攻撃行動
攻撃行動を説明する理論
本能説(内部衝動説)
攻撃行動を引き起こす衝動を人間が生まれつき持ち合わせている
精神分析学者のフロイトによる攻撃本能論が良く知られている
動物行動学者のローレンツも、動物には攻撃中枢があり、食欲や性欲が発動するのと同じ用に、攻撃性に関する衝動が内発的に高まるのだとしている
欲求不満-攻撃仮説
攻撃行動の背景に欲求不満(フラストレーション)があると考える(Dollard, Miller, Doob, Mowrer, & Sears, 1939)
欲求不満: 目的の達成が阻害されたときに生じる不快感情
すなわち、この仮説では、攻撃の衝動は外部の刺激によって喚起されると考えられ、その点で攻撃衝動を本能的、内発的なものと仮定する本能論とは大きく異なる
この仮説によれば、攻撃行動の目的は、欲求不満を引き起こした問題の解決ではなく、不快感情の解消にある
そのため、時には欲求不満とは因果的に無関係な対象に攻撃が向けられることがあり、たとえそうであったとしても不快感情は低減する(カタルシス効果がある)
学習説
攻撃行動は観察学習によって生じると仮定する
バンデューラの実験(Bandura, Ross, & Ross, 1963)
子どもに他者の攻撃行動の様子を観察させると、それが直接的な観察であっても、間接的なものであっても、子どもが攻撃行動を模倣することが示された
モデル
一般攻撃モデル
攻撃行動を促進する要因
個人要因
攻撃行動に個人差があることは数多く指摘されている
メタ分析の結果によると、全体としては男性のほうが女性よりも攻撃的だといえるがその差は大きくなく、研究によって一貫しないという(Eagly & Steffen, 1986)
男性と女性では、攻撃の種類が異なることも指摘されている
男性は身体的攻撃をする傾向が強い
女性は心理的、社会的な危害を与えるような攻撃が目立つ
自尊感情
かつては低いことが攻撃行動につながるとされていた
近年は高すぎることの弊害が指摘されている
特にナルシシズムとも称される肥大な、不安定な自尊感情を持つ者は、自尊感情が低下する危機にさらされた際に攻撃行動を表出しやすい(Baumeister & Boden, 1998)
敵意的帰属バイアス
敵意性の原因帰属(→3. 原因帰属と社会的推論)によっては認知バイアスがあり、攻撃的な子どもは他者の行動の原因を敵意的な意図(悪意)に求めやすい(Nasby, Hayden, & DePaulo, 1980)
状況要因
不快な環境事象が攻撃行動を促進することが多くの研究で報告されている
高い気温、混雑(密集)、騒音、大気汚染など
視界に銃などの凶器があると、それだけで攻撃行動は誘発される(Berkowitz & Lepage, 1967)
暴力的なテレビ映像の視聴や暴力的ビデオゲームで遊ぶことを攻撃行動の危険因子として指摘する研究者もいる(Anderson & Bushman, 2001; Anderson & Bushman, 2002b)
コンテンツや技術的な変化が著しいため、明確な結論を出しにくいのが実情
欲求不満を募らせるような目標妨害は攻撃行動を促進する
攻撃には社会的な機能がある(後述)ため、他者からの攻撃や支配、侮辱や挑発に対しては、攻撃行動が発動されやすい
没個性化(→7. 自己過程)の状況では、攻撃行動の抑制が阻害されやすい