『さらざんまい』(1~10話)を題材に雑語り
テーマとして面白いものを扱っているように思った。
人間関係において、自分(まつど)のような人間は、最初から自分を偽る必要がないと思うので、自分がどんなことが好きだとか、どんな考え方をしているのかということを全て開示してしまったほうが、長期的に不和を生み出しにくいと思っていて、全て開示したうえで、相手から選び直してもらう。それによって、想像していた態度とは違うとか、裏切ったと言われないように事前に、相手の責任の範疇を開示させる(相手が自分に対してどのような振る舞いを求めるのか、その境界値を開示させる)。自分は自分の情報を全て「漏洩」させても構わない(それこそ、どんな性的趣向を持っていて、どのようなことを考えているのかを全て開示することを厭わない)けど、相手に対しては、「許せないこと」だけしか求めない。なぜなら、自分はある意味で、倫理的なタガが外れているので、嫌悪感のようなものが少ないから、よほど生命を脅かすような態度をしてくるとか、社会的に抹殺しようとか、どれだけ搾取しようかというものの見方をしている相手でないかぎり、相手を許容するだけの寛容さがあると自負しているので、もしパートナーとして持続的でない可能性があるとしたら、それこそ「人狼ゲーム」のように相手が自分を「食う」意図があって近づいてきているか、逆に被害妄想を抱いていて、自分のことを殺そうと思い込みかねないとか、もしくは、相手が今の自分のあり方に対して、より相手に利益になるように無理なコストを強いてくるとき(たとえば、家事は分担ではなくて男だけがやるものとか、育児は男だけがやるもの、という思想を事前に開示しないで、マッチングした後に、そういう主張を後出しで請求してくるようなこと)といったような極端な例ぐらいしか現時点では、想像できない(そもそも、そういう後出しをさせないために、これだけは譲れないという境界値を提示できるだけの言語力と、自分の言葉に対して整合性をもたせるだけの誠実さがあるかをこちらはスクリーニングして選びたいと思っている)。
仮に、極端な例に当たるようなことが万が一あったら、さっさと関係を切った方が安上がりだと思うし、それは事前に明言しているわけだから、そもそも自分のような価値のない人間に対して、なにか利益を求めるとしたら、せいぜい趣味が近いとか、話していて面白いと思えるとかそういう素朴なものでしかありえないのであって、それでも一応、こちらの誠実さとして、全部の情報を開示するというリスクヘッジをとっているのだから、そのあたりは考慮してほしいかなと思ったり。
まあ、ここまで自分のマッチングにおける戦略(それこそゲーム理論のようなものを念頭において考えてほしい)を述べてきたのだけれど、「さらざんまい」において、「偽ること、それを知られてしまうこと」ということが扱われていて、まず自分のことを思ったのだった。
偽ってでも、親密になりたいという人間関係は、世の中にたくさんあるだろう。偽って、それを信頼させて得た人間関係というのは利他的な「愛」と呼べるだろうか。そもそも、偽らなければ「選ばれなかった」自分が、偽ることで「選ばれる」ようになったとして、それは利己的な「欲望」に過ぎないのではないか。
そもそも、ロマンチック・ラブにおいて、「愛」、「性」、「結婚」は三位一体として扱われるが、この人を「好き」だと思い、性的にも繋がりたいと願い、しかし、それは同時に「結婚」という一対一の「特別な」独占関係においてしか、得られないものだ。
これはあくまで規範でありイデオロギーに過ぎないのだが、実際問題として、「特別な」相手を優先させることこそ誠実であると一般的に思われているし、性的関係は、愛している相手とだけ(それこそ、「結婚」して独占したいと思えるような相手とだけ結ぶべき)という思想を持っている人は多いだろう。自分も、相手に対しては性的に寛容な態度を許容したところで自分がそういう態度を取ることに、コストの高さを感じる。少なからず、社会的な立場というものに自分の行動への制約を与えるほうが、コスト安だと思えてしまうのだ。
「さらざんまい」において、男性同士の親密さから、これらの問題に踏み込んでいるところが、(ほとんど真面目に考察したことはないので、解釈に矛盾やおかしいところがあるかもだが)面白いと思った。
例えば、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』において、桐野は、学校の友だちに対しても、兄に対しても自分のオタク趣味(エロゲーが好き)を隠す、そして兄に対しては「兄を好き」という気持ちを「偽る」。前者は開示しても、周りは受け入れてくれた(多分)。後者は、より近親相姦的な問題であり、社会的にそういう関係を認められていないなかでの関係の更新を自発的に起こすのか、「漏洩」によって起こすのか、「偽る」ことで起こさないのか、まあそういった問題を扱っていた(たぶん)。 実の兄妹の恋愛であるために、社会的にセックスをすることが認められていないという二人を引き裂く要因があって、そんな状況で恋愛がどのように成立するかという主題を読み込むとき、念頭にあるのは生殖の結果遺伝的に欠損した子供が生まれたら責任取れないという倫理だけども、実際問題、(挿入を含む)セックスができないことから、二人の恋愛が成立しえないということの結論へ導くという論証自体が、ジェンダー論的には性交の概念を挿入中心に考えているから変だなと思ったりする。勃起不全だろうがスキンシップの性愛は可能でありならば兄妹も問題なし。
2017年5月3日
結局のところ、虚構世界の思考実験では、仮に、桐野が、兄のことを好きだと言い、兄がそれに対して「拒否」をした場合、通常の人間関係まで失ってしまうが、兄がそれに対して肯定的に捉え、二人で社会に対して「偽り」続けるならば、二人を祝福してくれる人は少ないだろうが、二人で生きるという選択を取ることが可能であると結論付けることができる。
近親相姦という社会的なハードルは、少なくとも虚構世界の思考実験では乗り越えているといえるだろう。しかし、『さらざんまい』では、それがバレてしまえば社会的に破滅しかねない性的趣向を持っている人が、自分の行為自体を「愛」と「欲望」との天秤にかけられ、「欲望」として断罪され、社会から抹殺されるという物語を反復する。
このあたりの論旨は、弟が「愛」と判定されたあたりとの整合性を確認する必要がある。
自分の話とこのあたりで、繋がってくると思う。つまり、自分の場合は、自分のありとあらゆることを開示したところで、それは社会的に認められている範疇だと自認している。だから、「漏洩」しようが、破滅はありえない。仮に、僕が男性を好きだとしよう。それを仮に知られたとしても、構わないと思えば、そのようなことは大したことではないのだ。先程の桐野の例でいけば、「漏洩」しようが、所詮、今の関係が壊れるだけなのだ。
この人とでなければ、幸せになれないという人間関係を考察するのに、交換可能性という概念を使うことが多いが、桐野にとって、兄の存在への恋心は、あくまで過去の記憶に基づくものであり、かりに、そういった記憶を消してしまうことが可能であれば、その人間関係に特権性を与える必要はないだろう。
『山田くんと7人の魔女』や『とある魔術の禁書目録』では何度も記憶を消しても、マッチングが成立するということの意味を考えさせるような物語があるが、実際問題として、そういう「運命」的な繋がりにシンパシーを感じる人と感じない人がいるだろう。感じない人は、少なくとも、自分が特定の誰かとの関係にこだわってしまうことの由来が自分の「記憶」であり「経験」であることに対して疑いがないのではないか。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』において、比企谷 八幡は雪乃と結衣に対して、特別な関係になりたいというようなことを抜かしていたが(忘れた)、交換の利かない人間関係を作ることが「特別な関係」だとするならば、具体的には、他の人間関係においてはしないことを一緒にすればいい。基本的に、友達と恋人との境界は性的関係の有無にあるという考え方が一般的であるが、ロマンチック・ラブを基盤にしているからそういうものの見方をしやすいのであって、その価値観を軽んじてしまえば、友達であっても(それこそ他人であっても)性的関係を結ぶことが即、親密とは言えないのであって、何かを特別な関係だと思うのは、本人の枠組み次第ということで、俺ガイルが、『ニセコイ』のように二人のどちらかを選ぶというようなヒロイン選択肢問題に陥る必要はないし(別に陥っても反復にすぎないし)、いっそのことプラトニックに仲良くなり続けるという困難な人間関係を維持し続けるでもいいし、ハーレムエンド(ポリモアリー)でもおかしくないし、それこそそのような特別な関係は幻想だった(結局のところ、好ましい人間関係というものこそ、持続的であって、緊張を強いられるような間柄では自然と疎遠になってしまうということは想定できる)となって、自然に関係が消滅するエンドとかでもあり得ると思っている(ふざけているわけではなくて、純文学や現代文学あたりだったら自然な終わり方だと思う)。 自分の場合も、高校のときの人間関係はほとんど消えてしまったので、そっちのほうがご都合主義ぽくない。
ラノベとして、キャラの幸せを願うなら、それこそ俺妹のようにゲームで平行世界を仮定してストーリーを補完すればいいだけだ。
書き途中
参考ツイート
このツイートを読んだときも思ったのだけれど、仮にパートナーを選ぶとして、絶対にこれは許せないという境界値を適切に提示できる相手でないと、自分は信頼に値しないと思っている。自分は許せないということはほとんどないので裏切りも何もないのだけれど、世の中の大半の人はそうでないらしいので https://gyazo.com/9b22d2c94cc9cd0b1ec46a4de663e77c