Management 3.0 勉強会 2020 #2 : Energize People Energize People (4 章、5 章)
人が活発化することの重要性 : イノベーションと複雑さ (4 章)
ソフトウェアプロジェクトは複雑適応系
多くの要素を持つが、人々だけが real agent (あるいは active 要素) である
→ 人々を活発にさせることが Management 3.0 の最初のポイント
競争環境においてはイノベーションが生存の鍵 (企業にとっては死活問題) イノベーションは典型的なボトムアップの現象
トップダウンで何か新しいものを発明するような取り組みが行われても、失敗に終わる
イノベーションは計画されるものではなく発生するもの
人が大事なのはソフトウェアプロジェクトの中で相互作用を始められる唯一の要素だからというのもあるが、別の理由もある
システムが安定であるためには、システムの状態の数が制御機構の数と同じかそれより小さくなければならない
→ あるシステムが別のシステムに制御されるのは、別のシステムの方が複雑な場合だけ
ソフトウェアプロジェクトで最も複雑なのは人々
ソフトウェアプロジェクトの複雑性を制御するに十分な複雑性を持っているので、人にはプロジェクトの制御をする資質がある
ドキュメント化されたプロセスも、コード生成器も、プロジェクトマネジメントツールも、ソフトウェアプロジェクトのプロセスほどの複雑さは持っていない
どう実現するか
イノベーションは人なしでは無意味というだけでなく、実現されなければ無意味
イノベーション発生の 5 要素 (4 章、5 章)
イノベーション発生の元となる 5 要素
知識 (Knowledge) : 人的ネットワークの接続数。 個人の専門知識以上に、ネットワーク上の知識が重要
創造性 (Creativity) : 豊富な知識と多大な時間をかけたハードワークや思考に根ざす
動機づけ (Motivation) : 内発的動機づけ。 動機づけの要因と衛生要因を区別すること
多様性 (Diversity) : 人脈の多様性。 人を採用するときには、どのように組織内の人と繋がっていくかを見ること
人格 (Personality) : 正しいチーム人格がチームの創造性を生む。 チームやメンバーの価値観を知り、チームに適したチームバリューを設定すること
知識 (Knowledge) (4 章)
知識の理論
イノベーションと知識労働者には強い関係がある
知識それ自体は、継続的な環境からの情報入力で形作られる (教育と学習、依頼と要求、測定とフィードバック、そして安定した体験の蓄積といった形)
ソフトウェアチームは、情報を消費・変換し、イノベーションを生み出すシステム
知識はネットワーク上に分散する (脳でも、インターネットでも、組織でも)
ネットワーク内での接続数がパフォーマンスに効いてくる
人の専門知識がパフォーマンスの最重要指標ではなく、組織内でのつながりの数が重要
プロジェクトで使用される知識の多くは暗黙知なので、浸透性コミュニケーションや協働で知識を伝達する必要がある
知識の実践は別のトピックとして独立しているとのこと
創造性 (Creativity) (4 章、5 章) 創造性の理論 (4 章)
知的タスクの 16 % は創造的
知識を価値に変換するプロセスの重要な要素は創造性
創造性は人々の知識と異なる着想の組み合わせ (新しい見方を可能にするもの) を基盤にしている
経験不足だったり未熟な人にとっては創造性は魔法のようにみえるが、実際のところは豊富な知識と多大な時間をかけたハードワークや思考に根ざしている
創造性の独自性と有用性
独自性 : ソフトウェアエンジニアの意図 (希望) は、これまでにないコードで問題を解決すること
抽象化や直接の関係をさける技術を多く持っている
有用性 : 有用なものを作るのがソフトウェアエンジニアのもう一つの目的
つまり、独自性があり有用なものを生産するのがソフトウェア開発の核心
1. 準備 : 問題の位置と大きさを見つける (例えばデータベースサーバーのクエリの時間など)
2. ふ化 : 問題をじっくり考える (意識でも無意識でも) (シャワーを浴びている間やポーカーをしている間など)
3. 威嚇 : 解決策はより良いデータ構造にあって、以前考えていたようなハードウェアの向上や効率的なクエリにはないことを悟る
4. 啓示 : 突然、解決策は 「デノーマライズ」 であるという悟りを得る
5. 検証 : 新しい解決策を試し、意図した結果を得るまで検証と改善を行う
ソフトウェアエンジニアリングのすべての領域で、人々はこのプロセスを使う
創造性の実践 (5 章)
創造性のフェーズ
Preconventional と Postconventional の大きな違いは、制約を無視しているか、制約を知っていてなお新しいものを生み出せるか
上には年齢が書かれているが、対象の知識を持っているかどうかに応じて、年齢に関係なくどのフェーズにも入りうる
知識を持って真の制約を把握しながら、子どものように想像力を発揮することが重要
多くの組織では、従業員は conventional creativity のフェーズにはまっている
革新と組織の存続のために、従業員を postconventional creativity のフェーズに進ませるのはマネジャーの役割
マネジャーができることはいろいろある
初心 (beginner's mind) の開発だけでなく、環境にも目を向けるべき
創造的な環境
安心 : 着想を表現しても安心だと感じられるときにのみ、人は創造的になる
新しい着想についてや、失敗してもいいということを話すには、創造的になる自由とリスクを取る自由が必須である
遊び : ゲームで遊んでいるときには十分な創造性が発揮される。 通常の活動を小さなゲームにしてみたり、昼休憩にゲームをしてみたり
変化 : ルーチンワークは創造性を殺す
可視化 : 他の人の創造性を見えるようにすることで、自分にも創造性がしみこんでいく
ギリギリさ
人々の行動は (一部は) 環境に依存するため、環境の調整を行うことは重要 (マネジャーの責任)
定期的に上記の環境の要素を確認すること
創造性の技術
大量の技術があって書ききれないが、いくつかのカテゴリに分けられる
創造的な解決策を導くためのプロセス。 それらの多くは十分な着想が出るまで繰り返せる多くのステップを含む
問題定義 : 問題を解析し、より理解しやすく再定義する
動機づけの理論 (4 章)
ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、人々は相互作用を開始できる唯一の要素
複雑適応系におけるエージェントは、信号とメッセージを交換して互いに相互作用する
知識を開発し、創造性を発揮し、市場にアイデアを届けるために必要な活動を行うことができる唯一の要素でもある
ソフトウェアプロジェクトを制御する能力を持つ唯一の存在でもある
それらを本当にしたくなるように人々に活力を与える必要がある → 動機づけ
人のやる気などに直接アプローチすることはできないが、努力することはできる
動機づけでよく使われるモデルはマズローの欲求段階説のものがあるが、これは単純化されすぎていて欠陥があると考える 動機づけの実践 (5 章)
組織は単純な系ではない (複雑適応系である) ので、望まぬ副作用によって外発的動機づけはうまくいかないことが多い
常に外発的動機づけがよくないわけではなく、繊細で無自覚だとうまくいかない。 が、複雑系ではだいたい繊細で無自覚
自分が何をしているかわかっていない場合には、Theory X と外発的動機づけは避けること
なぜ内発的動機づけ? : 複雑系においては、外発的動機づけの副作用は予期できず、メリットよりも副作用が大きい
さらにいうと、外発的動機づけによるものよりも内発的動機づけによるものの方がよりよく創造性が発揮される
意欲喪失 (Demotivation)
マネジャーができることは動機づけではなく意欲喪失を防ぐこと、と言われたりもするが、それは正しくない
仕事において、人々を動機づけるものと、意欲を失わせるものは別の物
動機づけ要因 (Motivators) : 挑戦的な仕事、達成、個人の成長、承認、責任…… 10 の欲求
1. 自分がやっていることに有能感を見出せるように : 挑戦的な仕事を与えつつ、とはいえハンドリングできるレベルであること 2. あなたやグループに受け入れられていると感じられるように : 達成を称賛する (ただし、本当にそうだと思う場合のみ)
4. 道義心 (?) (honor) を満たす機会を用意する : 自分たちのルールを作るとか
5. 事業に理想主義 (目的・パーパス) を吹き込む : ただお金をもうけるためじゃなくて、世界をよりよくするために居るはず (ただし、トップマネジメントが真の目的 (お金を儲ける) をわかりにくくするためにそういうのを悪用することもあるので注意) 6. 自立性・自律性を促進する
7. 一定のレベルの秩序は組織で維持する : 人は一定の (最小の) 会社のルールとポリシーを信頼できるときによりよく働ける
8. 周囲で起こることに対して一定の力や影響を持てるようにする
9. 社会的なふれあいのための適切な環境を作る
10. 組織内で一定の地位があると感じられること : 大きな階層構造の一番下にぶら下がっているように感じるべきではない
マネジャーが誰にでも聞ける質問 : 「あなたが最高の仕事ができるようにするために、自分に何ができるか?」
人が動機づけられる理由は様々である
マネジャーは人ごとにメンタルバランスシートを頭の中に置いておくと便利
「Applying Scrum and Lean」 や 「Large Open Office Space」 や 「No Dress Code」 が人ごとにプラスなのかマイナスなのか、みたいな一覧表のイメージ
むずくない? nobuoka.icon
報酬を内発的なものに
外発的な動機づけのために報酬をつかうのではなく、内発的な動機づけにひもづけること
例えば :
本を買うのを安価な報酬とするのではなく、人の好奇心を満たすためにするもの、とする
プロジェクトの達成の報酬としてチームで夕食に行くのではなく、関係性の欲求を満たすために行くようにする、とか
多様性の理論 (4 章)
多様性がシステムを安定させ、変化に強くする
これはマネジャーが避けるべき罠
創造力はその人のバックグラウンドによるので、チームの多様性はチームの創造力を大きくできる
とはいえ多様性を大きくすればするほど創造力が高まるわけではない (警察官がチームにいても創造力が大きくはならない)
人格・性格の理論 (4 章)
創造性には知識と動機づけと人格が重要
人格に関する部分 (尊重、とか) は、チームに応じて選ぶべし
正しいチーム人格なしでは、チームから創造性は出てこない
多様性の実践 (5 章)
多様性を上げる、というと単純に 「チームに女性を増やす」 とかそういうことを考える人も多い
実際には、多様性というのは 「性器の形」 以外にもいろいろある
人のパフォーマンスは、その人が属するシステムによって決まる
その人がどれだけの人とのつながりを持っているかによって決まるという研究もある
つまり、新しい人を採用するときに気を付けるべきことは、その人が組織内でどのように人とつながっていくか
既存のチームメンバーとは異なる人とのつながりを持つような人が望ましい
人脈の多様性こそがチームのパフォーマンスに繋がるため
もちろん人脈の多様性以外にも多様性はいろいろあるが、ジェンダー多様性よりも人脈の多様性の方がパフォーマンスへの影響は大きい
人格と多様性の実践 (5 章)
人格とからめて多様性の残りの課題も論じる
人格の多様性は、チームの安定性、弾力、柔軟性、そして革新を刺激する
一方、団結するために、あるいは衝突を解決するために、十分な共通の素地も必要ではある
どうやって十分な多様性と団結力があるかどうかを知れる? → 人格テストを行うと良い
チームの性格診断に向けての 4 ステップ
1. まずは自分の性格診断を行う。 自分がどういうマネジャーなのかを把握し、チームからどう見られているかに気づく
2. 自分の診断結果を共有する。 自分の強みと弱みを見せる
3. チームメンバーに非公開で性格診断を受けることをお願いする
ここでとめても良い
4. チームに、お互いに結果を見せ合うことを提案する
チームバリュー
チームの性格診断は、チームのコアバリューを決めるにあたって役に立つ
良いチームバリューのリストはチームとその環境から生み出される
「企業のバリュー」 が失敗するのは、それがトップマネジメントにより考案され、現場に課されるものだから (そしてそれはチームごとに異なるバリューが必要であることを勘案していないから)
チームは組織の一部なので、マネジメントや環境との合意は重要
チームの価値だけでなく、個人の価値も考える必要がある
マネジャーのための本を読むと、様々なことを求められるが、実際に同時にそんなにたくさんのことはできないので、注力するものを選ぶ必要がある
最初はチームで選択した価値を自分自身にも当てはめるのが良い
それらの価値の内、1, 2 個を自然とできるようになったならば、それらを自分自身用に変更していくと良い
No Door Policy
最後にマネジャーとチームの関係性について
「Open Door Policy」 というのがあるが、これは著者が最も嫌いなもの
そもそもドアの存在が隔たりを感じさせるし、組織のラインでノードのスキップを推奨したりもする
ドアによって距離を強調するのではなく、組織では、親密さと一体感を協調した方が良い
No Door Policy と呼んでいる
5 章の終わり
この章では複雑系のエージェントにエネルギーを与える方法を見てきたが、この章で終わりではない
6、7 章では、自分たちを組織化する人々について見る
まとめ
Postconventional creativity (「初心」) に至るために、創造性の技術と創造的な環境でサポートする
動機づけるものと衛生要因を区別し、内発的動機にアプローチするのが良い
人脈の多様性こそが最も重要な多様性。 ジェンダー多様性などではない
チームとメンバーは自分たちの特性について知ると良い
チームバリューも自分たちに合わせて定義すべき