ブラザー工業
確定したとのこと
令和3年9月30日 東京地判
東京地判令和3年9月30日・令和元年(ワ)第35167号〔ブラザー工業〕審決命令集68巻243頁
裁判所ウェブサイトの判決文には被告の名称がないが、会社がリリースしている。
原告
カラークリエーション
エレコム
被告
ブラザー工業
正当化理由
互換品カートリッジは、プリンタおよびその純正品カートリッジの製造業者の、「顧客へのプリンタの販売価格を抑えて販売台数を増やし、比較的利益率の高いカートリッジを継続して販売することで、全体として収益を上げるビジネスモデル」を成り立たせにくくするものであるという意味で「構造的な競争関係」がある。「①本件設計変更は、原告らと被告との間に構造的な競争関係が存在する中で・・・、具体的な必要性がないにもかかわらず・・・、既に発売されており、かつ発売開始から数か月しか経っていなかった[3機種]までをも対象として行われたものであること、②本件設計変更により定められた本件基準電流量の設定には、被告の主張する目的に照らして合理的な理由が認められず、かえって互換品カートリッジを排除するためには有効に機能すること・・・に加え、[互換品カートリッジの使用がエラーメッセージの原因である可能性を被告ウェブサイトで説明し互換品カートリッジの使用の排除が強く意識されているという]事情も考慮すれば、本件設計変更は、原告らを含む互換品カートリッジの製造業者に対し、本件設計変更に適合した新たな互換品カートリッジの製造業者に対し、本件設計変更に適合した新たな互換品カートリッジを開発し、製造する作業が必要となる状況を作出することによって、互換品カートリッジの販売を困難にする目的で行ったものと認められる。[原文改行]したがって、本件設計変更に正当化理由は認められない。」
一般指定10項(争点(2))
主たる商品を購入した後に必要となる補完的商品(従たる商品)に係る市場において特定の商品を購入させる行為もこれに含まれるというべきであり、また、ある商品を購入するに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が行為者から従たる商品の購入を余儀なくされるような場合には、当該従たる商品を購入させたと解すべきである。
「不当に」の判断において、
「被告の製造する本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場」
互換品カートリッジ販売業者を上記市場から排除するおそれ
原告らを含む互換品カートリッジ販売業者は、上記市場において相当程度高いシェアを有していたといえること
shiraishi.icon因果関係?
以上により、
一般指定10項該当
エレコムに対する不法行為を構成
一般指定14項(争点(3))
なお、本件設計変更が争点(2)の観点から不法行為を構成することは既に判示したとおりであるから、争点(3)については判断を要しない。
著しい損害
同条所定の独禁法違反行為が、損害賠償請求が認められる場合より高度の違法性を有する場合をいい、その判断においては、当該違反行為及び損害の態様及び程度等を総合考慮して判断すべきものと解される。
否定
今回の設計変更には約3か月後に対応
被告が今後も同じ態様の独禁法違反行為を行うと認めることはできない。
信用毀損なし
事実
ブラザー工業(被告)は「本件各プリンタ」と「本件純正品カートリッジ」を製造販売している。カラークリエーション(原告)とエレコム(原告)は、それぞれ、互換品カートリッジを販売している。インクカートリッジを判決が「カートリッジ」と略称している。裁判所ウェブサイトの判決文には被告の名称がないが、被告が自社ウェブサイトで本判決についてリリースしている(令和3年10月1日)。
被告は、本件各プリンタ5機種のうち遅くとも平成30年9月以降に販売した3機種について、平成30年12月頃以降に製造したものに「本件設計変更」を行った。他の2機種は、平成31年3月以降に販売しており、やはり本件設計変更の対象である。プリンタとカートリッジとの間に「3.3V回路」を設ける「本件認証機能」は従前から存在したが、本件設計変更後の5機種の「本件新プリンタ」は、「1.5V回路」を新たに設け、本件認証機能を作動させるより先に作動させ、「本件基準電流量」を超える電流量を検知した場合には「インクを検知できません 01」というエラーメッセージを表示する。
原告らが販売していた互換品カートリッジは、本件設計変更前の3機種(「本件旧プリンタ」)では使用可能であったが、本件設計変更の結果、互換品カートリッジを2本以上装着した際、エラーメッセージが表示されるようになった。
原告エレコムは、家電量販店等の販売店に対して合計136万1574円の返金をし、苦情を述べた購入者に対して1万4684円の返金をした。
原告らは、平成31年3月頃以降、本件設計変更後の「本件新プリンタ」において使用可能な互換品カートリッジを開発し、販売している。
原告らが、一般指定10項(抱き合わせ販売等)および一般指定14項(競争者に対する取引妨害)を用いて独禁法24条に基づき、認証機能による取引妨害に対する差止請求を行い、原告エレコムが不法行為に基づく損害賠償として1572万9364円を請求した。
判旨
差止請求は棄却。損害賠償請求は上記返金額と弁護士費用13万7626円のみ認容。
Ⅰ 正当化理由
プリンタおよび純正品カートリッジの製造業者のビジネスモデル、本件設定変更の必要性・合理性の有無、互換品排除目的を推認させるその他の事情、について認定したうえで、次のように判示した。「本件設計変更は、原告らを含む互換品カートリッジの製造業者に対し、本件設計変更に適合した新たな互換品カートリッジを開発し、製造する作業が必要となる状況を作出することによって、互換品カートリッジの販売を困難にする目的で行ったものと認められる。[原文改行]したがって、本件設計変更に正当化理由は認められない。」
Ⅱ 一般指定10項
1 「主たる商品を購入した後に必要となる補完的商品(従たる商品)に係る市場において特定の商品を購入させる行為も[一般指定10項該当行為]に含まれるというべきであり、また、ある商品を購入するに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が行為者から従たる商品の購入を余儀なくされるような場合には、当該従たる商品を購入させたと解すべきである。」。
本件設計変更により、本件新プリンタの購入者は、本件新プリンタにおいて使用するカートリッジを購入するに際し、本件純正品カートリッジを購入せざるを得なくなったので、一般指定10項の行為要件を満たす。
2 「[購入させる行為]を『不当に』(独禁法2条9項ハ、一般指定10項)行ったとは、当該行為に公正な競争を阻害するおそれがあることをいい、公正競争阻害性の判断に当たっては従たる商品の市場における競争について検討すべきであり、当該行為に正当化理由が認められるか否かも考慮すべきである。」。
これを本件に当てはめて、「特定のプリンタにおいて使用可能なカートリッジは一定の範囲のものに限定されるのであるから、需要者からみた商品の代替性の観点から、従たる商品の市場は、被告の製造する本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場であるといえる。」と述べたうえで、「本件設計変更は、互換品カートリッジ販売業者を上記市場から排除するおそれがある」、「本件においては、主たる商品は被告が製造販売する商品である」、「原告らを含む互換品カートリッジ販売業者は、上記市場において相当程度高いシェアを有していた」、前記●のように「正当化理由は認められない」、という点を挙げて、公正競争阻害性があるとした。
3 公正競争阻害性のある行為によって競争者に損害を与えることは競争者である原告エレコムに対する不法行為を構成する旨、したがって一般指定14項について判示する必要はない旨、を述べた。
Ⅲ 著しい損害
「独禁法24条にいう『著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがある』とは、同条所定の独禁法違反行為が、損害賠償請求が認められる場合より高度の違法性を有する場合をいい、その判断においては、当該違反行為及び損害の態様及び程度等を総合考慮して判断すべきものと解される。」
原告らが販売できなかったのは短期間であり、「その金銭的損害が事後的な損害賠償請求等による救済により回復しがたい程度であるとまではいえない。」、「被告が今後も本件新プリンタにつき、[同様の]態様の独禁法違反行為を行うと認めることはできない。」、などと述べて、「著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがある」の成立を否定した。