大切にしてなぁ
「神田橋さん、見てこれ」
月曜の夕方、円は嬉しそうに和にボールペンを見せびらかしていた。 「あっ……いいッス、遠慮します」
「ほんなん言わんと見てだ」
なんとなく想像がついている和は拒否したが、円がそれを許さなかった。
和はしぶしぶ、目の前に突き出されたボールペンに入っている写真を確かめた。
中に入っていたのは、白いビキニを着て砂浜ではしゃいでいる和の写真だった。 「うわああああ!!!」
そして円の手からボールペンをもぎ取ろうとして、失敗してバランスを崩し、円に抱きとめられた。
「はい、危ないよぉ」
「思い出の写真でなにしてくれとんや!」
和は涙ぐみながら円の胸を叩いたが、やはりびくともしなかった。
「これ使うと伝票書くんも楽しいてええわ」
「書くな!!」
「シャーペンもあるよぉ」
「作るな!!」
円は胸ポケットから別の和の写真が入ったシャーペンを取り出して見せた。
やはり、ビキニ姿でご機嫌な笑顔の和だった。
「僕のシャーペンもあるよぉ」
「え?」
もう一本、円が和の目の前に突き出したのは、円の写真が入ったシャーペンだった。
「えっ、なっ、なにっ、これっ……」
それを受け取ってじっくり眺めた和は、声を失った。
そして湯気が出そうなほど顔を赤くして、上目遣いに円を見た。
「あっ、あっ、アホちゃう?」
何とかそれだけ言う和。
「いらんの?」
「いります!!!」
和は慌てて大切そうにシャーペンを両手で握りしめた。
「大切にしてなぁ❤」
円はねっとりした声でそう言うと、和の頭をポンポンと2回叩いて歩き去った。
あとに残された和は、シャーペンの円を見つめたまま固まっていた。
透明な軸に収められた小さな写真の中の円は、筋肉質な体を惜しげもなく晒して、和が見たことのない煽情的な表情でこちらを見ていた。