2-2.発明の課題(目的)・手段(構成)・作用効果
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特許法の旧36条4項では、「発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」とされており、発明には、「目的・構成・効果」が存在することが明確にされていた。
この点、現行法では、「・・・その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(特許法36条第4項第1号)と改正され、「発明の目的、構成及び効果」という文言は条文から失われた。
この条文が改正された理由は、「あらゆる発明について目的、構成及び効果の記載を求めるのではなく、技術の多様化に対応した記載を可能とし、併せて制度の国際的調和を図るため」とされている(平成6年改正工業所有権法の解説(特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室)107頁)。ここで、国際調和とは、外国において、とりわけ効果の記載義務のない国から優先権を伴う我が国への出願において、旧36条4項の要件を満たさない場合を避ける趣旨であり、いわば形式的理由であった。
しかしながら、発明に実質的な意味で目的、構成及び効果というものが今なお存在していることは変わりなく、それを否定する理由はない。
特許法においても、36条6項4号の経済産業省令として、特許法施行規則第24条でいう、明細書の様式29に、明細書の記載事項として、【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、(【発明の効果】)という項目を残している。すなわち、発明には、発明をするに至った課題と、課題解決手段と、発明によってもたらされる効果があるというのである。
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これは、旧法でいう発明の目的、構成及び効果に対応する。ただし、「課題」と「目的」は若干概念が異なるので注意を要するが、これから述べる発明特定事項の決定にあたっては、その差異はそれほど影響は与えないであろう。
この目的(課題)、構成(解決手段)及び効果という切り口は、発明を把握する上で有効である。これにより、発明が何のために行われ、どのような効果を社会にもたらすのかが明らかになり、そのための手段が開示されるからである。
発明者から与えられた発明情報を、目的(課題)、構成(解決手段)及び効果という切り口で分けてみると、容易に発明を把握できることに気づくはずである。課題(目的)・手段(構成)・作用効果を認識し、それらの対応関係をみれば、所定の効果を得るための具体的手段こそが、発明の構成であることが直ちに理解できるからであり、それこそが客観的に発明を特定するものといえる。
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しかし、ここで注意を要する。目的(課題)、構成(解決手段)及び効果のうち、目的(課題)及び効果は、主観的要素が大きく、視点を変えるとその内容が変わってしまうということである。そして、それらが変わると発明の構成(解決手段)すら変わってしまうということである。よって、与えられた発明情報を、視点を変えて分析し、多面的に発明を捉える必要がある。
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なお、辞書によると、効果とは、「ある行為の、目的にかなった結果。ききめ。」(大辞泉)であるが、特許実務において「効果」の部分をさらに細分化して、「作用・効果」ということがある。ここで、「作用」とは辞書によると「他に力や影響を及ぼすこと。また、そのはたらき。 」(大辞泉)をいうが、特許発明の保護範囲;有斐閣P298(松本重敏)では、コーラーの言葉を引用して次のように述べている。
「 コーラーは解決手段と密接した効果であることを意味するものとして作用的効果(das functionally ergebnis)なる表現を用いている。保護されるのは発明が採用した解決手段にあり,発明の効果そのものは保護されない。つまり「作用効果」とは,「作用」と「効果」であり,「作用」とは発明の構成要素が発明全体に関連するあり方を言うものであり,「効果」は発明によって得られる目的解決の結果を言うものである。「作用効果」はこれを一言で表明するものである。」
さらに、作用に類する言葉として、特許実務では、発明の機能ということも多々ある。「機能」とは、「ある物事に備わっている働き 」(大辞泉)を言う。
作用・機能という言葉は、クレーム解釈において、作用的記載、機能的記載という形で現れるので、注意を要する。そして、発明の効果は、各構成要素が作用し、あるいは機能して、それらの相互作用により生じるものと捉えてよい。
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そして、発明の把握、ひいては発明の特定については、旧法における「発明の構成に欠くことのできない事項(必須要件:不可欠事項)」が、現行法では、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)」 (特36条5項)とされたのであるから、従前のように「構成」で発明を特定しても、それ以外の特定事項で特定しても良いのである。
保護されるのは発明が採用した解決手段にあり,発明の効果そのものではないのであるから、解決手段として「構成」で特定することが可能であるなら、客観的な発明保護の観点からすると、従前のように「構成」での特定を奨励すべきである。
そして、改正後の特許法36条5項で、発明特定の自由度が増した点については、それが、発明保護の観点からむしろ有利な場合には、これを活用すべきである。
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機能(作用・効果)中心に発明把握をする。
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