破壊的イノベーションは貧者に起こる
産業勃興期に「コンピューター」といえば、それはメインフレームのことでした。1台数億円で、利用するにも数年の実務経験がある専門家が必要でした。それが「ミニコン→オフコン→PC→ラップトップ→スマホ」と民主化し、そのたびにユーザー数が10倍になってきたのがコンピューター産業の歴史です。
このとき、単価も収益性も低い新興勢力のプロダクトや市場は、既存大手企業にはオモチャのように見えたのです。すでに持っている顧客はより良いプロダクトを求めるため、わざわざ「劣ったプロダクト」を作るインセンティブが既存企業にはなく、新興勢力がつけ入る隙があるのです。GMやフォードに対して低価格な自動車で北米市場参入を果たしたトヨタも、クリステンセンは事例に挙げています。
クリステンセンを呼びつけて10分間のレクチャーを受けたインテルCEOの故アンディー・グローブ氏が、このジレンマの意味するところをその場で悟り、当時「インテル互換」と呼ばれたチップメーカーに対抗するために廉価版チップ「Celeron」シリーズを発売して「ディスラプトされないこと」に成功したのは有名な話でもあります。