内集団ひいき
内集団や内集団の成員を肯定的に評価したり、多くの報酬を分配したりすると同時に、外集団を冷遇する方向に働き、両集団の相対的な地位の差を拡大させる
内集団ひいきの理論
限られた資源をめぐって集団同士が競合する場合に、集団間に葛藤が生じるとする理論
集団間には利害対立があり、外集団は内集団の利益を脅かす存在だからこそ、内集団ひいきが生じる
心身ともに健康な少年が参加したサマーキャンプを利用して、集団間の葛藤の発生とその解消の過程を追った現場実験
3つの段階から構成
内集団を形成する段階
少年は11名ずつ、2つの集団に分けられ、それぞれの集団は互いの存在を知らないままキャンプ生活を送った
この間、様々な活動を通じて親睦を深め、集団内にはリーダーや規範、グループの名称やシンボル、独自の合図などができていった
利害対立による集団間葛藤を導入する段階
相手集団の存在を知らせ、対面させて、少年たちにとって魅力的な賞品をかけたソフトボールや綱引きなどの対抗試合を催した
その結果、いずれの集団にも相手集団に対する敵対感情が生まれ、試合以外の場面でも罵倒をしたり、夜中に相手の団旗を燃やすなど、攻撃行動(→9. 対人行動)がエスカレートしていった 前段階で生じた集団間葛藤を解消する試み
まず、競争的でない場面(映画、食事など)で2つの集団を一緒に過ごさせるという試みがなされたが、葛藤は解消せず、両者の対立はむしろ深刻化した
そこで次に、共通の上位目標を設定した
たとえば、食料を積んだトラックが溝にはまって動けなくなってしまったなど、集団という区別を超えて、すべての少年が協力しなければ解決できないような状況を複数用意し、それに取り組ませると、葛藤や敵対的感情は徐々に減少し、互いの間に有効的な感情が芽生えるようになった
その後の研究で、内集団ひいきは、現実的な利害対立がない場合や、成員間の相互作用すら存在しないような場面でも生じることが指摘されている
具体的にはまず2種類の抽象画を見せ、どちらの絵がより好きかという回答によって集団を分けたり、スクリーンに多数の点を映し、その点の数を推測して、過大推測をした集団と過小推測した集団に分けたりするなど、人工的な規準で集団を二分する
そのうえで図11-2のような分配マトリクスによって、匿名の内集団成員1名と外集団成員1名についての報酬の分配額を決める
https://gyazo.com/4014617cadedc6b503adf13df2c3c6dd
マトリクスに記載されているのは分配される得点であり、実験終了後に実際の報酬に交換されることになっている
こうしたマトリクスには種類があり、それによって分配がどのような動機に基づいているかが推測される
例えば、図11-2の上段に示したマトリクスでは内集団成員利益を増やそうと思えば思うほど左側の選択肢を選ぶことになるが、内集団成員の利益の増加と外集団の利益の現象は連動するようになっている
一方、下段に示したマトリクスでは、より右側にある選択肢を選ぶほど内集団の絶対的な利益は増えるが、それ以上に外集団の利益も増える
したがって、もし単純に内集団成員の利益を増やしたいのではなく、外集団成員の利益との差を広げたいという動機に基づいて報酬分配を行うのであれば、このマトリクスでは左寄りの選択肢を選ぶはず
一連の最小条件集団パラダイムの実験で得られた結果は、まさに内集団の利益の差を拡大させるもの
人はどんな些細な基準であっても集団が内集団と外集団に区分されれば、対面したことのない内集団成員に対して内集団ひいきすること
内集団成員の利益の一部を犠牲にしてさえも、外集団成員の利益との間には明確な差をつけようとするということ
また、人は自尊感情を高めたいという基本的な動機づけを持っており(自己高揚動機)、外集団に対して内集団の地位を優位に保つことは、望ましい社会的アンディティを持つこと、ひいては自尊感情を高めることにつながる 社会的アイデンティティ理論によれば、それゆえに、人は内集団と外集団の利益の差を拡大する方向に内集団ひいきをするという
実際、現実場面においては、所属している集団の凝集性が高い場合や、集団への同一視が強いほど、内集団ひいきが起こりやすいなど、この理論を支持する方向の知見が報告されている
最小条件集団パラダイムに基づく実験と、その説明としての社会的アイデンティティ理論は、単に集団を何らかのカテゴリーで分割するだけで、外集団を貶めようとする動機が働くという強い仮定を含むものであったため、その後多くの反論が提出された
この仮説では、詐称条件集団パラダイムが相互依存の状況であり、個々の参加者に互酬性(返報性、互恵性)が期待されたことに注目をしている 最小条件集団パラダイムでは、集団成員は互いに匿名で、直接的な相互作用もないなかで、内集団成員と外集団成員への報酬の分配額を決定することが求められていた
またこの決定は、参加者自身が受け取る報酬とは無関係だったため、タジフェルらはこの実験のパラダイムは相互依存関係がない状況だと仮定していた
しかしその一方で、実験の参加者には、参加者全員が同様の報酬分配を行うという説明がなされていた
つまり各参加者は、他者に報酬を分配する者であると同時に、他者から報酬を分配されるものとして、自分の役割を捉えていたと考えられる
このような状況は、現実には相互依存の関係はなくとも、それに近似した関係性が認識される可能性がある
そして、相互依存の関係が存在する集団内では、集団成員は互いに助け合うものだという一般互酬性が成り立つと考えられる なぜなら、閉ざされた関係性の中では他者に与えた恩恵が回り回って自分に帰ってくる(間接互恵性)ことが期待されるから 実際、報酬を分配する際、互いに分配し合うという互酬性(互恵性)のある条件と、分配するのは自分だけで、被分配者になることはないという条件を設定したところ、後者の条件では内集団ひいきが起きなかった(神・山岸・清成, 1996) この結果から最小条件集団パラダイムに見られる内集団ひいきは、内集団成員に利益を与えることが目的であって、外集団を差別することが目的ではないことがわかる
外集団成員の冷遇は、あくまでも内集団成員を優遇することに伴う副産物