相対的わいせつ概念
相対的わいせつ概念の原義は、「ある文書が猥褻物といえるか否かを判断するにあたっては、その文書がどのような意図をもって作成され、どのような態様で販売されたのかを深く考慮すべきである」というものである。
これは、「性器や性行為を詳細に描写した文章や図画は猥褻物であり、そうでないものは猥褻物でない」という従来の見方に対するアンチテーゼである。
相対的わいせつ概念を採用することにより、猥褻物を規制する法令の運用に関して、二つの異なる結論が導かれる。
1. 性欲を満たす目的でなければ、露骨な描写があってもわいせつじゃない
妊産婦の下腹部を記述した医学書の発禁を否定するものであったが、現代では、性行為についての所感を綴った随筆、恋愛をテーマにした文学作品、女神の裸をかたどった彫像など、学問的・思想的・芸術的に価値の高い作品は、幅広く合法文書の範囲に含めるのが通常である。日本の下級審の判決の中には、性器を戯画化したある置き物について、これを鑑賞しても卑猥さよりは滑稽さを想起させるため、日本の法令が違法と定める猥褻物には該当しないとした例がある
2. 性欲を満たす目的なら、描写がなんであってもわいせつである
現在のドイツでは通説・判例として採用されているが、日本の判例では、悪徳の栄え事件における大法廷判決で明確に否定されている。 この作品が仮りにいくらかの猥褻の要素をもつているとしても、刑法一七五条にいう猥褻文書に該当するかどうかは、その作品のもつ芸術性・思想性およびその作品の社会的価値との関連において判断すべきものであるとする前叙の私の考え方からすれば、これを否定的に解しなければならない。
学界では、文学作品や芸術作品の発表を萎縮させないよう、国家は猥褻物の規制に謙抑的であれという文脈において正当化されることが多い。