責任取れんことをするなよ
次の日、東雲さんは急病とかで会社を休んどった。
携帯の電源は入っとるみたいやけど、メッセージには既読が付かんし、電話も出んかった。 僕は昼飯抜きで集配を済ませると、早退して東雲さんのマンションに向かった。 東雲さんに限って、なんてことはもう考えへんかった。東雲さんやって人間なんやって、大変なことはあるし傷付くんやって、思い知らされたけん。
インターホンを押しても、返事はなかった。
僕はカードケースから東雲さんの部屋のカードキーを取り出した。昔、東雲さんがくれた合鍵で、いつでも使ってええよと言われとったけど使ったことは一度もなかった。
僕はもうめっちゃ嫌な予感がしとって、頭から血の気が引いていくんがわかった。
「東雲さん、勝手に入りましたよ」
リビングには明かりが点いとって、机には高そうなウイスキーと焼酎の瓶が置いてあって、カーペットには東雲さんが倒れとった。 「東雲さん……」
僕が肩に触れると、東雲さんは体を起こして僕を見上げた。泣き腫らした目をしとった。ほれから口元を押さえて、
「吐きそ……」
言い終わる前に、僕の胸に派手にリバースした。
お先にどうぞと言われたけん、遠慮なく先にシャワーを浴びよると、東雲さんが後ろから抱きついてきた。もちろん裸で。
「うわあぁぁ……!?」
「伊勢原さん、相変わらずきれいな体してますね」
僕はまた壁際に追い込まれ、両手を押さえつけられてキスされた。 「キスしたらほら、僕、こんなになってしまいました」
東雲さんは視線で僕に下を見るように促した。東雲さんの体は、これでもかというほど主張しとった。
「責任取れますかぁ?」
「と、取れません……!」
僕が逃げ出すことを、東雲さんは許さんかった。僕も力には自信があるほうやけど、東雲さんには敵わんかった。
「責任取れんことをするなよ!!」
東雲さんは、上品な笑顔を顔に張り付けて声を荒げた。 「エビちゃんにはしてあげよんのでしょ?」
東雲さんは黒目がちな目を細くして僕を見つめながら、低い声でほう言うた。
僕は東雲さんを抱きしめた。東雲さんは声を上げて笑うとった。
東雲さん、ごめんなさい。僕が気付いてあげんかったけん、ちゃんと話せんかったけん、壊れてしもたんやね。
大切な親友やったのに、僕のせいで、こんな……。