なぜ生産性向上が必要か
高度な知識を必要としない仕事をしている人(サービス労働者)がたくさんいる。
彼らに生産した価値に見合った賃金を支払うと、恵まれた知識労働者との所得が大きく乖離して社会的緊張が起きる。 一方で、生産した価値よりも大きな賃金を支払うと、インフレが起こる。 毎月定額の年金で生活している高齢者にとって、インフレは自分の購買力を下げるので好ましくない。 どちらの選択肢も取りづらいが、どうするか。
一つの方向性が、サービス労働者の生産性を高めること。 たとえば今の日本の状況では、少子高齢化で生産年齢人口が減っていく反面、大規模に移民を入れることに対して感情的な反発が大きいので、自動化による生産性向上のニーズが高まる。
膨大な数のサービス労働者が、比較的低い技能と教育しか必要としない仕事に携わっている。サービス労働者の生産性が低い経済では、その生産性を大きく上回る賃金を支払うなら、結局インフレがすべての者の実質所得を引き下げる。そしてまもなくそのインフレが深刻な社会的緊張をもたらす。しかしサービス労働者が彼らの生産性に見合うものしか支払われないとすると、彼らの所得と恵まれた知識労働者の所得の乖離は拡大せざるを得ない。この乖離が同じく深刻な社会的緊張をもたらす。
インフレか失業か: 従来失業は最も危険視されていた。高齢化社会ではインフレが最も危険視されている。インフレは年金に頼る退職者にとって最大の脅威である。50を過ぎた従業員にとっても将来の購買力が下がることは驚異である。この二つの世代を合わせるとすでに成人人口のほぼ半数に達する。しかも失業は退職者や中高年の就業者には脅威が小さい。
肉体労働者の生産性の急速な向上は、階級闘争という19世紀の悪夢を追い払った。そしてサービス労働者の生産性の向上が、知識労働者とサービス労働者の間の新たな階級闘争を回避するだろう。サービス労働者が十分な所得と尊厳を得られない限り、ポスト資本主義社会は階級社会と化す恐れがある。
マルクスが危惧した労働者対資本家という構図は、テイラーの科学的管理法の登場で崩壊した。 車体1台の組み立て時間は12時間半からわずか2時間40分に短縮され、年生産台数は25万台を超え、1920年までに100万台を突破した。//1914年には1日当たりの給料を2倍の5ドル(2006年の価値では103ドルに相当する)へと引き上げ、勤務シフトを1日9時間から1日8時間・週5日労働へと短縮する
当初「労働者の生産性<<労働者+機械の生産性」だったものが、知識による生産性向上の成果で「労働者+機械の生産性<<(労働者+知識)+機械の生産性」となった結果、知識を持った労働者と機械とは相互依存的な関係になり、マルクスが予想したような階級社会にならなかった。同様に今後発生しうる階級社会、格差社会に関しても、知識の力による生産性の向上が切り札になるだろう。