1-1.はじめに
https://gyazo.com/1954f1fec7169d470d5d9edabd0bcb84
特許明細書は、発明保護の根幹となる重要な書面である。発明を開示して公衆の利用に供するための技術文献として機能するとともに、保護すべき権利範囲を特定して第三者に公示する権利書として機能する。よって、どのように発明を把握して発明の詳細な説明に開示するか、特許請求の範囲(以下、単に請求項またはクレームというときがある)に発明をどのように特定するかは、発明保護の根幹に関わる重要事項である。発明の発掘から保護、活用に至るまで、特許実務に携わる者にとって、この発明を特定する能力を磨くことは、極めて重要である。そこで、明細書の書き方が問題となる。 この点、多くの場合、審査基準や判例に基づいた理想的な明細書のあり方を示し、そのように書くことを勧めることが多い。
しかし、そのようなあるべき姿を示すのみでは不十分で、重要な事は、どのようにすればそのような理想的な明細書を書けるようになれるのか、ということである。ここで行われることは、発明の把握とその言語化である。
では、発明を把握し、それを明細書や特許請求の範囲に記述するために、何をどうしたらよいだろうか。この点は必ずしも明確ではない。
その手法は、長らく徒弟制度よろしく秘伝のごとく伝授してもらうのが常であった。これは、OJTとも言えようが、教育手法としては、効率的ではない。発明の特定は、特許法を離れて存在しない。まずは特許法やその解釈基準となる審査基準を理解すれば、発明をどのように捉え、どのように特定すべきかの基準は自ずと明らかになるところである。これらを明確にし、その基準に従って発明を特定し、記述することが、確かな特許明細書を作成することになろう。
本書は、そのためのスキルと思考法を提供するものである。特許明細書作成のための思考法とあるが、それは取りも直さず、アイデアを言語化・形式知化する方法論とも言える。本書が、これから特許明細書作成実務を開始しようとする者の一助となれば幸いである。なお、本書で特許明細書というとき、便宜上「明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書」を含むものとして使用し、単に「明細書」という場合と区別する。