抱っこして?
静はベッドに腰掛ける僕に向かって、裸のまま両手を広げた。 「ぎゅってするん?」
僕が訊くと、静は首を横に振った。
「抱っこや」
すねたような口調で静が答えた。
「おいで」
僕は静と同じように両手を広げた。
静が膝に乗った。その重みが心地よかった。
僕は静を両手で抱きしめた。静も僕に抱きついとった。
小悪魔みたいに挑発したかと思えば、子猫みたいに甘えてくる。 僕はほんな静がかわいいてしゃあなかった。
「僕遥の抱っこ好き」
僕の耳元で、静はうっとりした声を出した。
「僕は、静を抱っこするんが好き」
僕は静の頭をなでた。柔らかくてふわふわの髪を触るんが好きやった。 「ほな、いっぱい抱っこさせたあね」
静は僕の背中に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
「静は優しいな」
僕が言うと、静は僕の耳元で「うん」と甘い声でうなずいた。
「今日、楽しかった?」
静が訊ねた。
「楽しかったよ」
僕は答えた。
ベッドの上に脱ぎっぱなしになっとるシャツとスカート。そして、ネクタイと靴下。 「すごく似合っとった、かわいかったよ」
僕が言うと、静は僕にぴったりと体をくっつけたまま、ウフフと笑うた。
「またしたい?」
僕がそう答えると、静は肩を震わせて笑うた。
笑いながら静が言うた。
「うん、かわいいの用意しとく」
僕ははじめ、自分は静にはふさわしいないと思とった。
僕みたいなおっさんが、静みたいな若うてきれいな人と釣り合うはずがないと思とった。
でも、今は違うよ。
今でも僕には何もない。地位も名誉も、お金も若さもないよ。
でも、静のこと一番愛しとるんは僕なんや。
静を一番わかってあげられるんは僕なんや。
静が一番欲しがっとうもん、あげられるんは僕しかおらん。