情報処理と情報に基づいた素材の操作
序章~第8章まであるが、第2章~第7章は調査に終始する
見切れている画像が多い
0-1-1 知覚と情報処理
多くの中等教育における学校教育の現状として、学習者の大きな目的が、上級学校への受験という外的動機づけであることは否定できない。教員もその目的達成のための支援、換言すれば入試における高得点獲得の支援のために、学習者に対しての学びへの内的動機付けも「情報処理と行為」に偏らざるを得ない状況にあることがその理由の一つであろう。〔……〕学習者の知覚によって、気体の匂いから多様な価値づけがなされたとしても、入試における高得点獲得のため、「アンモニアは刺激臭である」などの唯一解として情報処理されることとなる。そこでは、身体を伴う感受が、情報処理のための一つの方法となってしまう。また、匂いを嗅ぐ活動自体は、学習者にとって新鮮で、日常と異なる環境、状況による経験や活動として学びの動機になろう。しかし、その繰り返しだけでは飽きられ、入試における高得点獲得という外的動機づけに呼応する「一般化された情報をより効率よく習得する方法」を学習者が求めることにつながる可能性もある。
0-1-2 造形行為における知覚と情報処理の現状
表現活動においても描きたい気持ちや雰囲気などの言葉に表しきれないことよりも、自分が過去に得た知識や概念を説明する作品を描く生徒の姿も散見される。例えば、テニス部に所属する生徒が、毎日の部活動に打ち込み、大会での実績を出そうと努力している「現在の自分」を紙粘土で表そうとしたが、その生徒が制作したのは、テニスラケットやボールそのものであり、さらには作ったテニスのラケットやボールも自分自身で使用しているデザインと同じものではなかった。テニスの経験から想起される感情や、テニスをしているときの自分の筋肉の動き、ボールの重さ、空気の暑さ、汗のにおい、肌に照り付ける日差しの強さ、チームメイトの声といった、五感で感じ取れることを、形や色彩として表現活動へと向かわないような事例が多く見られたのである。
生徒が感じ取ったことを表現しない状況が続くことにより、自己表現が代替可能なものとして認識されるような状況も生じかねない。感じ取りは、唯一無二のその人の身体においてできることである。その視点から述べれば、生徒が感じ取りを基に表現できないということは、新奇性のある作品や、独自性のある作品の制作には辿り着きにくくなる。つまり、感受による表現は、創造的な営みのための学習活動の一つとなりえるが、知識や技術の情報の受け取りや、その組み合わせだけの表現活動では、情報処理と情報に基づいた素材の操作で終始することになる。
7-5-2 自分にとっての美しさを求めることで、新しい価値に向かう態度を自身で育てやすくなる
より自分の作品をよくするために多様な技法や絵の具の色を混色して描こうとする生徒は、制作を進める中でも時間割等の外的な制約ではなく、自分自身の判断によって活動に取り組み、他者や社会とも積極的にかかわろうとすることとなる。これは、Runco9)が、創造性と、美的魅力(Aesthetic Appeal)を評価する際の親和性が高いことを述べたことや、Li が身の回りから新しい価値を見出すためには、「美的なセンス」が必要であると述べたことを支持する結果と言えよう。
しかし、その一方で、図 8 から図 11 の結果を見ると、「自己調整」、「美的作用」、「社会向上意識」の各因子の平均値が高い生徒は、その因子の平均値が低い生徒よりも、描画技法や混色を多く用いて作品を制作しているが、「他者関与」の平均値が高い生徒のみは、「他者関与」の平均値が低い生徒よりも、用いる描画技法や混色に用いる絵の具の色数は少ない。さらには、制作中において、各因子の平均値が低い生徒の制作中において、数値が高い因子の順位は全て「他者関与」が一番である。
他者関与
6-10-4-1 第1因子「創意への自己調整」
自分自身の目標達成への意欲、そのための準備と調整
6-10-4-2 第2因子「内的な変化をもたらす他者関与」
他者とのつながりが新しい思考や行動に及ぼす影響
6-10-4-3 第3因子「自己への美的作用」
美しさやよさを積極的に味わったり感じたりする審美的姿勢
6-10-4-4 第4因子「社会への質的向上意識」
新たな感じ方や見かたが、自分や社会にとって価値のあるものと認識し達成を試みる
他者関与の範疇
7-2-4-2 創造・題材アンケートの因子構成
第Ⅱ因子 内的な変化をもたらす他者関与
風の形と色彩を考えるとき、励ましてくれる人がいる。
風の形と色彩を考え付いても、褒めてくれる人はいない。
風の形と色彩を考えることができないときに、話を聞いてくれる人がいる。
各因子の平均値が低い生徒 E、F、G においては、作品解説の中でも、作品を見て判断できる描き方への説明が多いことが特徴として挙げられる。また、それに伴って、生徒 E、F はセルリアンブルーとコバルトブルーを単色で用いて、ドライブラシを用いて線で風を描いている点において、共通点が多い。これは、風から感じたことではなく、風に関する知識として描いている可能性が高い。具体的には、風に、生徒 E、F は、風の冷たさを表すため、自販機で「冷たい商品」であることを示す色として用いられる青や水色と同じ寒色系を用いていることや、天気のニュースで、強風や暴風を示す記号の形を用いていることである。〔……〕換言すれば、自分自身が感じた価値よりも、すでに社会の中で共有されている価値を重要視する傾向があるということである。
知識を直接描いている
それを自分自身が感じたことよりも優先している
7-6 本章でのまとめ
新しい価値に向かいにくくする要因として、「他者関与」の数値のみが高い状況、つまり他者からの奨励を求める姿勢のみが強まることが分かった。
知識や技術の情報の組み合わせ
情報処理と情報に基づいた素材の操作
8-2-2-1 自分にとっての美しさを求めることが、新しい価値へ向かう態度を強めること
8-2-2-2 自分以外からの奨励を求めると、多様な表現に向かわない