一緒に撮る・選ぶ・触る 視覚障碍者と写真家のためのワークショップ2019
2019.10.5 土 9:30a.m.-5:00p.m.
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会期:2019.10.5 土 9:30 – 17:00(雨天決行)
場所:ガーディアン・ガーデン、銀座周辺(ギャラリー周辺で撮影)
募集定員:写真家10名、視覚障碍者の方10名、見学者10名
参加費:無料(お弁当代として500円、介助者の方は無料)
*交通費は各自でご負担お願いいたします。
※イベントは終了しました。
視覚障碍者と写真家のためのワークショップを開催します。
写真の面白さを知りたい、写真の技術を身に付けたい視覚障碍者の方と、「見えない」ということは、どのようなことなのか、新たな視点から写真を捉え直してみたいという写真家のためのワークショップです。
視覚障碍者の方と写真家がペアになり、銀座エリアを歩いて写真撮影を行います。どこにカメラを向け、いつシャッターを押すのか、「見えない」ことから、写真への理解を深めていただく機会になることを目指しています。
写真家の方には、写真の講義や、写真に映し出されていることを言葉で伝える作品プレゼンテーションを通して、視覚とは何か、見ること、見えないこととはどのようなことなのかを考える場になります。
視覚障碍者の方には、写真家の方々との撮影体験を通して、写真の魅力に触れていただく機会になればと考えています。当日撮影した写真の中から1点選んでいただき、触れて見る凹凸立体写真を制作します。
プログラム:
09:30 視覚障碍者の方、JR 有楽町駅中央改札口前集合、ガーディアン・ガーデンへ移動
10:00 写真家・見学者の方、ガーディアン・ガーデン集合
10:15 写真講義
11:00 撮影
13:00 食事休憩
14:10 写真家作品プレゼンテーション
15:25 撮影した作品の鑑賞、講評会
17:00 終了予定
写真家の方の応募方法
A. 作品提出(10点程度)テーマ・手法は自由ですが、公序良俗に反した作品は不可。
B. 制作意図(300〜400字程度)
C. プロフィール(名前(必須)、生年(必須)、活動歴、受賞歴、展覧会歴など)学生可
D. 連絡先(メールアドレス・電話番号)
以上A〜Dをメール添付の上、creation@r.recruit.co.jpまで件名を「10/5ワークショップ作家参加希望」としてお送りください。
募集締切日:2019年9月20日(金)
※応募は締め切りました
【プレゼンテーションについて】
当日、写真家の方々には、視覚障碍者を含む他の参加者とグループに分かれ、
ご自身の作品を約10分程度でプレゼンテーションしていただくプログラムを設けています。
視覚障碍者の方が触って分かる立体シートに出力するため、
参加ご希望の写真家の方には、事前に作品を5〜6点提出していただきます。
見学の方の応募方法
※定員に達したため、応募を締め切らせていただきました。
一緒に撮る・選ぶ・触る 視覚障碍者と写真家のためのワークショップ2019 レポート
10月5日(土)、 今年で7回目となるワークショップ「一緒に撮る・選ぶ・触る 視覚障碍者と写真家のためのワークショップ」が、ガーディアン・ガーデンにて行われました。
写真の面白さを知りたい、写真の技術を身に付けたい視覚障碍者と、「見えない」ということはどのようなことなのか、新たな視点から写真を捉え直してみたいという写真家のために開かれるこのワークショップには、毎回、双方から熱心な参加者が集まります。
プログラムのメインは、視覚障碍者と写真家がペアになり、銀座の街を歩いて行う写真撮影と作品鑑賞。どこにカメラを向け、いつシャッターを押すのか? 撮った写真をどのように鑑賞するのか? 「見えない」ことを通じて、それぞれが写真への理解を深める機会になることを目指しています。
さらに若手写真家たちにとっては、撮影前の講義や、写真に映し出されていることを視覚障碍者へ言葉で伝える作品プレゼンテーションを通して、「視覚」とは何かを考える場になります。そして視覚障碍者には、写真家と協働での撮影体験を通して、写真のさらなる魅力に触れる機会となるワークショップです。はたして今年は、参加者それぞれにどのような学びや発見、そして出会いがあったのでしょうか。本レポートで詳しくお伝えしていきます。
<参加者>
写真家 13名
視覚障碍者 10名
見学者 11名
<ワークショップモデレーター>
尾﨑大輔(写真家)
<講師>
菅沼比呂志(キュレーター)
<講師>
小林美香(写真研究者)
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写真講義
このワークショップは、まず視覚障碍者と写真家がそれぞれに分かれて、写真の講義を受けるところから始まります。
写真家たちが、ワークショップモデレーターで写真家の尾﨑大輔さんからレクチャーを受けるため別室に移動したあと、
視覚障碍者たちは二つのグループに分かれ、写真研究者・小林美香さんとキュレーター・菅沼比呂志さんから、写真の歴史について学びました。
写真史を彩る著名な写真家たちの作品を鑑賞しながら、講義は進みます。これらの写真作品は、デジタル加工と特殊な印刷機によって、写真の黒い部分は凸、白い部分は凹へと変換された、2ミリほどの凸凹のある特殊な立体のプリントにしてあります。
視覚障碍者たちは、この凹凸プリントを触ることで、被写体のアウトラインや空間の構成、そして風景の遠近などを体感できるようになっています。この触覚の情報に加えて、講師のレクチャーとともに写真作品をより深く鑑賞していきました。
最初期の写真技術「カロタイプ」を発明したタルボットが写した写真や、ロベール・ドアノーの「パリ市庁舎前のキス」、ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」などの凹凸プリントを触りながら、歴史的な写真の制作背景を学ぶ視覚障碍者たち。また現代に活躍するドイツの写真家、ハンス=クリスチャン・シンクの代表作「1 hour」などもあり、参加者たちは、この作品に映り込んだ移動する太陽の軌跡を興味深く指で辿っていました。
https://scrapbox.io/files/650958077b75cd001b593b90.jpg写真講義では、視覚障碍者が触って写真を体験できるよう、凹凸プリントを使用。
https://scrapbox.io/files/6509583830c7eb001bb83ba6.jpgハンス=クリスチャン・シンクの「1 hour」を触って、長時間露光を理解する。
一方、別室では、写真家たちがモデレーターの尾﨑さんから「見えない」とはどういうことかについてのレクチャーを受けていました。尾﨑さんは作家活動の傍ら、日本視覚障碍者芸術文化協会の副会長を務め、視覚障碍者との撮影ワークショップを多数主催しています。
レクチャー終了後、写真家たちに話を聞いてみることにしました。写真を学んでいる大学生の伊藤さんは、視覚障碍の中にも、生来視覚がない人や中途失明など、さまざまなケースがあり、視覚についての認識は千差万別であること、また生来視覚がない人たちが脳内にどのようなイメージを持っているかなど、これまで知らなかったことを聞くことができた、と話してくれました。
撮影
さて、それぞれへのレクチャーが終わったところで、いよいよ銀座の街に出ての撮影が始まりました。このプログラムでは視覚障碍者と写真家とでペアを組み、写真家が介助をしながら、写真撮影を行っていきます。今日の撮影テーマは「音」。
街の風景や、通りを行き交う人々は今どのように見えるか。空間のなかで光はどこに差し、影はどうできているのか。その中で撮影ポイントはどこにあるのか。そしてシャッターチャンスはいつなのか……。
ペアになった写真家による状況説明や介助によって、さまざまな情報を得て、自らが空間を想像し、シャッターを押していく視覚障碍者の皆さん。写真家たちの言葉から興味を持ったもの、さらには自分でも撮ってみたいと思うものを積極的に伝えながら、どんどん撮影していきます。
一方、写真家たちも、撮影者とのコミュニケーションを楽しみながら、「見えない」撮影をどのように協働するべきかを、少しずつ学んでいるようでした。
撮影中、尾﨑さんから「暖かいと感じる方向からは、光が差していますよ」というアドバイスも。写真家も視覚障碍者も、光を明るさではなく「温度」として皮膚で感じて撮影する、という新しい気づきもありました。
撮影に同行した見学者たちも、ファシリテーションを学ぶために参加したという美術館のエデュケーターや、リサーチのために参加した大学教員など、さまざまな目的を持つ人たちばかり。写真家と障碍者、そして見学者も一緒になって、時々ペアを替えながら、撮影は和気あいあいと、あっという間に進んでいきました。
また写真家や見学者などの晴眼者たちも、アイマスクをつけて「見えない」撮影体験を行いました。視覚情報が得られないなかで、何を頼りにしてシャッターを切っていくべきなのか。その難しさを体験する晴眼者たち。撮影後、アイマスクを外すたびに、晴眼者の誰もが「まぶしい!」と呟くのが、とても印象的でもありました。
食事休憩
撮影を無事に終えて、参加者たちが笑顔で戻ってきました。晴天に恵まれ、どのグループも撮影がはかどったよう。午後のプログラムの前に、みんなで食事休憩に入ります。
食事の前に撮影した写真を確認して、セレクトする作業をする参加者たち。
実はこの昼食休憩も、ワークショップのプログラムの一つとして設定されています。
机の上に並べられたお弁当には白い紙がかけられていて、中身がわからないようになっています。晴眼者たちはさらにアイマスクをしてお弁当を食べます。「見えないこと」はどういうことなのか、その一端をさらに体験するプログラムです。
見えない状態で箸を使うことの難しさもさることながら、「見えないと、口に入れても一体何を食べているのかがよく分からない」という晴眼者もいました。
触覚や味覚よりも、視覚情報から晴眼者はより多くのことを判断しているということがわかる、とても貴重な時間でした。
見学者の一人は積極的に箸を動かして口に食べ物を運んでいき、見事に完食! 一方、写真家の方は慎重に、少しずつ箸を進めながら静かに食べていきます。晴眼者たちの食事体験も、人それぞれ大きく違うようです。
https://scrapbox.io/files/650959616f92d5001b9ba25f.jpgそんな彼らの食事の様子をそばで見守っている視覚障碍者の皆さん。弱視の方からは、「全く見えてないと、はじめてだと、なかなか食べるのは難しいかもしれない」と一言。
「何を食べているかわからないと、ご飯を食べるのもちょっと怖いですね」という晴眼者からの言葉に、視覚障碍者の方が「とはいえ普段は、メニューは何なのか、周りの人が教えてくれてわかっているわけだから、見えなくても食事はそんなに大変なことばかりではないんですよ」と笑って教えてくれました。
それは、たとえ「見えない」という情報障害があっても、視覚以外の情報があれば、クリアできることはたくさんあるのだ、という当たり前のことに気づかされた一言でもありました。
食事休憩の間、さきほど撮影した写真作品を、尾﨑さんとスタッフが凹凸プリントに出力する作業を行っていました。デジタルカメラで撮影された写真のデータは、パソコンでモノクロ画像に変換され、特殊な印刷機で凹凸プリントにしていきます。
写真家作品プレゼンテーション
驚きと発見があった食事休憩も終わり、5つのチームに分かれて写真家たちの作品プレゼンテーションのプログラムが始まりました。写真家たちの作品の凹凸プリントも事前に用意されており、視覚障碍者たちはその作品に触れながらプレゼンテーションを聞いていきます。
視覚障碍者の方は、同じグループの写真家たちのプレゼンテーションに興味津々。大判カメラを自室の真ん中に据え置いて、日々、壁に当たる光を撮影しているという写真家の方。凹凸プリントになった作品では、壁に当たる光の部分が大きな凸になっていて、視覚障碍者たちは被写体である光の「形」を触ることができます。「部屋の構造と写真の構造は似ている」と写真家が語る作品に対して、実際のプリントサイズなどの質問が重ねられ、意見が熱く交わされました。
一方、国内外の美術館を中心に作品を発表している気鋭の写真家の方のプレゼンテーションにも引き込まれる参加者たち。2001年から長い時間をかけて若い在日コリアンたちの成長を撮り続け、その記録と記憶を空間に落とし込むインスタレーションを作りあげる制作に、学生たちも視覚障碍者たちも、非常に刺激を受けたようす。
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ワークショップ終了後には、写真家たちが障碍者の皆さんを交え、それぞれの制作について話し込んでいる姿もあり、写真家同士の交流が始まった様子が印象的でした。
撮影した作品の鑑賞と講評会
いよいよ最後のプログラム、視覚障碍者と写真家がペアを組んで撮影した写真作品の鑑賞と講評会です。
まずは壁に展示した視覚障碍者の皆さんが撮影した立体写真を、参加者全員で触れながら鑑賞します。そしてそれぞれの感想を付箋に書いて、作品のそばに貼り付けていきます。その後、セレクトした写真を投影しながら、視覚障碍者による作品プレゼンテーションが始まりました。
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視覚障碍者たちからは、午前の撮影のようすや、撮影介助者となった写真家たちとのコミュニケーションはどのようなものだったのか、それが撮影にどのように反映されて写真になったのかが語られていきました。
また、以前から写真撮影を続けている視覚障碍者の方たちからは、「撮った写真を多くの人に見てもらい、言葉で説明されることによって、撮影後に自分の写真を実感する」という話もでました。たとえ撮影者自身では見られなくても、撮影された写真の細部が、鑑賞者の言葉によって新たな表象として立ち現れ、撮影者へと伝わっていくことの面白さを知る一言でした。
また、視覚障碍者が撮影するときの「狙って撮る」とはどういうことを指すのか? という見学者からの質問には、講師の菅沼比呂志さんからは、介助者の状況説明からの判断であるとする一方、視覚障碍者の一人からは、自分一人で撮影する場合は、「音」がシャッターを押すきっかけになることもある、との発言も。視覚障碍者であっても、晴眼者であっても、シャッターチャンスのコントロールを何に委ねるか? ということは、作品制作の根幹に関わってくる重要なポイントであり、とても興味深い話でした。
最後に講師からのワークショップの総括では、小林美香さんからはさまざまな情報の介在があり写真が成り立つことの妙が、そして菅沼さんからは新たな視覚表現を切り開いていくことの重要性が語られ、ワークショップが締めくくられました。
終了後、参加者にも感想を聞いてみました。このワークショップにすでに6回ほど参加しているという視覚障碍者の方は、「才能のある写真家たちの熱気に圧倒された! 今回もとてもいい勉強になったし、いろんな出会いがあってよかった」
そして、視覚障碍者との撮影を通して「作品をコラボしているようだった」という写真家の方の言葉からも、視覚障碍と写真撮影の豊かな未来を感じました。
このワークショップを通じて、デジタルカメラや凹凸プリントなどのテクノロジーの進歩とともに、さまざまな人たちが協働して視覚を理解し、写真芸術を実践することのさらなる可能性、そして写真の新たな広がりを感じることができました。
今後も、このワークショップが継続して開催されることを期待しています。
https://scrapbox.io/files/65095b137e93f1001c4a5377.jpgテキスト/写真:松本美枝子(写真家)
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<ワークショップモデレーター>
尾﨑大輔(写真家)
1983年三重県生まれ。2006年、早稲田大学社会科学部卒業後、渡英。2007年、London college of communication(ABC diploma in photography)卒業。2011年より視覚障碍者を中心に知的障碍者、精神障碍者などを対象としたワークショップを多数主催。日本視覚障碍者芸術文化協会(Art for the Light)副会長。
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<講師>
菅沼比呂志(キュレーター)
1987年株式会社リクルート入社。’90年若手アーティストを支援するギャラリー「ガーディアン・ガーデン」の立上げに参加。以後、若い世代の新しい表現を求めた公募展『ひとつぼ展』(’92~’08年)や「1_WALL」 (’09年~)の運営に携る。平遥国際写真フェスティバル、テグフォトビエンナーレ、Young Art Taipei 等でも展覧会の制作やポートフォリオレビューのレビュアーを務める。’17年3月同社を退社しフリーに。 武蔵野美術大学、日本写真芸術専門学校、東京工芸大学非常勤講師。
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<講師>
小林美香(写真研究者)
国内外の各種学校/機関で写真に関するレクチャー、ワークショップ、展覧会を企画、雑誌に寄稿。2007-08 年にAsian Cultural Councilの招聘、及び Patterson Fellow としてアメリカに滞在し、国際写真センター(ICP)及びサンフランシスコ近代美術館で日本の写真を紹介する展覧会/研究活動に従事。2010 年より東京国立近代美術館客員研究員、2014年から東京工芸大学非常勤講師を務める。
協力:株式会社ニコン