)
嬉しいけれど、参ったなというのが正直な感想です。「1_WALL」は審査員の方から直接アドバイスを聞けるし、こちらからも意見を言えるので、他のコンペとは違い、どんなことを考えているのかがわかって良かったです。面白い作品を作るので、楽しみにしていてください!
佐々木彩音さん
これまでずっと作品作りをしてきましたが、グラフィック作品として観てもらったのはこれが初めて。いろいろな意見を聞くことができて、良い機会でした。今後もチャンスがあれば「1_WALL」に挑戦したいです。
芦川瑞季さん
1年前にも応募しましたが、その時は審査員奨励賞止まりでした。今回は、プレゼンで思っていることを全部吐き出せたと思います。普段、指摘を受けないような部分のアドバイスをもらうことができて、気づきが多くあったように感じます。
藤倉麻子さん
「1_WALL」に応募したのは、今回が初めてです。学校を卒業してからはこうして作品について意見を言ってもらえる機会がほとんどなくなったので、懐かしく感じたし、貴重な機会をいただけたなと感じています。ありがとうございました。
有本誠司さん
ファイナリスト全員が同じタイミングで2次審査を受けて、このグループ展に至っているという、タイムラインが一緒なことが面白かったです。審査員の中にはキュレーターなど、普段は意見を聞けないような方もいて、どの意見も参考になりました。
垂谷知明さん
やるだけのことはやったので、悔いはありません。審査員の方の生の声も聞けて、良かったです。まだまだ発展途上なところがあるし、この先自分がどうなっていくかはわからないけれど、続けていくしかないと思っています。
第19回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展