鳥が音の聞えぬ海に、高山を隔てになして、沖つ藻を枕に枕きて、蚕の衣濯ぎも著ずに、鯨取り海の浜辺に、うらもなく宿れる人は、母父に愛子にかあらむ。若草の妻かありけむ。思ほしき言伝てむやと、家問へば、家をも宣らず。名を問へど名だにも宣らず。泣く子なす言だに問はず。思へども悲しきものは、世の中の常
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鳥の鳴き声の聞こえない海に、高い山を風よけにし、沖の海藻を枕にし、蚕の衣すら着ずに、海の浜辺に、裏心もなく寝ている人は、両親にとっては愛し子であろう。妻もいたろう。願うことがあったなら伝えてやろうと、家を問うと、家さえ言わない。名前を問うても、名さえも告げない。泣く子のように何も答えない。思っても悲しいものは、世の中の常のこと