体節のアイデンティティの指定
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セレクター遺伝子は、他の遺伝子の活性を制御し、その遺伝子の発現パターンを維持するために発生を通じて必要とされる ショウジョウバエの体節のアイデンティティを制御するセレクター遺伝子のホモログは、その後、ほとんどすべての動物種で発見されており、前後軸に沿ったアイデンティティを広範囲にわたって制御している 2.27 ショウジョウバエの体節のアイデンティティは、Hox遺伝子によって指定される
最終的にそれらの突然変異を引き起こす遺伝子は同定され、それらが体節のアイデンティティを指定する複雑な方法が解明された 他の生物でも、同様に機能し、本質的には前後軸に沿ったアイデンティティを指定する相同遺伝子が発見された Hox遺伝子は現在、動物というものを規定する基本となる特徴の1つであると考えられている
ショウジョウバエはHox遺伝子は2つの遺伝子クラスターを構成しており、それらはまとめてHOM-C複合体を構成する https://gyazo.com/c06c4669e3bf5fe8060163ba870e8504
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これらの特異な形質転換は、ホメオティックセレクター遺伝子のアイデンティティ指定因子としての重要な機能から生じている
それらは体節内のほかの遺伝子の活性を制御し、したがって例えば特定の成虫原基が翅もしくは平均棍に発生することを決定する bithorax複合体は擬体節5~14の発生を制御し、Antennapedia複合体はより前方部の擬体節のアイデンティティを制御する
2.28 bithorax複合体のホメオティックセレクター遺伝子は、後部体節の多様化を担っている
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これらの遺伝子は、擬体節において組合せ方式で発現している(図2.48上)
Ubxは擬体節の5~12のすべてに、abd-Aはより後方の擬体節7~13、Abd-Bはさらに後方の擬体節10以降に発現している
異なった体節では、それら遺伝子は違った程度で活性化されるため、それら活性の組合せがそれぞれの擬体節の特徴を規定する
Abd-BはUbxを抑制し、擬体節14に近づくにつれてAbd-Bの発現が増加するので、Ubxの発現は擬体節14では非常の低くなる
bithorax複合体の役割は最初、古典的な遺伝学実験により示された
bithorax複合体をすべて欠く幼虫(図2.48 2番目)は擬体節5~13がすべて同様に発生し、これらは擬体節4に類似する
したがって、bithorax複合体はそれらの擬体節の多様化に必須であり、それらの基本パターンは擬体節4で代表される
この擬体節は一種の"デフォルト(基底)"状態であると考えられ、それにより後方の擬体節すべてはbithorax複合体によりコードされているタンパク質により修飾されていることになる
bithorax複合体の遺伝子がセレクター遺伝子と呼ばれるのは、それらがデフォルト状態に新しいアイデンティティを付け加えることができるから bithorax複合体の各遺伝子の役割は、複合体すべてを欠く胚に、1つずつ遺伝子を戻した胚を作製して観察することにより導き出すことができる(図2.48 下3つ)
もしUbx遺伝子のみが存在する場合、幼虫は擬体節4を1つ、擬体節5を1つ、擬体節6を8つ持つ
あきらかにUbxは、擬体節5以降のすべてに何らかの影響を及ぼしており、擬体節5および6を指定できることになる
abd-AおよびUbxを胚に戻した場合、幼虫は擬体節4, 5, 6, 7, 8を持ち、それに5つの擬体節9が続く
したがってabd-Aは擬体節7以降に影響し、Ubxとabd-Aの組合せにより、擬体節7, 8, 9の形質を指定できる
Abd-Bは擬体節10以降に影響を与え、擬体節14でもっとも強く発現する
各体節間の相違は、Hox遺伝子発現の空間的、時間的パターンの相違を反映しているのかもしれない
これらの結果は、擬体節の形質は、bithorax複合体の遺伝子が組合せで機能することにより指定されるという重要な原理を示している
組み合わせによる効果は、野生型から1遺伝子ずつ取り除くことによっても知ることができる
例えば、Ubxの欠失は、擬体節5および6を擬体節4に形質転換させる(図2.48下)
さらに、擬体節7~14のクチクラのパターンにおいては、胸部に特徴的な構造が腹部にも存在するようになるという影響もあり、Ubxがそれらすべて体節に影響を及ぼしていることを示している そのような異常は、bithorax遺伝子の"ナンセンス"な組合せの発現によるものかもしれない
例えばそのような突然変異体では、abd-Aタンパク質が擬体節7~9でUbxタンパク質なしで発現しているが、このような組合せは通常では起こり得ない
脚のような付属器の位置は、Hox遺伝子により決定されている
例えばAntp遺伝子およびUbx遺伝子の発現はそれぞれ第2および第3脚が出現する体節を指定する Hoxタンパク質の下流標的は同定されつつあり、非常に多くの遺伝子の発現が影響を受けている可能性がある
ギャップタンパク質およびペアルールタンパク質が最初にHox遺伝子の発現を制御するが、それらのタンパク質は4時間以内に消失する
その後のHox遺伝子の正常な発現には2グループの遺伝子が関与している
最初に発現していないHox遺伝子の転写抑制を維持
Hox遺伝子がオンになっている細胞での発現を維持
2.29 Antennapedia複合体は前方領域の指定を制御する
Antennapedia複合体は5つのホメオボックス遺伝子から構成され、擬体節5より前方の振る舞いを、bithorax複合体と同様の方法で制御する
複合体のいくつかの遺伝子は、特定の擬体節の指定に決定的に関与する
通常は発現していない前方部の体節でAntp遺伝子を異所発現するAntennapedia突然変異は、成虫のハエの触覚を脚に形質転換させる
2.30 Hox遺伝子の発現順序は染色体上の遺伝子の順序に対応している
bithoraxおよびAntennapedia複合体は、遺伝子が並ぶ順序が、発生中に前後軸に沿って発現する空間的および時間的順序と同一
例えば、Ubxは染色体上でabd-Aの3'側に存在するが、Ubxはabd-Aより前方部で、より早期に発現する 脊椎動物が持つ類縁のHox遺伝子複合体は、その祖先は節足動物のものとは何億年も前に分岐したのだが、遺伝子の順序と発現の順序の間に同一の相関を示す bithorax複合体遺伝子の受ける複雑でありながら繊細な制御は、Ultrabithoraxタンパク質を全体節に産生させることにより観察することができる
この遺伝子の異所的発現は、Ultrabithoraxタンパク質をコードしている配列を熱ショックプロモーター(29℃で活性化されるプロモーター)に結合し、この新規DNAコンストラクトをP因子によりハエゲノムに導入することにより行われた このトランスジェニック胚に数分間の熱ショックを与えると、過剰なUbx遺伝子が転写され、すべての細胞でたくさんのタンパク質が産生される 後方の擬体節(Ubxタンパク質が野生型で存在する)においては、擬体節5が擬体節6に形質転換するという原因不明な例外(このことは、Ubxタンパク質の定量的効果を反映しているかもしれない)を除いて、この操作の効果はないあ
しかしながら、5より前方の擬体節はすべて擬体節6に形質転換する
この効果は比較的単純であり、予想されたものであるが、擬体節13に起きたことを考慮する必要がある
野生型胚の擬体節13では、Ubxの転写は通常抑制されているが、熱ショックによりUbxタンパク質を発現させても効果はない
何らかの機構により、この擬体節ではUltrabithoraxタンパク質は不活性化されている
この現象は擬体節の指定においてはきわめて一般的であり、"表現型抑制"もしくは"後方優位性"として知られている このことは、通常、前方部で発現しているHox遺伝子産物は、より後方側で発現している遺伝子産物に抑制されていることを意味している
体節のアイデンティティを制御するbithorax複合体およびAntennapedia複合体の機能は十分に確立されているのに対し、それらの遺伝子が発生経路において次に作用する遺伝子とどのように相互作用するかについては、あまり知られていない
体節の独自のアイデンティティとなる構造を、実際に作り出している遺伝子が存在する
例えば、腹部体節の構造ではなく、胸部構造を形成する経路はどのようなものであろうか
それぞれのHox遺伝子は少数の標的遺伝子を活性化するのか、それとも多くの標的遺伝子を活性化するのであろうか
特定の構造を形成するのに、異なる機能をもつ標的遺伝子が協調して作用するのであろうか
2.31 ショウジョウバエの頭部領域は、Hox遺伝子以外の遺伝子により指定される
ショウジョウバエの幼虫の大顎より前方部の頭部は、最も前方部の3つの擬体節により形成される
体節構造は胚の脳でも明白であるが、それは3つの体節(神経分節)より構成される しかし、前方の頭部および胚の神経系の指定は、ペアルール遺伝子やHox遺伝子の制御下にあるわけではない これらの遺伝子は、すべて遺伝子制御タンパク質をコードし、表現型に対する効果はギャップ遺伝子に類似している
しかし、胴体や腹部を領域化するギャップ遺伝子とは異なり、それらはお互いの活性を制御することはない
頭部体節に特定のアイデンティティを付与するために、Hox遺伝子のように組合せ方式で機能するかは知られていない
orthodenticleおよびempty spiraclesには同様の機能を持つ脊椎動物の相同遺伝子が存在し、頭部指定機構が、Hox遺伝子のように動物界で古い進化的起源を持つことが明らかになっている
orthodenticle遺伝子およびempty spiracles遺伝子は、ホメオドメインを持つ転写因子をコードする遺伝子がHox遺伝子クラスターの外に存在する例となっている DNA結合ホメオドメインは、Hox遺伝子クラスターにコードされるタンパク質に限定されるわけではなく、同様のドメインはショウジョウバエ及び脊椎動物の発生を制御する他の多くの転写因子でも見つかっている まとめ
体節のアイデンティティは、異なった擬体節それぞれが独自の個性を取得するように導く、セレクター遺伝子もしくはホメオティック遺伝子の働きにより付与される
一般的にHox遺伝子として知られるセレクター遺伝子の2組のクラスターが、ショウジョウバエの体節のアイデンティティ指定に関与している
Antennapedia複合体は、頭部および第1胸部体節の擬体節のアイデンティティを制御
bithorax複合体は残りの擬体節において機能している
体節のアイデンティティは、その体節内で活性化されているHox遺伝子の組合せにより決定されているようである
胚体に沿ったセレクター遺伝子の空間的発現パターンは、それ以前のギャップ遺伝子の活性によって最初は決定されているが、必要とされる表現型を維持するためには、発生期間中にセレクター遺伝子が常に活性化されている必要がある
Antennapedia複合体およびbithorax複合体の遺伝子の突然変異は、例えば触覚が脚になるといったような、1つの体節もしくは構造が相関性のある別なものに変化するホメオティック・トランスフォーメーションをもたらすことがある
Antennapedia複合体およびbithorax複合体は、染色体上の順序がからだに沿った遺伝子発現の時間的・空間的順序に対応するという点で注目に値する