ケアリング・マスキュリニティ
ケアリング・マスキュリニティ
EU の政策において、男性の変化を促すための方法が、「男らしさ」 そのものを否定するのではなく、従来の男性のあり方に替わる新しい男性のあり方を推奨するというアプローチである。 そうした政策におけるキーワードとして近年盛んに EU 内で使用されているのが 「ケアリング・マスキュリニティ=ケアする男性性 (caring masculinitiy)」という概念である。 これまで、育児や介護に代表される「ケア」は「女らしさ」と結び付けられ、男性にとってはふさわしくないものであるかのように見なされてきた。しかし、男性による「ケア」への関与は、ジェンダー平等の実現において重要である。このことは、先に述べた、ジェンダー平等が男性に直接関わる問題である2つの理由に対応している。 第1に、男性のケアへの関与は、ジェンダー平等と女性の経済的自立の促進にとって重要である。男性はこれまで、自らはケア労働から遠ざかり、それらを女性に任せてきた。その結果、男性には職業労働を担い経済的自立を果たすチャンスがより開かれるのに対して、女性は家事・育児・介護といったケアにかかわる無償労働への責任から経済的自立の機会が大きく制限されてきた。また労働市場においても、ケアに関わる職業は家庭内の無償労働と結びつけられることで賃金が低く設定され、主として女性によって担われてきたが、そのことが男女賃金格差を生じさせる一因となってきた。したがって、ジェンダー平等と女性の経済的自立を促すためには、ケア労働を女性だけに任せておくのではなく、男性も女性とケア労働を分かち合うことが求められている。 第2に、男性のケアへの関与は、男性自身の生活の質や健康のためにも重要である。男性はこれまで、他者のケアを女性に任せてきただけでなく、自分自身のケア (セルフケア) も怠ってきた。男性役割を稼ぎ手役割に特化し、タフさやリスクの高い行動をとることを「男らしさ」と同一視し、弱みを見せたり相談したりすることを避けることで、生活の質の低下や健康の悪化を生じさせてきた。したがって男性は、他者はもちろん自分自身をもケアすることにより、自分たち自身に直接利益をもたらすことができるのである。
こうした EU での動向を踏まえ、本調査においても、「ケアリング・マスキュリニティ」を、日本における新しい男性のあり方を考える際のキーワードの1つとして援用している。
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