あなたの中の異常心理
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読了 2020-07-10
概要
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はじめに
本書の目的 : 誰もが持ちうる影の部分を、悪いことではなく、人間の本質に根ざした一面として知ってもらうこと
自分自身の中に潜む異常心理を自覚しておくのは、破綻から身を守ることにもつながる 「異常心理」 = 「精神障害」 ではない
異常心理は正常心理と地続き
異常心理の萌芽は幼い段階にある
多くの人は成長とともに克服していくが、人によってはそれを引きずり、異常心理に行きついてしまう
また、安定しているように見える人でも、ストレスなどが引き金に異常心理が顔を出すこともある
人格の基礎を作る幼い時期から子ども時代にかけての体験が非常に重要
1 章 本当は怖い完璧主義
完璧主義は正常心理としても認められるが、極めつけの異常心理にも通じる 完璧主義が達成されている間はよいが、それが達成されないと完璧主義者にとっては大きなストレスになる
「清く正しく」 という義務感で、自らを欲望に委ねられない傾向
性的にも不器用なことが多い
幼い子どもは反復が好き
完璧主義も、反復衝動をより高次なものに昇華したものと言えるかも
強迫性 : ある行動や考えに執拗にこだわって、それを反復せずにはいられないという衝動 (反復衝動) 人間には、失敗した場面や傷ついた場面を繰り返そうとする反復欲求があるっぽい (自分が傷ついた状況を再現するとか)
心の傷による脅迫性だけでなく、子どものころの刷り込まれたとらわれによるものもある
幼い頃に親などから言われ続けたことが、とらわれとなって、知らずそれに支配される
病床の父が安定していると思って妻とセックスしてたら父親が息を引き取った → 罪の意識
その後生まれた子どもがすぐに亡くなったことで、さらに強化された (それが罪の報いだという意識)
その心の傷と罪悪感を償うために、ガンジーは生涯を通して禁欲生活に
病的なほどに完全癖 (完全性へのこだわり) が強まると、完全を求める気持ちが毀損されることが耐え難い苦痛 青年期には完全癖が強まりやすい
病的な完全癖が表出するときの形の一つ : 不潔恐怖 不潔なものを恐れるというよりは、自分が異物に侵されることを恐れている。 自己保存のみを追及する袋小路に陥った自己愛
完璧主義を捨てよう
もともと潔癖なところがある日本人の国民性 (そうなん? nobuoka.icon)
さらに、西洋的な個人主義の流入で個人の選択を重視する実存主義的価値観も追加
→ 自己実現に向かって努力するというライフスタイルが確立 そこでは完璧な自己の追及が重視され、人と人との絆や個人と共同体の関係は軽視
不完全な自分に耐える力こそ、混乱した見通しのない時代を生き延びるために必要
2 章 あなたに潜む悪の快感
子どもの時にイタズラをしているときの心境 : そこにはスリルやわくわくするような感興がある
基本的なことだが、多くの人が大人になると忘れがち
子どもがイタズラをするのは善悪判断がついていないというのもあるが、楽しさや興奮が伴うからというのもある
快感や愉楽という報酬を伴うから、ついやってしまう
イジメをめぐる多くの議論が忘れていることは、イジメには強烈な快感が伴うということ
いじめている側は、面白くてたまらない
虐待やいじめは、幼い子どもの発達段階に直撃するので、それを根底からゆがめてしまう
他人に対する信頼感や共感性、世界観や未来観に至るまで
窃盗癖や過食症の要因 : 幼いころの根本的な欠落や、それに対する飢餓感が存在し、それを過剰に代償しようとする衝動 改善には十分な愛情と関心が与えられることが重要なカギ
行為が繰り返されるのは快感という報酬があるから。 報酬がない行為が繰り返されることはない
その行為自体から得られる報酬が目的になってしまうと (自己目的化した行為)、他者は生理的な反発を感じやすい (異常だと感じる)
嘘をつくとかふりをするというのも、ある程度は社会で生きていくために必要なことだが、それ自体が目的になると異常心理の領域に入る
注目や関心を惹きつけるために嘘をつく
自己刺激による快楽
自慰行為 : セックスの代用ではなく、自慰行為自体が目的になってしまっていると……? 他者の介在もないので歯止めの利かない嗜癖を形成しやすい、とか
他者のプライベートを覗くことが好きな人が多い
なんでなんだろう? nobuoka.icon
禁止されたタブーを侵犯するときに生まれる
人間の性的快楽と動物の性的快楽の違いはここにある
人間の社会は禁止によって性や死を排除 (秩序の維持や協同的な労働を可能にするため)
その禁止を犯すときに罪の意識とともにエロティシズムを感じる
死の禁止が最も強い禁圧であるがゆえに、命を危うくする行為に最もエロティシズムが潜んでいる
我々の理解とは異なり、バタイユのエロティシズムは孤独のなかにとどまっている。 相互的な共感がない
ここにも自己目的化した快楽の回路が見出せる
親や社会から認められないものが、それを嘆いている限り、自己否定にとらわれて傷つき続けることになる 自ら選び取って認められない存在になることで、自己肯定に変えることができる カウンターアイデンティティの概念、なるほどな nobuoka.icon
バタイユのエロティシズムが死に隣り合わせであることに対して、サドの悪の哲学は力と生の賛歌
サドが犠牲者を求めるのは、弱いものを踏みにじる快楽によって自らの力を味わい、生命の喜びを享楽するため
この章で見てきた行為の背景にあるのは、自分が愛されていないという寂しさや欠落しているという飢餓感
それらを満たしてくれる相互的なかかわりの不足 → 自己目的化した快楽の円環に飢餓感を閉じ込める
逆転を引き起こすための 2 つの要素
自己目的化した行為により、快楽より大きな損失が生じていると認識すること
相互的で共感的な関係を取り戻す体験により、自分を愛してくれる存在を実感し、自分も愛されるに値する人間だと思えるようになること
3 章 「敵」 を作り出す心のメカニズム
失敗や挫折が続くと、他責傾向になり、自身を認めない人を敵とみなすようになりやすい
自己絶対視に陥った人は、間違っているのは相手の方だと固く信じる
人間は社会的な生き物 → のけ者にされると強い社会的痛みを感じる
仲間外れにすることは、明白な加害者になることなく相手に強い苦痛を味わわせられる
苦痛を伴うので、人はこの状態を避けたがる → 躁的防衛 人間を支配する根本衝動は何か? : 性衝動ではなく支配衝動、という思想 1930 年の研究では、男女で相性がいいのは、支配衝動が近く、男性の方がやや強い場合
4 章 正反対の気持ちがあなたを翻弄する
異常心理の理解にも、わかりにくい正常心理を理解するにも、両面性という特性を理解すると良い 頭ごなしに問題点を指摘して改めさせようとするとこじれることが多いのは、両面性を無視しているため
一方だけに偏った言い方をしないことが必要
例えば 「悪い考えがたくさん思い浮かんでくる人」 に 「思い浮かべないように」 というのではなく、「思い浮かべても問題ない」 ということを理解させる → 逆説的治療 絶望した自分に固執してその状態にとどまろうとする心理 → 自己否定を自己肯定に変えようとする防衛機構 脳機能レベルの理解でいうと、前頭前野による制御が低下し、扁桃体などからのネガティブな情動を抑えられない状態 愛着に傷を抱えた人は、ネガティブな情動にかかわる扁桃体が活発になりやすい 5 章 あなたの中のもう一人のあなた
有名な理論のひとつは、人間の行動が意識下固定観念に左右されるというもの とらわれ (= 固定観念) が様々な異常心理の原因になりえる
ユングは少年時代に、シャルコーがヒステリーと名づけ、今日では転換症状と呼ばれる状態を呈した 心的ストレスを表現するだけでなく、疾病利得を得た
とらわれを解消する方法
きっかけとなった出来事を明らかにして、そこで生じた思い込みにアプローチ
不合理な思い込みだけを修正しようとする方法
6 章 人形しか愛せない
現代人にしばしば認められる 2 つの異常心理
人間を物や人形のように支配したいという願望
「私は誰」 というアイデンティティの問題に悩まされるということ
存在自体が何の意味も持たないことを正面から認めることで、アイデンティティを獲得しようという努力から自分を解放する哲学
なぜショーペンハウアーはそういう哲学に?
彼自身、母親から 「捨てられた人形」 だった
子どもは、他者を自分の延長だとみなす自己対象的なかかわりが普通で、成長するにつれて独立した存在としての他者との関わりへ 自己が十分な自立と安定を達成できないと、大人になっても自己対象的なかかわりを引きずりやすい
その場合に困難をきたすのは、まず恋愛や配偶者との関係
そして子育て
社会が自己愛的になり、他者との関係も自己対象的になる中で、それを特徴づける感情
交際や愛情という関係を、支配や所有と取り違えている → 相手との関係が自己対象的
虐待が起こりやすいのは、子どもが自分の意志を持ち始めて行動するようになる時期 親が子を自己対象として扱ってしまった結果、思い通りにならないことが許せない 親の介護に献身した人も同様
7 章 罪悪感と自己否定の奈落
依存性パーソナリティの人は、誰かに頼らないと生きていけないという思い込み → 支配されている方が安心 母親から前向きな言葉をかけられる映像
うつの若者はそれより活動が低下
全か無という二分法的な思考と自己否定
自己否定から自分を守るために二分法的な思考をする
完璧な自分である限り (完璧主義)、自己否定を覆い隠せる 統合機能の再獲得 (= 二分法的な思考の克服) が状態の改善に有効
完璧な達成のときだけでなく、完璧でない達成にも失敗にも価値はあるという見方をする
その人がどれだけ幸福かは、良いことが人より多く起きることではなく、悪いことにもどれだけ良い点を見つけられるか おわりに
人間の根源的な欲求とは?
自己を保存する欲求
他者から愛情や承認を求める欲求
それがないと、病的な自己目的化や自己絶対視 → 出口のない自己追及や、両価性や解離という自己分裂へ
うまく満たされないときにどうするか?
ときどき自分を振り返り、狭い価値観やひとつの視点にとらわれないこと
他者との相互的なかかわり