パブリシティ権
ベリーベスト法律事務所 久留米オフィス
成立の背景
街頭に有名人がいた場合、数多くの通行人がスマートフォンのカメラで撮影する行為を例に考えてみればわかりやすいでしょう。同様の行為が一般人に対しておこなわれれば、重大な権利侵害になり得ます。しかし、有名人はこれをある程度は許容せざるを得ません。判例でも「有名人の人格的利益の保護は大幅に制限される」と示しています。
ただし、有名人・著名人の氏名や肖像は、一般人のそれと比較すると特別な経済的利益を持っており、当然に保護されるべきでしょう。このような解釈によって、パブリシティ権は誕生しました。
昭和28年にアメリカの裁判所が判示したことで概念が創設され、日本では昭和51年に最初の判例が生まれました。
しかし、現状日本においてパブリシティ権は、個別の法令で定義や保護はなされていません。
著名人や有名人の肖像を利用したブロマイドやカレンダーなどは、他の商品との差別化を肖像に頼るのみで、これといった特徴がありません。このような利用では、パブリシティ権の侵害を主張されるおそれがあります。
パブリシティ権は、成文法として明確になっているものではなく、しかも権利として定着した歴史が浅いため裁判所の判断も一定ではありません
パブリシティ権は多くの裁判例で認められてきたものであり、権利として確立しているとも言えるであろうが、その対象は有体物として具体的に把握できるものでなく、法による明文の定めがあるものでもないことから、その法的性質や要件、成立範囲等につきに多くの問題が残されている。
1953年のHaelan Lab. Inc. v. Topps Chewing Gum, Inc.,[1953]202F.2d.866, 2nd Cir. 事件判決においてプライバシーの権利に由来するものとして初めて認められた
日本におけるパブリシティ権とは、判例を読み解くと「有名人や著名人が、自己の氏名や肖像などについて、対価を得て第三者に専属的に使用させ得る権利」と定義できます。
肖像権は「肖像を無断で公表・使用されない」という人格的利益を優先した考え方に基づいています。
一方、パブリシティ権はまったく同じ行為であっても「顧客吸引力に着目して使用される」ことに対抗するための財産的利益を保護しています。 「有名人の人格的利益の保護は大幅に制限される」
期限は総合的に判断
結局のところ,立法的な解決が取られない限り,「×年が経過したら権利がなくなる」というような明確な基準は出てきません。あとは経過年数や顧客誘引力がどの程度残っているのかなどを総合的に考慮して,権利行使を認めるかどうかが判断されることになるのでしょう。
あ 概括的基準
もっぱら氏名・肖像の有する顧客吸引力の利用を『目的』とする場合
い 『もっぱら』の判断基準
例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合
ア 写真の大きさ・取り扱われ方等
イ 記事の内容等
アとイを比較検討する。
次の場合に『もっぱら』(顧客吸引力利用目的)と言える。
『記事は添え物で独立した意義を認め難い場合』
『記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合
パブリシティ権の侵害における法律関係の性質は、人格権としての氏名権や肖像権との区別に鑑みて、不正競争の一類型と理解すべきである 判例
最高裁は人格権に由来すると考えている
人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(中略)。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる 学説
パブリシティ権の法的性質については、人格権説と財産権説との対立がある。
財産権説は、同権利の根拠を人の氏名や肖像等が獲得するに至った商業的価値ないし顧客吸引力の保護に求め、同権利はこれらが有する財産的利益の保護を目的とするとの見解である。
人格権説は、パブリシティ権の根拠を人の氏名や肖像等といった個々人のアイデンティティーにかかわる高度に属人的な要素に求め、同権利は個々人の人格的利益の保護を目的とするとの見解である。
もっとも、上記のようにピンク・レディー事件最高裁判決がパブリシティ権につき「人格権に由来する権利」と認定しつつも、肖像等の商業的価値ないし顧客吸引力にも言及しているように、人格権説においても財産的利益を重視する見解が殆どであるように見受けられる。