軽蔑しとうくせに
正直言うとショックやった。静が不倫しとったやなんて。
でも、静が深く傷ついとんは僕にもわかった。
裏切られたん、つらかったやろな。黙っとん、しんどかったやろな。
静は涙でぐしゃぐしゃになった顔で僕を見上げた。
僕は静の涙を指で拭った。どんなに拭っても、静の涙は止まらんかった。
静が僕の胸を叩いた。僕は静の手を取った。
細い手首に刻まれたたくさんの傷跡。静はもう、十分すぎるほど自分を罰しとった。 「僕には静しかおらん」
「嘘言うな、軽蔑しとうくせに」
静は僕の手を振り払って、ほう言うた。
僕は両手で静の肩をつかんだ。静は震えとった。
「触るな!」
静が叫んだ。
僕は静の声を無視して、静を抱きしめた。
「触るな、帰れ!」
静は僕の胸でわめいた。
「静、静……怖かったんな。もういけるけんな。僕がそばにおるけん」
僕は静の髪をなでた。
静は僕の服をつかんで、子供みたいに泣きながら言うた。
「帰らんけん」
静の気持ち、全部はわからん。わからんけん、静の痛みを僕にも分けてほしい。
そばにおって、一緒に泣くくらいしかできんけど、それでも良かったら僕をそばに置いてほしい。