9340_お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う
読書感想文の選定を娘から相談されたとき、ドリアン助川の『あん』を私は薦めました。ハンセン病がテーマになっている本だということを娘は知っていて、読み進めていくうちに、町の小さなどら焼き店「どら春」の、周りの人々の交流や暖かい雰囲気に惹かれていったそうです。
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町の小さなどら焼き店「どら春」の店長の千太郎は、ある日店に訪れた客の徳江の、しつこい説得により、製あんを手伝ってもらい始めるところから、この物語は始まります。
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徳江が、まるで会話をするように光る小豆を炊き上げ、その小豆のお陰で「どら春」の売上は上がっていったのですが、ある時から売上が落ちてきました。その理由は、徳江の湾曲した指、引きつった右頬にありました... 。
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娘に感想を聞くと、読み始めた時は自分と徳江とは共通点もなく、徳江のことを他人事のように感じていたそうですが、徳江がハンセン病になり、家族と離されて施設に連れてこられた年齢が、同じ 14才だったと知ったとき、自分のことのように感じ始めたそうです。
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娘にとって家族や友達と離れて、たった一人で生活することはあり得ない。一人で本を読んだり、音楽を聞いたりすることは楽しいけれど、一番に楽しいと感じたり、幸せだと感じたりする時は、友達と遊んでいる時や、家族と夕食後に会話する時だというのです。
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この物語の中で私が一番好きな所は、徳江が生きている意味を感じなくなっている時に、夜空の月を見上げた時の回想する場面です。
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私はあの森の道で、本当にただ一人で
月と向かい合っていたのです。
すると、私はたしかに
聞いたような気がしたのです。
ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013
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月が私に向かってそっとささやいてくれたように思えたのです。
お前に見て欲しかったんだよ。
だから光っていたんだよ、って。
ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013
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やさしいお月様のような、どら焼きを前にして、千太郎や徳江のことを思い出してしまいました。読み進むうちに涙が出てきてしまうような、限りなくやさしい魂の物語です。みなさまにも、お薦めします。
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