『フィネガンズ・ウェイク』
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1923発表
英語による小説ではあるが、各所に世界中のあらゆる言語(日本語を含む)が散りばめられ、「ジョイス語」と言われる独特の言語表現が見られる。また英語表現だけをとっても、意識の流れの手法が極限にまで推し進められ、言葉遊び、二重含意など既存文法を逸脱する表現も多い。『若き芸術家の肖像』以来の神話的世界と現代を二重化する重層的な物語構成と相俟って、ジョイスの文学的達成の極と評価される。 ジョイスの言葉遊びを最大限活かし、日本語でも言葉遊び・ダジャレを交えて訳している
『翻訳はいかにすべきか』p.182-183
2段目:一般的な対訳スタイル、3段目:柳瀬訳("猫訳"と自称)
First she let her hair fal and down it flussed to her feet its teviots winding coils.
まず彼女が髪を解くとそれはまがりくねった渦をまいて足許に流れおちた。
まず彼女がファルはらっと髪を解くと、それは足もとへ下流しテ美緒ット渦巻をつくったの。
Then, mothernaked, she sampood herself with galawater and fraguant pistania mud, wupper and lauar, from crown to sole.
それから、母なる裸身を見せて、乳液と香りのよいビスタニアの泥で、上も下も、頭の先から爪先までシャンプー洗いをした。
それから、母裸しく、乳白柄の水と芳しい湯ばりの泥を、上から下内へ、冠から足の裏まで散布したわ。
Next she greesed the groove of her keel, warthes and wears and mole and itcher, with antifouling butterscatch and turfentide and serpenthyme and with leafmould she ushered round prunella isles and eslats dun, quincecunct, allover her little mary.
次に尻の講は、いぼも擦り傷もほくろも痔みも、汚れどめのバタースコッチとテレビン油とじゃこう草をぬりたくり下腹一面に腐葉土で丸いすももの島と褐色の小島を、五の目型に、つけていった。
つぎに竜骨の溝をぬるぬるに、庇揖保や擦り傷や小黒や捧みへ汚れどめバタースコッチとテレ芝油と大蛇尾香をぬりつけてから、腐葉土でまあるい潤井の目の島と蒲萄色の乳首の島からおへそまで五ヶ瀬、隈なくまるめろくめぐったわけ。
Peeld gold of waxwork her jellybelly and her grains of incense anguille bronze. And after that she wove a garland for her hair. She pleated it. She plaited it. Of meadowgrass and riverflags, the bulrush and waterweed, and of fallen griefs of weeping willow.
彼女のぶよぶよな腹は金箔のはげかかったろう細工匂いのする肌理は鰻の青銅色。そしてそのあと彼女は髪に飾る花輪を編んだ。それを撚った。それを組んだ。牧草と川菖蒲、薗草と水草、しだれ柳の嘆きの落葉で。
金流の波介た蝋細工のどろどろ腹と香ゆたかな鰻色の肌。そのあと彼女は髪に飾る花輪を編んだの。それを撚ってさ。それを組んでさ。牧草に川菖蒲、蘭草に水草、しだれ柳の嘆きの落葉なんかでね。
Then she made her bracelets and her anklets and her armlets and a jetty amulet for necklace of clicking cobbles and pattering pebbles and rumbledown rubble, richmond and rehr, of Irish rhunerhinerstones and shellmarble bangles.
それから手首の飾りとくるぶしの飾りと腕の飾りとそれに首飾りのための漆黒の護符をかちかち鳴る玉石ぱらぱらいう小石、見事な珍しいころがり落ちる荒石、アイルランドのライン石貝殻おはじきの飾り輪で作った。
それから手首飾りと蝶飾りと腕飾りと、それに首飾りにする漆黒のお護りをこしらえたわ、ごちゃごちゃ碁石、あちゃこちゃ浅瀬石、落石玉石狩集め、ライン石から砥石まで、愛蘭の大石から片貝おはじき石までかちゃがちゃいわせて。
異化なるFin againも恋茄子に音ちる(加藤郁乎)