ギャロップレーサー事件
原告の要求と結果
ゲームソフトの製作、販売、貸渡し等の差止め→棄却(1審)
不法行為による損害賠償を請求
G1優勝の19頭は顧客吸引力があると認めて一部容認(1審)、
棄却(最高裁)
1審の判断
競走馬が有名だと価値がある(顧客吸引力)
競走馬の所有者は、競走馬の名称等が有する経済的価値(無体的価値)を独占的に支配する無体財産権(物のパブリシティ権)を有する
競走馬の名称等が有する経済的価値を保護するためには、商標法、不正競争防止法等の現行の知的財産関係の法律が認める権利や救済方法だけでは不十分
なぜ?
競走馬等の物のパブリシティ権を一定の要件の下に承認し、これを保護するのを相当とする社会的状況が生まれている
現に、競走馬の所有者が、ゲームソフトを製作し、販売する会社との間で、その所有する競走馬の名称等の使用を許諾するにつき、使用料の支払を受ける旨の契約を締結している例がある
最高裁は「それらの契約締結は、紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど、様々な目的で行われることがあり得るのであり、上記のような契約締結の実例があることを理由として、競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」として棄却
顧客吸引力を有する競走馬の名称等を第三者がその所有者に無断で使用するなどして上記の無体財産権を侵害した場合には、不法行為が成立し、損害賠償請求権が発生する
上記の無体財産権は、現段階においては、排他性を有する権利とまではいえない→差止請求は棄却 最高裁もこれは支持
最高裁の判断
所有権は、物の無体物としての面(名称等)を排他的に支配できない
競走馬等の物の所有権は、その物の有体物としての面に対する排他的支配権能である だから、第三者が、競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても、競走馬の所有権を侵害にならない
最高裁昭和58年(オ)第171号同59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁
知財保護の各法律の目的にかんがみると、物の無体物としての利用である競走馬の名称等の使用は、競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認められない
現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては
商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が
一定の範囲の者に対し
一定の要件の下に
排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っている
これらの法律は排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている
それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定めている
使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため
競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできない
ソースの牛木弁護士は民法709条の拡張解釈で権利保護できると考えた テクモが「ギャロップレーサー」、「ギャロップレーサー2」において馬主から訴えられている件に関しては、名古屋地裁において逆にパブリシティ権が認められる判決が下り、テクモ側はこれを不服として7月から最高裁判所において審理が開始されている。
ウマは法律上、モノである
従来、この論点については、判例・学説共に否定・肯定の両見解が対立していた
その対立はパブリシティ権の法的性質、すなわち
人格権とは独立した財産権なのか
と言った点に関連して議論されてきた。
人格権由来の権利であることを強調する立場はモノのパブリシティ権を否定する
財産権としてとらえる立場はモノのパブリシティ権を肯定するものが多い。
最高裁は、モノのパブリシティ権を否定するにあたって示した論拠では、この点にふれていなかった。
最高裁の論拠をきわめておおざっぱに言えば、
(1)各競争馬の名称に対する保護は、競走馬に対する所有権からは生じず、競走馬の名称を勝手に用いても所有権侵害にはならない。
(2)物の名称の使用などに関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法などの法律により、一定の要件の下で保護しており、これらの法律による保護とは別に法令等の根拠もなく、排他的な権利を認め、あるいは無断利用行為を不法行為とすることはできない。
というものであり、ここではパブリシティ権の法的性質(人格権由来の権利か、独立した 財産権か)にはまったくふれていなかった。