発想支援システムの研究開発動向とその課題
人間の創造的問題解決あるいば思考のプロセスのモデル
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創造的問題解決支援システムを構築するには,本質的にはほとんど研究開発されていないこの表1の上半分のプロセスを支援する機能をインプリメントすることが必要である
我々が「発想支援システム」と呼ぶのは,「発散的思考,収束的思考,アイディア結晶化」までの人間の創造的問題解決プロセスを支援するコンピュータシステムのこと
「思考支援システム」というのは,最後の「評価・検証」まで,すなわち「発散的思考,収束的思考,アイディア結晶化,評価・検証」までの創造的問題解決の全プロセスを支援するコンピュータシステムを構築すること 創造活動において,創造者の置かれている環境とのインタラクションの重要性がさまざまな識者から指摘されている.その意味で「(最も広義の)創造性支援システム」は図1に示されるように,「思考支援システム+創造的環境」の構築として定義されよう https://gyazo.com/3607f208adb3b757c774b6259d8d0167
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発散的思考支援ツールのカバーする問題解決プロセスは,「問題提起,現状把握」からなる ここでは,そもそも問題は何かを明らかにすること(問題提起)から出発し, 問題意識を明らかにすることから開始することもある
提起された問題に対して,関連情報を虚心坦壊に収集し,現状の分析(現状把握)を行う 初めは内省的に自分自身の経験的記憶の思い出しから始め,ついで文献検索,インタビュー,野外観察などのあらゆる情報収集手段を通じて,与えられた問題の関連清報を360度の角度から分析する
その際,できるだけ客観的かつ新しいデータ収集に努め,いたずらに批判したり,特定の視点を通してのデータ収集を行わない
自分自身の問題意識に従って,虚心坦懐にふと気にかかるデータを収集することが必要である
収束的思考支援ツールのカバーする問題解決プロセスは「本質追求」である 問題提起や現状把握を通じて得られた関連清報の奥に隠されている問題の本質を追求し,問題解決のための本質的仮説を読み取っていく
己を空しうして関連情報の訴えかける心を冷静に判断していく
与えられた全清報を構造化するなかで,非本質的情報を捨象し,本質的情報を抽出していく
すべてを包括する概念が形成されたとき,問題の本質にあたる仮説が形成されたとみなされる このプロセスの中心は仮説の生成であり,人間にとって最も苦心さんたん惨憎するところである
わかるmtane0412.icon
このプロセスを経て,一般に複数の候補仮説が生成される
アイディア結晶化支援ツールであるが,ここでは問題の本質を評価し,問題解決に最も有効と評価される仮説を直観的に評価し(ときには,インスピレーションによって)採択する この仮説評価・決断には,どのような観点から仮説を評価するかの暗黙の評価基準と評価関数を顕在化しなければならない
意思決定問題と同様の仮説評価・決断手法が要求される
残念ながら,このいわばインスピレーションのプロセスを支援するツールの研究はほとんどなされていない
評価・検証支援ツールであるが,
この過程はある仮説が採択されたらどのような構想が想定されるかという構想計画, この構想計画を既存の知識ベースの知識を用いて推論し,現実の世界で実現可能な方策に展開していく具体策, 現実世界で実践(あるいは実験)可能な手順の系列,例えば PERT、に展開していく手順の計画, 与えられた制約のなかで状況の時々刻々たる変化を適応し,最適と思われる手段を実行していく実施, 成功および失敗それぞれから最大限に学び,自分の持っている知識を修正していく総括・味わいのプロセスからなる. この「構想計画,具体策,手順の計画,実施,検証,総括・味わい」のプロセスは日常の問題解決でしばしば遭遇するものである.従来から広く利用されている問題解決のための工学的ツール(例えば,構想計画,具体策,手順の計画用の支援ツール)は,このプロセスの一部を支援している
したがって,ここでは既存のありとあらゆる工学的方法を利用し,問題向きの評価・検証支援ツールを研究開発することが主要課題となる
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この表3をまとめる際に最も興味深かったのは,
日本においては, KJ法の影響が強く, KJ法を中心とするボトムアップ的な収束的思考支援ツール[杉山93]に優れたものが多く, 逆に欧米においては,人工知能技術を駆使した発散的思考支援ツール[折原93]にオリジナルなものが多かった という事実である
[國藤91a]で指摘したように,知識システム構築には三つのボトルネックが存在する 1. 「問題の定式化」ボトルネック
問題の設定,既存技術の評価,知識源の同定,専門家モデルの同定,ユーザーモデルの同定からなる
2. 「知識表現の選択」ボトルネック
3. 「知識獲得」ボトルネック
知識の抽出,知識の変換,知識ベースの管理からなる
これら三つのボトルネックの下流工程の獲得ボトルネックを解消するための支援ツールの研究開発は多々なされている
しかしながら,問題定式化ボトルネックや知識表現ボトルネックの問題を支援するツールはほとんど存在しない.
表4に見られるように,川喜田の方法論との一致が強く見られる
この分野においても,仕様が与えられる以前の上流工程(ニーズ,要求,設計,仕様化)支援ツールの実現が強く求められている
知識システムの構築と同様に,ソフトウェアプロセスの上流工程支援用発想支援ツール実現の必要性が期待されているわけである.
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発想支援研究の技術的課題
このような空間の全体と個々のデータを限られたディスプレイサイズのなかで,いかに同時に表示するかという問題を我々は一覧性の問題という KJ法支援システムなどを構築する際の主要な問題の一つである
認知科学の教科書をひもとくと,人間の認知情報処理のスピードには,さまざまな処理のレベルがある
現在研究開発中のある種のシステムは,明らかにその設計方針からして,ユーザの入力に対する応答時間が遅すぎて,思考の流れを中断するものがある
このような発想支援システムは研究開発の可能性を実証するのにはよいであろうが,現実のフィールドではけっして使われないであろう
このメンタルワールドと計算機のディスプレイ上の表示が一致したとき,人間は最も理解しやすく,考えやすいといえる
①ユーザ目標の決定
②望ましい状態(意図)の形成
③それを実現する入力の選択
④入力の実行
⑤システムの状態の知覚
⑥状態の解釈
⑦目標状態と実際の状態を比較(評価)
②から④に至るには,ユーザ目標をシステムの物理的状態に変換する「実行の淵」をブリッジしなければならないし, ⑤から⑦に至るには,システムの物理的状態をユーザの目標に変換するという「評価の淵」をブリッジしなければならない これら二つの淵は,「目標→実行」,「実行→評価」が1段階で行われるのが理想であり,そのために直接操作インタフェース(Shneiderman87)の重要性を喚起している 発想支援システム向きのインタフェースには,直接操作インタフェース[神田93]のような人間の認知情報処理の特性を十二分に活用するものを提供することが期待される
発想支援研究の人間的課題
これら三つの変換過程に対して,移植を支援するテクノロジーは,現在のところ存在しない.知識や技術の伝承において,弟子入り方式以外方策なしといわれる分野が多々存在する
ニューロ技術,ファジィ技術,メディア技術,仮想現実感技術のような新しい技術の登場が,内面化,分節化,さらには移植を支える要素技術となる可能性がある.
不得手機能の問題
人はそれぞれ得意なタイプの思考形態がある
そこで発散的思考が得意な人には,収束的思考支援ツールを提供し,逆に収束的思考が得意な人には,発散的思考支援ツールを提供するのが望ましいと考えられる
自分の不得手な思考支援機能を提供することが,適切なコンピュータ支援のあり方と思われる
このような機能実現のための類型タスク(generic task)(Chandrasekaran 88)の抽出はいまだ不十分であり,現段階では何が発想支援システム構築のためのプリミティブかどうか,さまざまの人間科学的実験をし,実験データを蓄積すべきフェーズである 態度技法の問題
高橋は創造工学の分野で生まれた創造技法の体系的分類を行い,四種に分類[富士通国際研91、高橋84、高橋93]した 発散的思考支援ツール
収束的思考支援ツール
創造的思考支援環境の構築
これらを支援するシステムを構築しようとすると,我々は創造的環境まで考慮に入れた創造性支援システムを構築しなければならない.
発想支援研究の社会的課題
独創性評価の問題
日本人は古来,自分達あるいは仲間のした仕事に対して,その仕事が独創的かどうか評価することに自信がない その結果,海外である仕事が評価されると,急に態度を翻して,その人を評価し直すことが多い 他方,海外ではどうかというと,例えば博士論文を開始するにあたって,その指導教官から「君,このテーマはギリシャ時代に OX君が考えたから止めなさい」と,テーマ変更を要請されたヨーロッパ留学中の友人がいた
この例は極端かもしれないが,ギリシャ・ローマ時代の歴史的遺産を継承し,本当にオリジナルなテーマだけをがっちり研究しようという雰囲気がヨーロッパにはある
ノーベル賞級の研究を行った人の恩師がやはりノーベル賞級の研究を行った人であることも,よく聞く話である
いずれにせよ,我々は本当にオリジナルな研究とは何かの見識を常日頃から高めておき,そのような萌芽的研究をおおいにエンカレッジする必要がある. 問題解決の型の違い
欧米と日本の問題解決の型(方法)の違いを表すのに,よくトップダウン的であるとかボトムアップ的であるといわれる
このことは,発想支援システムの構築に関しても当てはまる
それぞれの国,組織,企業独自の問題解決のやり方に適合するような,発想支援システムを構築することが期待される
例えば,日本ではゲーム感覚的にディベートやブレーンストーミングを楽しむ雰囲気がないので,このような雰囲気をエンカレッジする発散的思考支援ツールの提供が望まれる グループウェアの最近の話題である感知(awareness)の話題も,日本的問題解決の仕組みには巧みに組み込まれている 例えば,日本的「大部屋」効果をかもしだす情報フィルタリングシステムの研究[藤井93]もすでにスタートしている.