検察官定年延長議論
論点が複数ある複雑な問題だが、基素.iconの理解では、次のような流れと論点が主要な議論ポイント
2020年1月の内閣による国家公務員法81条の3の解釈変更
1-1. 「安倍内閣よりの黒川検事長」の定年延長のために行われた脱法的な解釈変更であるという批判がある
2020年春の国会に出ている検察庁法改正法案
1-2. 解釈変更を後付で正当化するための改正法案であるという批判がある
2. 検察官の定年に関して「内閣の延長判断」が追加されたことによって検察の中立性が脅かされるのではないか?などという懸念がある
問題に名前をつけておく
問題1 安倍内閣による黒川検事長の定年延長問題
問題2 立法府による行政府の独立性への干渉問題
SNS上では賛否どちらも様々な勘違いがあるように見える
整理して理解するため、複数の記事から事実と論点をまとめる
検察庁法改正法案と国家公務員法の定年延長改正案の両方が国会に出ている
国家公務員法の定年延長改正は2008年から検討されている
検察庁法改正法案が改正されるとこうなる
https://gyazo.com/921424be99f1e1ed3b5700478ba33643
「政権の意向によって、63歳になった検察官の役職が続くか続かないかが決まる」という、従来存在しなかった現象が、今後は起こるようになるわけです
検察庁法改正法案は、黒川検事長(not 検事総長)の定年延長とは無関係
検察庁法改正法の施行予定日は2022年4月1日
黒川検事長の63歳の誕生日は2020年2月8日
2022年2月8日65歳になるので、改正法(上図)の影響はない
という話だったのだが最近の法務省の
黒川検事長の定年延長はもう決まっている
黒川検事長が63歳で定年しそうになったときに、65歳まで定年延長したのは、2020年1月の内閣による国家公務員法81条の3の解釈変更によるもの
解釈変更については長くなるので後述
解釈変更は違法性が指摘されている
黒川検事長は政権に近い立場であったこと、次期検事総長として黒川氏を任命するためには半年間の勤務延長をせざるを得なかったことから、このような解釈変更を行ったのではないかという批判がなされました。
検察庁法は、様々な規定で法務大臣の権限を最小限に留めており、極めて難しいバランスを調整しながら緊張関係を保っています 今年冒頭の解釈変更は、立法府が定めた検察庁法の解釈を、内閣限りで行うという点で、立法府への過度の介入をしているといわれるべきものとも言えるでしょう。 この解釈変更の整合性をとるために、検察庁法改正法案の改正案(後述)に影響したのではないかという指摘がある
検察庁法の改正案は、2020年1月の内閣による国家公務員法81条3の解釈変更以後に「内閣の延長判断」による定年延長が盛り込まれた
2019年秋の臨時国会版
シンプルな内容
22-1 検察官の定年を65歳に引き上げる
22-2.次長検事及び検事長は、63歳に達した翌日に検事になる(その後65歳で定年退官)
2020年春の国会版(2020年1月17日以後)
条文に内閣の延長判断が入るようになった
条文が複雑になったのは理由は、脱法的な解釈変更の正当化ではないかという批判がある
この事件があってから出てきた検察庁法改正法案は、定年引き上げと役職定年制だけではなく、内閣の判断による定年延長と役職延長を認めるというものでした。そこで、この法案については、黒川検事長に対して行った脱法的な延長を、法改正といういわば後付けで正当化するものではないのか、そして、そこに内閣の強い関与を規定することによって、ときの政権に都合のよい者についてだけ定年延長と役職延長を認めることになり、検察への政治介入を強めることになるのではないのかといったようなことが懸念されるものとなっています。
まとまっているので最初に読むならこれ
論点
検察庁法のバランスは難しいが、今回のは運用指針がわからないので、このまま通るとバランスが崩れるかもしれない
前国会からの持ち越しを含めて数十本以上の提出法案がある中で、この改正案は緊急度、優先度としては低いものだと考えます
前の案よりしくみが複雑になっている理由は?
検察官の特殊性
検察官は高度な独立性が担保されなければならない
検察官は政治家を含めて刑事訴追をする権限がある
独立性があるから、政財界を巻き込んだ犯罪を捜査・起訴できる
別の意見:堀江貴文は検察の独立性は今より低いほうが良いと考えている 今の検察が強い権力を持っていて、その強い権力が少し是正されようとしている、むしろこれは良い方向に向かっている
橋下徹も同様のようだ(discrimer: 詳細な意見は未読) 検察庁法改正案を立法府が議論することは、行政府と立法府との関係という観点からすればむしろ正しい姿であるともいえます。
立法府→行政府?検察庁法改正案を議論しているのは内閣
しかし、他方で、検察官とは、準司法的作用も有する組織であり、裁判所との関係では、検察官が訴追しない刑事事件は(極めて例外的な場合を除いて)司法の場に置かれないわけです。したがって、やはり冒頭に述べたとおり、検察庁の独立性は適切な司法の機能に繋がるわけです。
なお、検察庁法第15条は、「検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。」として、法務大臣ではなく内閣によってこれらの人事を行うものとしている。つまり、法務大臣に従属するという立場ではなく、むしろ同等以上の立場として扱っているとも解されます 基礎知識
検察官に公務員試験は特にない
現行の検察庁法の定年
22条 検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。 他の検察官: 検事長や次長検事などの役職者
現行の国家公務員法の定年
原則60歳
例外的に定年を延長する制度がある(81条の3)
任命権者は、定年に達した職員が前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
前条1項
職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の3月31日又は第55条第1項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
安倍政権は、国家公務員法81条の3を適用し、2020年2月に63歳に達して退職しなければならない黒川検事長を留任(2020年1月31日)
理由
「政府関係者によると、業務遂行上の必要性とは、保釈中に逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の事件の捜査を指す」(朝日)
批判
捜査の実務は東京地検が行い、外国との交渉は法務省で行えばよいのであり、高検が関与する必要はないはずだ。
ところで仮に安倍総理の解釈のように国家公務員法による定年延長規定が検察官にも適用されると解釈しても、同法81条の3に規定する「その職員の職務の特殊性またはその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分の理由があるとき」という定年延長の要件に該当しないことは明らかである。
加えて人事院規則11―8第7条には「勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の1に該当するときに行うことができる」として、①職務が高度の専門的な知識、熟練した技能または豊富な経験を必要とするものであるため後任を容易に得ることができないとき、②勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき、③業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき、という場合を定年延長の要件に挙げている。
これは要するに、余人をもって代えがたいということであって、現在であれば新型コロナウイルスの流行を収束させるために必死に調査研究を続けている専門家チームのリーダーで後継者がすぐには見付からないというような場合が想定される。
現在、検察には黒川氏でなければ対応できないというほどの事案が係属しているのかどうか。引き合いに出される(会社法違反などの罪で起訴された日産自動車前会長の)ゴーン被告逃亡事件についても黒川氏でなければ、言い換えれば後任の検事長では解決できないという特別な理由があるのであろうか。法律によって厳然と決められている役職定年を延長してまで検事長に留任させるべき法律上の要件に合致する理由は認め難い。
「本来対象でない」は結論はまだ出てないっぽい(裁判やらないと出ない)
素人なので「解釈でそんなことできるの?」と思ったが、専門家でも議論になっていたようだ
1項の規定で退官すべき場合に延長できる。しかし、1項の退官規定は「別段の定めがある場合」を除いている。そして別段の定め(検察庁法 22条)がある。よって延長できないという論理。
検察官の定年退官後の「勤務延長」を閣議決定したのは検察庁法に違反する疑いがある。
政府の想定解釈
検察庁法22条は、検察官の定年の年齢を定めただけで、検察官も国家公務員である以上、定年による退職は、国家公務員法に基づくものだという解釈をとったのかもしれない
この解釈だと、「別段の定め」の文書がミスリーディングに思う基素.icon
人事院の資料だと 「特段の定め」がある扱いに見える 執筆弁護士の意見
検察庁法が、刑訴法上強大な権限を与えられている検察官について、様々な「欠格事由」を定めていることからしても、検察庁法は、検察官の職務の特殊性も考慮して、検事総長以外の検察官が63歳を超えて勤務することを禁じる趣旨と解するべきであり、検察官の定年退官は、国家公務員法の規定ではなく、検察庁法の規定によって行われると解釈すべきだろう。 法律上は、検事総長を任命するのは内閣である。しかし、これまでは、前任の検事総長が後任を決めるのが慣例とされ、政治的判断を排除することが、検察の職権行使の独立性の象徴ともされてきた。 別ソース
法務省は、政官界の不正に捜査のメスを入れる検察庁という特別機関を抱えており、検察首脳人事はこれまで政治介入を許さない“聖域”とされてきた。政権側も検察組織の中立性を尊重し、法務検察側の人事案を追認してきた
ここは、法律でなぜそうなっているのか不思議
今回の東京高検検事長の定年後の勤務延長という違法の疑いのある閣議決定によって内閣が検事総長を指名することになるとすれば、政権側が名実ともに検察のトップを指名できることになり、政権側の意向と検察の権限行使の関係にも多大な影響を生じさせる
そこまで問題なら、法律でなぜそうなっているのかますます不思議
そもそも③国家公務員の勤務延長制度が制定された当時、国会において同制度が検察官には適用されないとの解釈が答弁されていたにもかかわらず、これを解釈変更して適用したことでした。
解釈変更はしていないとの答弁。後にいい間違えたと修正
衆院予算委員会で立憲民主党(その後、離党)の山尾志桜里氏が、国家公務員法の延長規定について「検察官には適用されない」とする1981年の政府答弁の存在を指摘。すると、安倍晋三首相が2月13日の衆院本会議で、81年の政府答弁で説明した法解釈を変えたと答弁した。 法務省が、検察官にも国家公務員法の定年延長規定が適用されるとした解釈変更について、省内の会議や内閣法制局などとの打ち合わせに関する文書を保存していなかった。
定年延長は国会で審議中の検察庁法改正案で明文化されているが、法改正の基礎となる解釈変更の「意思決定過程」は不透明なままだ。
公文書管理法4条は「行政機関の意思決定過程の合理的な検証」を可能にする文書作成を義務づけている。 法解釈ってこんな感じで簡単にかえられるものなの?基素.icon この点は検察OBや日弁連からもツッコミがある
一般の国家公務員については、一定の要件の下に定年延長が認められており(国家公務員法81条の3)、内閣はこれを根拠に黒川氏の定年延長を閣議決定したものであるが、検察庁法は国家公務員に対する通則である国家公務員法に対して特別法の関係にある。従って「特別法は一般法に優先する」との法理に従い、検察庁法に規定がないものについては通則としての国家公務員法が適用されるが、検察庁法に規定があるものについては同法が優先適用される。定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない。これは従来の政府の見解でもあった。例えば昭和56年(1981年)4月28日、衆議院内閣委員会において所管の人事院事務総局斧任用局長は、「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言しており、これに反する運用はこれまで1回も行われて来なかった。すなわちこの解釈と運用が定着している。 国家公務員の中でも検察は特殊だが、定年延長の法案の組み立ては横並びだったのは事実らしい
結果
「政権の意向によって、63歳になった検察官の役職が続くか続かないかが決まる」という、従来存在しなかった現象が、今後は起こるようになるわけです
基礎事実の確認
黒川検事長は政権に近い立場である
上の記事からはどれもそういう論調
ソースにあたっていく
今年頭の人事
法務省側はこの規定に従い、黒川氏を退官、後任に黒川氏の同期で名古屋高検検事長の林真琴氏を据える人事案を練っていたが、これを官邸が土壇場でひっくり返したのだ。
「次期検事総長に黒川氏を起用するために国家公務員法に基づく定年延長の特例規定を持ち出した形です。林氏は今年7月30日の誕生日で定年を迎えるため、検事総長の目はほぼ消えた。現検事総長の稲田伸夫氏も7月には検事総長の平均在任期間の2年を迎えます。稲田氏が退官すれば今夏には安倍政権寄りの黒川検事総長が誕生する可能性が濃厚になった」(司法記者)
文春が黒川は安倍政権よりと言っている根拠
16年1月、「週刊文春」は安倍政権の屋台骨を支えていた甘利明経済再生相の口利き疑惑を当事者の生々しい証言で詳細に報道。あっせん利得処罰法違反の疑いは明白だったが、特捜部は甘利事務所への家宅捜索さえ行なわず、不起訴処分とした。
「14年の小渕優子元経産相への捜査ではハードディスクを電動ドリルで破壊する悪質な隠蔽工作まであったが、議員本人までは立件せず。いずれも黒川氏による“調整”と囁かれました。そして政権中枢の疑惑を立件しなかった論功行賞といわんばかりに、官邸は同年夏に黒川氏の事務次官昇格人事をゴリ押しするのです」(同前)
ニュース時系列
10万円給付と緊急事態宣言が主たるテーマ
実質的な議論はされなかった
5/8 実質的な議論スタート
この時点ではまだ自民党内では強気の意見だった
安保関連法より反発が少なかった
与党、本会議での採決を翌週に見送り
野党、定年延長規定が削除されなければ内閣委員長解任決議案を提出すると検討したことを受けた
5月15日 内閣委員会での採決見送り
衆議院内閣委員会理事会中に野党が武田 国家公務員制度担当大臣の不信任決議案を提出したことを受けた
5月17日
黒川検事長、文春から確認取材を受ける。法務省の事務方に連絡
世論調査で改正案に賛成15%、反対64%
内閣支持率が前月から-8%
5月18日
15:00 安倍首相と二階俊博が首相官邸で会合。見送りで一致 夜 安倍首相が検察庁法の改正案について、今の国会での成立を見送る考えを表明
国会の会期は6月17日
基素.icon 全体的な流れもこの記事から再構成
5月19日 森、文春の記事が出ることを知る
5月20日 文春が黒川検事長と新聞記者がかけ麻雀をしたと報道。与野党から事実なら辞任すべきという声が上がる
5月21日 黒川、賭博麻雀を認めて辞職
5月27日
検察官の定年延長などを明文化した検察庁法改正案などの関連法案について、菅義偉官房長官は27日の衆院内閣委員会で「(国会から)取り下げることは考えていない」と述べた。野党は役職定年の延長規定などを削除するよう求めているが、菅氏は「国会で成立をさせていただきたい。これが政府の統一した考え方だ」と述べた。