石田弘樹・一柳亮太郎・岩崎正人「これからの住宅像に関する考察」
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1)プロジェクトの背景
コロナ禍において、私たちの暮らしは大きく変わりつつある。従来型の専用住宅という建築タイプが適合しなくなっており、特に住宅地における外部空間の重要性が高まっている。商業地域では道路使用許可の緩和が施されているが、住宅地においても、前面道路と住宅との関係を見直さなければならない。本プロジェクトでは、位置指定道路(42 条 1 項 5 号道路)が有するパブリックかつプライベートな性質に着目し、ポストコロナ時代に適合した、内部と外部が貫入し合うこれからの住宅像を提示する。
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図1:位置指定道路の現状
(画像右)筆者撮影
2) 位置指定道路という都市の「型」
住宅地において位置指定道路は数多く存在する。調査対象とした東京都杉並区内においてもその数は約 5000 ヶ所確認され
ている。住宅という建築類型と同様、無数に存在する位置指定道路は、都市を構成する「型」として認識することが可能である。そこで、位置指定道路の形状と住宅の配置パタンに着目し
て杉並区内の事例を調査したところ、11 種類の「型」に分類することが出来た。ここでは、最も事例数の多かった「対称型」を対象として、内部空間と外部空間が相互に貫入し合う形態操作のスタディを行なう
(図2)。
3) 内部と外部の相互貫入スタディ
「対称型」の特徴としては、整形の位置指定道路とそれに面する100 ㎡程度の 6 つの敷地、シンメトリーに配された住棟などが挙げられる。位置指定道路という外部空間を、住棟などの内部空間と等価に捉え、内部外部それぞれを立体物として可視化させ、両者の形態上の関係性を考察する。スタディ過程を示す。斜線や曲線を取り入れながら、ヴォリューム(内部)とヴォイド(外部)が平面的かつ断面的に拮抗し合い、相互に貫入し合う状態を検討した。両者が形態的に豊かな関係へと漸進していく過程が示されている(図2)。
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図2:位置指定道路のタイポロジーとボリューム・ヴォイドのスタディ過程
4)既存建物への応用
「対称型」のひとつである杉並区阿佐谷南 2 丁目 11 の位置指定道路においてケーススタディを行なう。幅員 4.0m の道路に接する各敷地の面積は約 95 ㎡で、既存建物は木造 2 階建ての住宅 6 棟である。これら 6 棟の既存建物に対して、前項で得られたスタディNo.16 の相互貫入モデルを適用し、大規模改修を施す。各階平面図を図3に示す。位置指定道路から派生した数々の路地が住棟の隙間と融合し、住宅地における経路選択性が増大しているのがわかる。袋小路の先に生まれた広場と、各住棟に付与されたバルコニーが視覚的に連続し、外部空間が多様に連担していく。(図3)(図4)
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図3:ヴォリュームが削り取られることで多様な屋外空間を生む
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図4:住民同士のコミュニケーションを生み出す多様な屋外空間
5)まとめ
位置指定道路という「空間」の可能性に着目しながら、外部と内部の抜き差しならない関係を考察した。近隣住民が互いにソーシ ャルディスタンスを保ちながらも、多様なコミュニケーションを促すことが出来る、これからの社会に相応しい住宅群の提示を試みた。
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1階平面図
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2階平面図
講評:研究室では、パブリックかつプライベートという両義的な空間性を有する位置指定道路に関するリサーチを継続的に行なっている。今年度は、道路とそれを取り囲む建物、それぞれの形状から11種類の類型を得た。また、内部と外部をvolume/voidの関係に置換し、両者が形態的に美しく拮抗し合う状態をしぶとくスタディしている。その結果、内外が抜き差しならない関係で相互貫入し合う、魅力的な住宅群が提示された。(古澤)