文法:受動文の用法
通常の逆受動文の作り方
以下に例文を用意する:
Savus wor ba lewix.
彼女が犬を見た。
この例文の主語は「彼女」であるが、目的語の「犬」を主語にしたい。
そこで、能格の「彼女」を斜格に、絶対格の「犬」はそのままにして、動詞の態を使役態受動用法に変えることで逆受動文を表現できる。
→ Salivus zawor ba' lewix.
犬が彼女に見られた。
普遍的な事柄を述べる
そのものの普遍的な事柄を述べるときに、受動文を用いることがある。逆に、受動文にすることで普遍的な事柄というニュアンスが生まれることがある(意志によって変えられる事柄ではないというのが根底にある)。
このとき、六人称や普遍相がよく使われる。また、動作主を明示しない場合も多くなる。
ex.) Жevōge cwa nacat krablūxix, tsadisш lūxix жevōge xūtso.
我々は単語を調べるために辞書を使う。
→ Жelivōge zacwa krablūx, tsadisш lūxix жevōge xūtso.
辞書は単語を調べるために使われる(ものだ)。
絶対格の語が能格になるのではない場合
普通の受動文では、もととなる能動文で絶対格であった名詞を主語にして、斜格で表し、動作主は絶対格で表す。しかし、絶対格以外の一部の格にも目的語相当の意味になることがある(例:生格・殺格・具格):これをここでは非絶対格目的語と呼ぶこととする。
このとき、以下のようにして、この名詞を能格にとって受動文を作ることが可能である。
もとの能動文に能格・絶対格の片方しかない
もととなる能動文で能格・絶対格のうち片方しかない場合、
1. 非絶対格目的語を能格にして受動文を作る。
2. もとの格を分離して後綴る。
ex.) Twavus tas ūz tangenē'atyugu.
彼はお金を得た。
→ Twalivus zatas tangenē' rasatyugu ūziж.
お金は彼に得られた。(お金は彼の手に入った。)
格を含む成句にもこの方法が用いられる(以下の例は、tas edder-iж「edder を使う」という成句を含んでいる):
ex.) Ƣivus tas krablūxiж.
私は辞書を使った。
→ Жelivus zatas krablūx rasiж naciж.
辞書は私に使われた。
もとの能動文に能格・絶対格がともにある
もととなる能動文で能格・絶対格の両方がある場合、
1. 文中の、非絶対格目的語以外の要素を、tas 不定詞にする。
2. 形式動詞 tas を用いた受動文を作り、非絶対格目的語を能格にとって(その際もとの格を分離して後綴る)受動文を作る。
3. 2. に 1. を続ける。
ex.) Ƣivus yoъsa ūzend tangenē'atyugu.
私は彼からお金を(頼んで)もらった。
1. tas nac ūzend yoъsa
2. twalivus zatas tangenē' rasatyugu
3. twalivus zatas tangenē' rasatyugu, tas nac ūzend yoъsa
→ Twalivus zatas tangenē' rasatyugu, tas nac ūzend yoъsa.
お金は私によって彼から(頼んで)もらわれた。
端的に説明すると:普通に受動文にすると能格・絶対格のポジションが競合するため、残りの文の要素を tas 不定詞内に押し込んで後ろにつけているということ。
応用的な例
以上のものを組み合わせると、次のような文を作ることもできる:
ex.) Жevōge ārnok nacat hālezes.
我々は空の下で暮らしている。
→ Salivōge zārnok hālez rases (nacatiж). ※不特定多数である動作主 nacatiж を省略することもできる
空は我々によって、下で暮らされている。
(=日本語的に自然な文「空は我々が暮らしている上にある。」)
日本語的に自然な文にすると、〈空基準で下〉→〈我々基準で上〉と基準が移ってしまい、その結果「下格」の「下」とは逆の「上」が訳に出てきてしまう(というカオスな例である)。