事例解説アウトライン2021-03-30
頁は、白石作成の横書きPDF(未公開)のもの。
差止請求(独禁法24条)
不公正な取引方法(2条9項)
19条「事業者」
8条5号「事業者団体」
著しい損害
仮処分申立て
「利害関係を有する者」だけが閲覧可能(民事保全法5条)
公取委には通知されない(独禁法79条1項の「訴え」でない)→ 年次報告にも載らない
関係者が判例雑誌や判例データベースに投稿した場合に公に知られることとなるものと考えられる
不公正な取引方法の違反要件(他者排除行為の場合)
行為要件を満たす行為
弊害要件を満たす弊害
排除効果(市場閉鎖効果)
正当化理由なし
行為と弊害の因果関係
事案の要約
パチンコホールの営業にとっては「遊技機の保証書作成・打刻申請」をしてもらえることが必須に近い。
遊技機の射幸性の高さを抑える観点から法令で出玉基準の見直しがされ、大量の遊技機の廃棄が見込まれた。
法令改正の経過措置による猶予期間より早めに計画的に廃棄する「本件撤去計画」を業界団体で定めた。過去に、廃棄遊技機の野外での野積みなどが社会問題となったことがあった。
これに従わないパチンコホール営業者には遊技機販売業者が「遊技機の保証書作成・打刻申請」を行わないという「本件措置」を事業者団体が行った。
「本件措置」は独禁法(2条9項1号)に違反するか。
事案
パチンコとパチスロが出てくるが基本的には事案同じ。
以下、まとめて。
当事者(3〜4頁)
債権者:パチンコホール営業者
債務者:遊技機販売業者の事業者団体(「遊商」)
関係業者・団体(3〜6頁)
製造業者
日工組、日電協
販売業者
(債務者)
パチンコホール営業者
全日遊連、都道府県遊協
業界全体のもの
日遊協
21世紀会
中古機流通協議会
検定または認定(25頁以下)
検定
型式ごとに公安委員会が検定
3年有効
認定
検定有効期間後などの場合に公安委員会が認定
3年有効
中古遊技機の移動に関する業界団体のルール
前提
パチンコホールの遊技機の増設、交替その他の変更をする場合には、申請(変更承認申請)をして、あらかじめ公安委員会の承認が必要(26頁)
取扱主任者(遊技機取扱主任者)
日遊協が認定(6頁)
本件添付書面(27頁)を作成
販売業者に所属
変更承認申請のためには本件添付書面が必要
取扱主任者
保証書を作成
中古機流通協議会印の打刻を申請
出玉基準の見直し(出玉の数を抑制)(8〜9頁)
風営法施行規則(国家公安委員会規則)の改正
(射幸性の高まりへの対策とみられる)
平成30年2月1日から施行
当初経過措置期間:3年
令和2年5月20日
本件経過措置期間:4年
21世紀会の「本件撤去計画」(9〜11頁)
旧規則機(改正前の出玉基準)の計画的撤去
検定・認定の有効期間中も含む
遵守する誓約書の提出を求める
誓約書未提出ホール営業者に対して保証書の発行を留保すること等を合意
この「本件措置」(12頁)は、対象を旧規則機だけに限定しないもの。
12頁の各争点に関する当事者の主張は29〜43頁
裁判所の判断
争点1:規制と独禁法(13頁)
shiraishi.icon規制業界にありがちな争点
争点2:「供給を拒絶」に当たるか(13〜15頁)
shiraishi.icon「供給を拒絶」というより、保証書作成・打刻申請が「商品・役務」に該当するか。
2条9項1号の条文が偏頗であるため「供給を拒絶」に「商品・役務」が書かれていない。
争点3:「共同」の成否(15〜16頁)
意思の連絡(着うた事件)
shiraishi.icon本件では争いの余地は小さそう
セミナーでのご指摘:16頁でハブ&スポーク的な認定がされている
争点4:正当化理由の成否(16〜22頁)
shiraishi.icon東京地裁民事8部が、正当化理由について一般論を述べ、事案において正当化理由の成立を認めた事例
shiraishi.icon2条9項1号の「正当な理由がないのに」には「排除効果あり」も読み込むことになると解されるが、本件では争点とならなかった
目的の正当性との比較考量はされている
目的の正当性と手段の相当性
目的の正当性
射幸性の高さを抑制しようとする出玉基準の見直しによる相当程度の数の旧規則機の廃棄に際し、適正処理に困難が生ずる可能性がある
過去にはパチンコホール営業者の敷地内の屋外に野積みされたことが社会問題となり、遊技機業界への世間からの非難が高まるなど。
警察庁から繰り返し要請(17頁)
競争制限の弊害の程度と比較(18〜19頁)
競争制限の弊害は小さいとは言えないが
迂回策はある
shiraishi.icon手段の相当性の前に比較考量をしている。
手段の相当性
「目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまるものであれば」(19頁)
shiraishi.icon深読みすれば、LRA基準をとらないことを意味し得る。
LRA基準=less restrictive alternativeがあれば違反、という考え方
LRA基準をとると、「目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまる」場合でも、さらに競争への影響が小さい方法が見つかれば、違反となる
本件への当てはめ
3段階に分けている
実施まで約5か月
LRA(任意性の高い方法)ありとの主張については
信用できない旨の判示(20〜21頁)
shiraishi.icon上記のように、法律論として封じる方法もあり得るが、本件事案に即した評価として退けた。
本件措置(保証書作成・打刻申請の拒否)は旧規則機に限定されていない(前記)
目的達成のため必要(過度に広範かつ強力な手段であるということはできない)
争点5:本件勧奨行為の有無(22頁)
判断不要
争点6:著しい損害の有無(22〜24頁)
同条所定の独占禁止法違反行為による利益の侵害の態様及び程度並びにこれによる損害の性質、程度及び損害の回復の困難の程度等を総合考慮して判断すべきものと解される。
https://gyazo.com/9360040ef8b9222db2b822cf193876f1
shiraishi.icon「損害の回復の困難の程度」を考慮要素としており、損害賠償請求が認められても差止請求が認められない場合があることを暗示(23頁なかほど)
損害の計算過程が明らかでない
本件撤去計画に従わず射幸性の高い遊技機を使うパチンコホール営業者は利益を得るはず(22〜23頁)
旧規則機の射幸性は高くない旨の主張も否定
争点7:保全の必要性の有無(24頁)
著しい損害がないので保全の必要性もない。