このままやと東雲さんの一番のお気に入りの座を取られてまうぞ?
「みなさんおそろいでぇ?ほな出発しまぁす!」
ハンドルを握る東雲さんが楽しそうに言うた。
日曜日、僕達は和の提案で鳴門のラーメン屋に行くことにした。 「車やったら僕も出せるのに」
エビちゃんが僕の横でほう言うた。
「エビおまえ、車の運転なんかできるんか?」
「僕、車通勤しとうよ?」
からかう和に対してエビちゃんが真面目に答えたけん、僕は思わず笑うてしもうた。
エビちゃんは少しむっとして、僕の脇腹をグーで軽く叩いてきた。和の全力グーパンに比べてこのかわいさよ。 「ごめんごめん。エビちゃんもかっこええんに乗っとうもんな?」
確か、エビちゃんの愛車はオフショアブルーのクロストレックやったな。エビちゃんによう似合う落ち着いたきれいな色で、ええと思う。 「エビちゃんは真面目なんやけん、からかわれんよ、神田橋さん」
「へ~い」
東雲さんに言われて、和は不機嫌そうに返事をした。
「エビちゃんは後ろで伊勢原さんとゆっくりしよってくれたらええんよ。僕は運転好きやけん」
「はい、ありがとうございます」
東雲さんの言葉に、エビちゃんは真面目に返事をした。
この差よ。エビちゃんはホンマに礼儀正しい。どこに出しても恥ずかしくない子よな。
和やって根は真面目なんやけど、表面がな~。
「和、このままやと東雲さんの一番のお気に入りの座を取られてまうぞ?」
「嘘やん!?」
僕が笑いながら言うと、和はめちゃくちゃ焦っとった。一番のお気に入りの自覚があったんか。
エビちゃんは僕の横で口元を押えてキャハハと笑いよった。 「僕の一番のお気に入りは、伊勢原さんでぇす!」
めっちゃええ声でほう宣言したんは、もちろん東雲さんやった。
和は助手席で頭を揺らしながら笑とうし、エビちゃんはキャハハを通り越して喉の奥からピヨピヨいいよる。 「そういうわけやけん、すまんな和」
僕は笑いをこらえて、真面目な声で言うた。
和は顔を両手で覆って、ひぃひぃ言いながら笑い転げとった。
東雲さんはたびたびこういうことを言うてくるけんなあ、ほういうときは僕もつい乗ってしまうんよ。