誤信:銀行が日銀当座預金に資金を寝かしているから融資が増えない
竹中正治 龍谷大学経済学部教授
日銀によるマイナス金利導入について、誤った理解が流布している...
<誤解その1:銀行が日銀当座預金に資金を寝かしているから融資が増えない>
メディアの解説などでよく見かける誤りの第1は、「日銀が民間銀行から国債を大規模購入しマネーを供給しているのに、民間銀行は日銀の当座預金に資金を寝かしておけばリスクなしに0.1%の利息が得られるので融資を十分に伸ばさないでいた。今回のマイナス金利導入でようやく銀行の尻にも火がつくだろう」という理解である。
これは全くの間違いだ。実は民間銀行が融資を伸ばしても、日銀当座預金残高は変わらない。
例
単純化して民間銀行は1行だけだと想定する。
私が銀行から5000万円の住宅ローンを借りると、銀行のバランスシート上に資産として「住宅ローン5000万円」が計上される。同時に銀行の負債サイドにある私の普通預金に5000万円が入金され、預金残高が増える。
私が住宅の売り主に5000万円を払うと、私の預金はその分だけ減り、売り主の預金が5000万円増える。以上の金融取引は銀行が日銀に置いている当座預金残高をなんら変化させない(下の図表1参照)。
https://gyazo.com/5221abe30d5242504cafa750c5ad16c9
もちろん現実には複数の銀行があり....しかし、銀行業界全体の日銀当座預金残高は全く変わらない。これは融資と預金が両建てで増減する銀行の信用創造の基本原理である。
正確に言うと、銀行は預金残高に応じて一定の残高を日銀当座預金に置くことを義務付けられている。
これを所要準備額と呼び、現在約9兆円だ。融資(=預金残高)が5000万円増えると、銀行の所要準備額が5000万円に準備率を掛けた分だけ増える。 所要準備がまず決まり、それを超えた分が超過準備のため、所要準備の基準が増えたら超過準備はへる
今回導入されたマイナス0.1%金利(引用者注:マイナス金利付き量的・質的金融緩和(2016年1月))は、超過準備額の今後の増分にのみ課され、所要準備額には課されないので、銀行にとってその分だけ損益的な変化が起こる。ただし、現行の準備率は流動性預金の場合、最高でわずか1.3%なので、極めて微細な損益変化でしかない。 融資したところでマイナスは最高で融資額の0.0013%と極めて小さい