花火は僕が持つけん!
外はうっすらと暗くなりかけとう頃やった。
静が僕のほうに手を出して花火を持たせろと言うのがおかしくて、笑うてしもた。
「花火は逃げんけん」
ほう言いながら、僕は静に花火の入った袋を持たせた。
僕と二人きりのときの静はホンマに子供で、無邪気で、純粋や。
僕達は適当な場所でろうそくに火を点けて、花火セットの袋を開けた。
静は早速、七色に光るらしい手持ち花火に火を点けた。
「ホンマに七色に光るんか〜?」
「光るよ!遥は黙って見とき!」
静は横目で僕を見てほう言うと、花火に集中した。
「ほら遥、見たで?七回色が変わったよ」
隣におる僕を見る静と、スマホ越しに目が合うた。
静は恥ずかしそうに笑いながら言うた。
「静がかわいいけん」
「遥も花火しよ」
「どれがええかな?静が選んでだ」
僕が言うと、静は黒い塊を僕に渡してくれた。
「なんこれ?」
「知らん!なんか入っとった!」
僕がライターで火を点けると、黒い塊は煙を出しながら長い燃えかすになった。
「へび玉や」
地味な花火やなぁと思って静の顔を見ると、何が面白かったんか、ケラケラと笑っとった。
静がほう言うて笑うけん、僕もおかしいなって笑うてしもうた。
「僕にもきれいな花火させてだ」
僕がほう言うと、静は別の花火を渡してくれた。
火を点けると、パチパチと火花が四方八方に飛び散った。
「スパーク花火や、これ好きやなぁ」
「僕も好き!」
「静が好きなんはうんこ花火やろ?」
僕が言うと静は笑いながら僕の腕を叩いた。
「うんこも好き!」
「好きなんか……」
「遥も好き!」
「うんこの次に言われるんも複雑やな」
僕が持っとったスパーク花火が終わると、静は僕の腕に自分の腕を絡めてもたれかかってきた。
「遥が好きや」
「僕も、静が好きや」
静とおるときは、僕は一番正直になれる。
花火セットも、いつの間にか線香花火だけになってしもうた。
「どっちが長持ちするか競争や」
僕が言うと、静は「ええよ」とうなずいた
僕たちは二人で線香花火に火を点けた。
線香花火は小さな火花を散らして、やがて燃え尽きてぽたりと落ちた。
「僕の負けや」
僕のほうが、少しだけ早く火が消えてしもうた。
嬉しそうに静が言うたけん、僕は笑ってしもうた。
「今考えた!」
「静には敵わんわ」
僕たちは二人で声を出して笑うた。
それからしばらくすると線香花火も、残り一本だけになってしもうた。
「二人でしよ」
僕はほう言うて、静の隣にくっついてしゃがんだ。
僕たちは二人で一つの花火に火を点けた。
二人とも、黙って一つの花火を見つめとった。
波の音と、線香花火のチリチリいう音だけが聞こえた。
オレンジ色の火球が落ちたとき、やっぱり静はしくしくと泣いとった。
「寂しいか?」
僕が訊くと、静はうなずいた。
「寂しい。でも、遥と一緒に花火ができて嬉しい。遥が優しくしてくれるんが嬉しいよ」
ほう言うて、静は立ち上がった。
僕も立ち上がると、静のほうから僕に抱きついてきた。
「僕も静と花火ができて嬉しい」
僕はいつもみたいに、静の髪をなでた。