Nike
ここ数年で多くの変化があった。専門家によると、国内企業の方が自分たちの信条にあっているとの考えから、国内ブランドに惹きつけられる若い中国人の買い物客が増えているという。分析企業ガートナー(Gartner)のAPACリサーチスペシャリストであるサラ・スー氏によると、「中国人消費者はとてもユニークだ」という。「彼らは熱狂的な愛国者で、自国を守ろうとする意識が強い」。
「中国人消費者は『自国に敬意を表す』価値観をとても真剣にとらえていて、この価値観に基づいて購入決定を行う」と、大手調査会社フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリストであるシャオファン・ワン氏は説明する。「これが、中国人消費者がかつて好んでいた外国ブランドから離れ、かわりに国内の競合を選んでいる主な理由のひとつだ」。
このトレンドは、中国国内では「国潮(Guochao:こくちょう)」として知られている。中国政府は、2017年に、年に1度の小売イベントとなる中国ブランドデーを開始することにより、このトレンドを支えている。国潮は、伝統的な中国カルチャーやスタイルに対して若年層の関心が高まっていることを示している。 中国政府は、ナイキやH&M、ZARAなどの大手アパレルブランドが、子どもの健康に害を与える可能性のある商品を販売していると非難している。この動きは、数カ月前にこれらの企業の新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑に関する発言が、中国国内で反発を受けたことに続くものだ。 中国の税関当局は6月1日、ナイキやH&M、ZARA、GAPなどの企業が輸入した商品のリストをウェブサイトに掲載し、警告を行った。
税関当局は、H&Mの女児用コットンドレスに「染料または有害物質」が含まれており、これが体内に吸収され子どもの健康を脅かす可能性があると主張している。中国は、ZARAやナイキ、GAPが輸入した子供服についても同様の主張をしている。
当局は、今回の調査結果は同国の商品検査法に基づく定期的調査の一環であり、問題の商品は法律に基づいて廃棄・返却されると述べている。
中国はその理由を明らかにしていないが、今回の措置は、これらのブランドが過去に、人権侵害の懸念の高まりの中で、新疆ウイグル自治区から綿花を調達しないと発言したことに対する反発の継続だと考えられる。
ナイキは30年以上前に、今では広く浸透した「Just Do It」という広告キャンペーンを始めた。以降、物議を醸すような、社会性のあるメッセージで話題になってきた。キャンペーン当初から身体障害者やHIVに感染したゲイ・アスリートを起用。1995年には少女たちを登場させて「(スポーツを)やらせてくれるなら――」という、スポーツ界や社会全体における女性の進出についてのメッセージを広告で発信した。その後も、「私は女性。でもそれはスカートを履かなきゃいけないという意味ではない」といったコピーが話題になったこともある。その時代ごとに扱いにくいテーマを使って広告を打ち出し、過激ともいえるメッセージを伝えてきた。
最近でも、NFL(米ナショナル・フットボール・リーグ)のサンフランシスコ・フォーティナイナーズの選手で、2016年に人種差別に対して抗議するために国歌斉唱の際に起立せずに論争を巻き起こしたコリン・キャパニックを広告に起用。キャパニックはその抗議の影響もあって、その後はNFLのチームと契約していない状況が続いていた。そんな中での起用で「全てを犠牲にすることになったとしても、何かを信じろ」というコピーが使われた。
そんなナイキが、中国政府の圧政にあらがい自分たちの権利を求めてデモをしている香港の市民を支持するのではなく、中国におもねったのだから、驚きがないはずがない。
それでもナイキはダンマリを決め込んでいる。なぜなら、香港やNBAなどよりも中国を選ぶ真っ当な理由があるからだ。そう、ビジネスが順調すぎるのである。
ここ直近の四半期で、ナイキの中国での売上高は27%も増加し、17億ドルに達している。シューズだけを見ても10億ドルを超える。特にバスケットボール人気の高まりで、これまで21四半期連続で、二桁の成長を見せているという。中国だけで、19年度は62億ドルの売上高を記録、これは前年比で21%増だ。北米が7%増であることを考えると、同社のビジネスにとって中国がどれほど重要なのかが分かる。