面白こと言うてくれるやないの
和が雑誌で見つけてきた鳴門のラーメン屋は、細麺の鶏塩ラーメンが名物やった。
あんまり見たことのないおしゃれなラーメンで、もちろん味もなかなかのもんやった。 僕が好きなんはこってり徳島ラーメンやけど、こういうスッキリしたんもええなぁ。 和は東雲さんとエビちゃんに向かって熱心に話をしよった。
ほういえばほんなこと言うたっけ、よう覚えとんなぁ。
「僕らエビちゃんが来る前からよう3人で出かけよったけど、あれ全部デートやけんね」 東雲さんはほう言うてラーメンをすすった。
「はぁ?!」
特製ギョーザを箸でつかんだままの姿勢で、和が止まってしもうた。
エビちゃんも興味深そうに東雲さんの顔を見よった。
いきなりほんなこと言われたらびっくりするわなぁ。まぁ、東雲さんのことやけんしょーもない冗談なんやけど。
「僕と伊勢原さんのデートやけん」
僕は知っとうけど、東雲さんがこういう顔をするときはたいてい下品なことを考えとんよ。
「えっ、俺はなんなんスか?」
和が不満げな声で言うた。
ほうよなぁ?毎回和やってついてきよんのに。むしろ和と東雲さんのデートに、保護者の僕がついてきよんやと思うけどなぁ。
「神田橋さんは僕と伊勢原さんの子供やん。子連れのデートよ」
「おいっ!!」
和は隣に座る東雲さんの横腹をグーで叩いた。
エビちゃんは僕の横で声を出して笑とった。
「ほな今日はどうなんですか?」
エビちゃんが訊くと、東雲さんは小さく何度かうなずいた。
「今日も僕と伊勢原さんのデート。子供が一人増えただけ」
東雲さんの回答に、エビちゃんは大ウケやった。また喉の奥がピヨピヨいいよった。 「すまんな和、エビちゃん、お父さんたちのデートに付き合わせて」
僕が言うと、エビちゃんは「ラーメンが食べれん」と言いながら肩を震わせて笑とった。
「おいエビ!おまえはほんでええんか!?」
和がほう振ると、エビちゃんは笑いながら首を横に振った。
えっ、なんやろ?
「東雲さんばっかりズルいですよ、僕やって伊勢原さんとデートしたいもん」 ほう言うて、エビちゃんはラーメンをすすって、また笑うた。
ちょっとかわいいなって思うてしもて、僕は2秒くらい箸を持ったまま口を半開きにして止まっとった。
「あっ、冗談やな?」
我に返って僕が言うと、エビちゃんは頬を少し赤くしてうんうんとうなずいた。
「アカンてエビ、伊勢原さん真面目やけんほら、真に受けてもうとるやんけ」
和は僕の顔を見て楽しそうに笑うた。
僕は自分の顔が火照るんを感じた。エビちゃん、面白いこと言うてくれるやないの。